
高度専門職1号(ロ)の方が、本業の傍ら、本業と関連性のある事業を起業することは認められています。この「関連性」とは、業務との関連性のことであって、勤務している会社との関係性のことではありません。
しかし、他の会社でアルバイトなどは、資格外活動の個別の許可がなければできません。また、自分で起業する場合でも、本業との関連性が薄い場合は、同様に資格外と認定されるリスクが高まるので、個別に、入管の窓口で相談するか専門家の意見を聞いた方がよいと思われます。
高度専門職1号(ロ)の在留資格できること
高度専門職1号(ロ)で行うことのできる活動は「ロ 法務大臣が指定する本邦の公私の機関との契約に基づいて自然科学若しくは人文科学の分野に属する知識若しくは技術を要する業務に従事する活動又は当該活動と併せて当該活動と関連する事業を自ら経営する活動」(根拠:出入国在留管理庁「在留資格一覧表」)とされています。
問題は「当該活動と関連する事業を自ら経営する活動」というのが、「法務大臣が指定する本邦の公私の機関との契約に基づいて自然科学若しくは人文科学の分野に属する知識若しくは技術を要する業務」行うものでないといけないのか?という点です。
この点、法務省の「高度人材ポイントQ&A 第22問」ではこう記載しています。
「高度専門・技術活動「高度専門職1号ロ」
【問22】 高度専門・技術活動を行う高度外国人材には、どのような活動が認められますか?【答】 本邦の公私の機関との契約に基づいて、自然科学・人文科学の分野に関する専門的な知識・技術を必要とする業務に従事する活動、例えば、所属する企業において、技術者として製品開発業務に携わる一方、セールス・プロモーション等の企画立案業務を行う活動などが認められます。また、これらの活動と併せて、これらの活動と関連する事業を起こし自ら経営することも可能です。
出典 法務省「高度人材ポイント制Q&A 問22」:https://www.moj.go.jp/isa/content/930001663.pdf 」
それでは、例えば、A社でAI開発を行う技術者が、自分でAI教育事業を、本業の時間外で行うことは、「当該活動と関連する事業」と言えるのでしょうか?
すこし、気になるのは、「当該活動と関連する事業」の当該活動とは、「法務大臣が指定する本邦の公私の機関との契約」、すなわち、A社がらみの事業でないといけないのでは?という点です。
なぜなら、高度専門職1号(ロ)は、高度人材ポイント70点以上取れる方が就職する会社という土俵で行う活動につき、個別に認められる在留資格です。技術・人文知識・国際業務などのように、会社ではなく業務内容に焦点をあてた包括的な在留資格と異なり、転職は認めていないからです。この点を意識すると、A社以外のビジネスに関与できないのでは?という疑問が生じます。
しかし、次に述べるように、在留資格の定義と、法務省のQ&Aを冷静に読むと、「「関連する事業」の範囲は「法務大臣が指定する公私の機関の業務」に限定されない」と読むべきと考えます。
高度専門職1号(ロ)の定義の確認
まず、出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づく高度専門職1号(ロ)の定義は、以下の通りです(「在留資格一覧表」(出入国在留管理庁)を参照)。
「法務大臣が指定する本邦の公私の機関との契約に基づいて自然科学若しくは人文科学の分野に属する知識若しくは技術を要する業務に従事する活動又は当該活動と併せて当該活動と関連する事業を自ら経営する活動」
この定義は、2つの要素で構成されています:
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主活動(A): 法務大臣が指定する日本の公私の機関(例:企業、大学)との契約に基づき、自然科学または人文科学の分野での専門的業務(例:技術開発、研究)に従事する活動。
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付帯活動(B): 主活動(A)と併せて、主活動(A)と関連する事業を自ら経営する活動(例:起業)。
付帯活動(B)は単独では認められず、必ず主活動(A)とセットで行う必要があります。つまり、BはAの補助的・関連的な活動として位置付けられています。
Q&A(問22)の内容の確認
再度、Q&A22問(法務省の公式Q&A より)を見ると・・・
問22: 高度専門・技術活動を行う高度外国人材には、どのような活動が認められますか?
答: 本邦の公私の機関との契約に基づいて、自然科学・人文科学の分野に関する専門的な知識・技術を必要とする業務に従事する活動、例えば、所属する企業において、技術者として製品開発業務に携わる一方、セールス・プロモーション等の企画立案業務を行う活動などが認められます。また、これらの活動と併せて、これらの活動と関連する事業を起こし自ら経営することも可能です。
この答では:
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「これらの活動」とは、主活動(A)(例:企業での製品開発業務)を指します。
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「関連する事業」とは、主活動(A)と内容上関連性のある事業(例:製品開発に関連したコンサルティング事業やスタートアップの経営)を意味します。
「関連する事業」の範囲についての解釈
「関連する事業(B)も、法務大臣が指定する公私の機関の業務でなければならないか?」という点です。定義とQ&Aを総合的に解釈すると、関連する事業(B)は、必ずしも「法務大臣が指定する公私の機関の業務」である必要はありません。理由は以下の通りです。
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定義上の根拠:
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定義では、主活動(A)は「法務大臣が指定する機関との契約に基づく業務」と明記されていますが、付帯活動(B)については「当該活動(A)と関連する事業」としか規定されていません。
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つまり、BはAの内容と関連性があればよく、B自体が「指定機関との契約」に基づく業務であることは要求されていません。Bは、Aを行う指定機関とは独立した、外国人本人が経営する事業(例:個人事業や新規設立会社)であっても構いません。
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Q&Aの具体例:
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Q&Aでは、例として「製品開発業務(A)の一方で、セールス・プロモーション企画(Aの一部)を行う活動」が挙げられていますが、さらに「併せて、関連する事業を自ら経営する」と追加されています。
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ここで「関連する事業」は、主活動(A)の延長線上にあるが、指定機関の業務範囲を超えるものを想定しています。例えば:
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技術者が所属企業(指定機関)で製品開発(A)を行いながら、その技術を活用した独立したコンサルティング事業(B) を個人で始めるケース。
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研究者が大学(指定機関)で研究(A)を行いながら、その研究成果を商業化するためのスタートアップ(B) を経営するケース。
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このように、Bは「指定機関との契約業務」そのものではなく、Aと内容的に関連する独立事業でも可能です。
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法務省の意図と実務:
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高度専門職ビザは、優れた人材が日本で多様な活動を行うことを促す制度です。Q&Aが「自ら経営する」と明記していることから、起業や副業的な活動を想定しています。他社でのアルバイトなどは想定されていません。
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ただし、Bを行うには、あくまで主活動(A)が継続されていることが前提です。つまり、指定機関との契約に基づく業務(A)をメインとしつつ、その関連でBを行うことが条件です。
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まとめ
上記の結論である「関連する事業は、必ずしも「法務大臣が指定する公私の機関の業務」である必要はありませんという点は、2025年7月現在で、某入管窓口にも確認した事項です。しかし、具体事例ごとに「関連する事業」の判断は、個別に担当の入管が行いますので、心配な場合は、必ず個別相談を行うようにしてください。
また、高度専門職1号(ロ)の本業であるA社での職務が中心であることが大前提です。A社での職務時間を犠牲にするような副業は認められません。
さらに、事業としての関連性が薄い活動は「資格外」活動となります。個別の許可なく、そのような活動はできませんので注意が必要です。
行政書士中村光男事務所について