遺産分割協議 杉並区、練馬区、中野区 | 行政書士中村光男事務所

遺産相続の手続きで、「相続分をゼロにする」と「相続放棄する」は、表面的には似ているように見えますが、法的な効果や実際の運用には大きな違いがあります。

遺産分割協議が妥当な場合←相続人を増やしたくない場合

ケース:夫が亡くなり、家族構成が以下の場合

  • 夫(被相続人)
  • 妻(配偶者)
  • 子供1人(夫婦の子)
  • 夫の妹

(1) 子供が「相続放棄」をした場合

夫が亡くなり、子供が「母に全ての財産を譲るつもりで」相続放棄をすると、法律上の効果として、子供は「最初から相続人でなかった」ものとみなされます(民法第939条)。その結果、夫の相続人は妻と夫の妹になります。

具体的には、法定相続分に基づいて以下のような割合となります:

  • 妻:3/4
  • 妹:1/4

つまり、子供の意図とは異なり、夫の妹にも遺産が分配されることになります。

(2) 遺産分割協議で「相続分をゼロ」とした場合

子供が相続放棄をせず、遺産分割協議において「自分の相続分をゼロとする」形で話し合いをまとめれば、夫の相続人は妻と子供だけとなり、妹は相続人に含まれません。この場合、遺産の100%が妻に引き継がれます。

ポイント
相続放棄では、相続権そのものを失いますが、遺産分割協議では相続権を維持したまま、相続割合を調整することが可能です。

法的根拠 遺産分割協議

(遺産の分割の協議又は審判等)
第907条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

相続放棄が妥当な選択の場合←債務がある場合

相続放棄が適切な場合はどのようなケースでしょうか?

たとえば、上記のケースで、夫が財産以上の借金を残していた場合を考えます。さらに、その借金に妻が保証人として関与している場合、子供が相続放棄をしないと次のような問題が発生します。

  • 子供が相続放棄をしない場合
    子供は、法定相続分(この場合、1/4)の範囲で夫の借金を返済する義務を負います。
  • 子供が相続放棄をした場合
    子供は相続人ではなくなるため、借金の返済義務も免れることができます。

相続放棄は、相続する財産よりも借金が多い場合や、返済義務を回避したい場合に有効な手段です。

法的根拠 相続放棄
(相続の承認又は放棄をすべき期間)

第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

(相続の放棄の効力)

第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

「相続分皆無証明」(事実上の相続放棄)は要注意←債務がある場合

相続放棄手続きは、相続の開始があったことを知ってから3か月以内に、家庭裁判所に申述するだけで可能です。手続き的には簡単なのですが、実務的にはそれでも面倒と考えられるのか、敬遠されがちです。

そこで、実務的には遺産分割協議書で、「資産も負債も引き継がない」または「特定の相続人が全て負債を引き継ぐ」などと記載してしまうことがあります。このように、遺産分割協議書で自分には相続分がないと記載することを「相続分皆無証明」とか「事実上の相続放棄」と呼ぶことがあります。例えば、生前贈与を十分に受けた相続人が、自分はもう相続分はいらないからなどの理由でこのようにすることがあります。

しかし、相続人に債務があった場合は要注意です。なぜなら、被相続人の権利と義務は、相続分に従って、相続人が相続するのが原則です(民法899条)。遺産分割協議書は、相続人間の約束であるので、第三者である被相続人の債権者には対抗できないからです。

相続放棄でなく、遺産分割協議書で、負債の分担も決めるのであれば、予め債権者から債務免除などの確約を取っておく必要があります。

法的根拠 債務免除と相続

民法第519条 債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。
(共同相続の効力)

第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。


第899条
 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

参考 家族法第4版(窪田充見)有斐閣384P

法的根拠

以下は、上記のケースで適用される民法の条文です。

(1) 相続放棄の効果(民法第939条)
「相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなす。」

この規定により、相続放棄をした子供は法的には相続人ではなくなり、他の法定相続人の割合が増加します。

(2) 遺産分割協議の法的根拠(民法第907条)
「共同相続人は、協議により、遺産に属する財産の分割を定めることができる。」

この条文に基づき、遺産分割協議において、相続人全員の合意のもとで、特定の相続人が相続分をゼロにすることが可能です。

(3) 相続人の責任(民法第920条)
「共同相続人は、各自その相続分に応じて被相続人の債務を弁済する義務を負う。」

借金の相続については、この条文に基づき、相続人がその相続分に応じて責任を負うこととなります。

まとめ

  • 相続分をゼロにする遺産分割協議と相続放棄は法的効果が異なる
    • 相続放棄:相続人でなかったものとみなされる(民法第939条)。
    • 遺産分割協議:相続権を維持したまま、遺産の分割方法を調整できる(民法第907条)。
  • 相続放棄をすると他の相続人(例:夫の妹)が相続に加わる可能性がある
  • 借金が財産を上回る場合は相続放棄が有効
    • 借金の返済義務を免れることができる。
  • 遺産分割協議は財産を特定の相続人に集中させたい場合に有効
  • ケースに応じた適切な選択が重要
    • 財産状況や相続人の構成を考慮する。
  • 迷った場合は専門家への相談を推奨。

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