遺産分割協議10か月 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

法律上、遺産分割協議自体には期限がありません。しかし、遺産分割協議が長引けば、精神的な負担だけでなく、現実的にデメリットもでてきます。特に、相続税が発生する相続では、相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています

遺産分割協議が10か月以内にできない場合は、小規模宅地や配偶者の相続税の軽減のメリットがつかえず、法定相続分で相続税の申告・納付が必要となります。

こうならないためには、遺言の作成が一番の対策となります。

そもそも相続税とは?

相続税は、亡くなられた親などから、お金や土地などの財産を受け継いだ(相続した)場合に、その受け取った財産にかかります。

相続税は、財産を相続した場合に必ずかかるわけではありません。具体的には、相続した財産の額から、借金や葬式費用を差し引くなどした後の額が、一定の額(基礎控除額)を上回るときに、相続税がかかります。

相続税の計算フロー 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

出典:https://www.mof.go.jp/tax_information/qanda021.html

 

最近相続税が発生するケースが増えてきましたが、これは2015年1月から相続税の基礎控除が、「3000万円+相続人の人数×600万円」(以前は、「5000万円+相続人の人数×1000万円」)と低くなったことが理由です。

例えば、相続人が3人、相続財産が8000万円のケースでは、以前は基礎控除が8000万円(5000万円+相続人の人数3×1000万円)あったので、課税資産はゼロとなり、相続税はかかりませんが、2015年1月以降の基礎控除は4800万円(3000万円+相続人の人数3×600万円)ですから、8000万円ー4800万円=5200万円に課税(※)されます。

こうしたことなどにより、実際に相続税がかかる割合は、亡くなられた方の4%程度だったものが、改正後9%程度にまで増えています。

※相続税の計算については、別コラムご参照 ⇒ 相続税の計算ってどうするんだっけ

相続税の申告期限は10か月

相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています。 例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。 

相続税の申告書の提出先は、被相続人の死亡の時における住所が日本国内にある場合は、被相続人の住所地を所轄する税務署です。

相続税の納税は、上記の申告期限までに行うことになっています。納税は税務署だけでなく金融機関などでもできます。

相続税の納税は相続人がおのおの個別に行います。しかし、相続人の間に連帯納付義務があり、相続税を納付しない相続人がいる場合に、適切な措置がないと、ほかの相続人が納付しなければならない場合があります。

こういった事情がある場合ので対策として、延納制度物納制度があります。延納や物納をするためには一定の要件があり、また、税務署で事前手続きが必要です

遺産分割協議が整わない場合でも相続税の申告・納付は義務

10か月以内に、相続人間で遺産分割協議が整わない場合でも、この「相続発生を知って10か月以内に申告・納税」という期限は延長できません。

そのため、相続財産の分割協議が成立していないときは、各相続人などが民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。

民法に規定する相続分の割合で申告した後に、相続財産の分割が行われ、その分割に基づき計算した税額と申告した税額とが異なるときは、実際に分割した財産の額に基づいて修正申告(初めに申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が多い場合)または更正の請求(初めに申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が少ない場合)をすることができます。

「小規模宅地の特例」「配偶者の税額の軽減」などの軽減措置の取り扱い

相続財産の分割協議が成立していないため、仮に法定相続分で相続税を各自が申告・納税した場合は、「小規模宅地の特例」「配偶者の税額の軽減」などの軽減措置は使えないことになります(※)。

※<手続き的な理由>小規模宅地の特例は、原則として相続税の申告期限までに分割されていることが必要です。また、配偶者の税額の軽減は、遺産分割協議書の写しに相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印したもの)が必要です。

このため、本来であれば遺産分割協議で、小規模宅地の特例や、配偶者の税額軽減によって、相続税が発生するのを防げたはずなのに、課税されていまい、遺族が納税の現金不足で苦しい思いをすることになりかねません。

民法に規定する相続分の割合で申告した後に、相続財産の分割協議が終わり、修正申告または更正の請求するときには、上記の特例を適用することができますが、特例の適用ができるのは、原則として申告期限から3年以内に分割があった場合に限られます。

このような措置を求める場合は、事前に、「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」が必要です。(※「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」(国税庁))

遺産の分割前における預貯金債権の行使

ちなみに、今回の相続法の改正(※)で、遺産分割協議前でも、それぞれの相続人が、一定程度の預貯金の引き出しが可能となりました。具体的には、各相続人ごとに「金融機関ごとの預貯金残高×1/3×法定相続分(150万円限度)」です。 

遺産分割協議が整わないで相続税の現金納付をする際には、利用できる制度といえます。

※民法第909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

 ⇒ 上記の制限金額は、法務省令で150万円とされています。

対策は?

相続財産が基礎控除を超える場合は、相続開始後10か月以内に、遺産分割協議を円満に終了させる環境を作っておくことが、大切な相続税対策となります。

具体的には、以下のような対策が有効です。

1.相続財産のリスト化

2.相続人のリスト化

3.遺言書の作成

相続財産が何なのか一から知ればないといけない、相続人が多くて特定できない、などの状況ですと、10か月という期間はあっという間に過ぎてしまいます。「相続財産のリスト化」「相続人のリスト化」がなされていれば、ご遺族の負担はかなり軽減されます。

遺言があれば、遺産分割協議そのものが不要となりますので、さらに適切です。遺言については、他のコラムでも解説していますので、ご覧ください。

当事務所では、円満な相続のための遺言書作成のご相談を承っています。なお、このコラムの記事は、国税庁HP等を参考に記載しましたが、ご不明の税務は国税庁や税理士等の専門家にお尋ねください。

ご参考コラム

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