
遺言執行者は、被相続人の遺言に基づいて財産の分配や名義変更などを行う重要な役割を担います。しかし、相続人の中に認知症の方がいる場合、成年後見人がいないと手続きが進められないケースがあるのは本当でしょうか?
遺言執行者の権限
民法第1012条に基づき、遺言執行者は相続財産の管理や遺言の内容を実現するための権限を有しています。基本的に、遺言に記された財産分配の手続きは遺言執行者が単独で行うことができ、相続人の同意は不要とされています。
認知症の相続人がいる場合の問題点
しかし、遺言の内容によっては、相続人の行為が必要な場合があります。
- 遺言にない財産の分配が必要な場合
- 遺言に記載のない財産については、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。この場合、認知症の相続人がいれば、成年後見人を立てなければ協議に参加できません。
- 不動産の名義変更(単独相続以外)
- 遺言で特定の相続人に不動産を相続させる旨が記載されていれば、遺言執行者が単独で登記申請できます。しかし、共有状態の不動産を売却するなど、相続人の意思表示が求められる場合には、成年後見人が必要になります。
- 負担付き遺贈の承認
- 例えば「相続人AはBに金銭を支払うことを条件に不動産を取得する」といった内容の場合、相続人が承認する必要があります。認知症の相続人がいる場合、成年後見人がいなければ適切に手続きを進めることができません。
- 遺留分侵害額請求の可能性
- 「認知症」の方が遺言書で取得する財産が少なく、相続財産額から計算された「遺留分」の金額を下回っている場合には注意が必要です。後日、対象の方の「成年後見人」に就任した方や、対象の方が亡くなられた場合のその方の相続人等から、他の相続人に対して「遺留分侵害額請求」がなされることがあるかもしれません。
成年後見人が必要な場合と不要な場合
✅ 成年後見人が不要なケース
- 遺言で明確に分配内容が決まっており、遺言執行者が単独で手続きできる場合(不動産の単独相続など)。
❌ 成年後見人が必要なケース
- 遺言にない財産の分配を行う場合。
- 共有財産の売却や分割が必要な場合。
- 相続人自身の意思表示が求められる場合。
遺言作成時の留意点
相続人の「遺産分割協議」の手間をなくす目的で「遺言書」を作成する場合には、遺言書で全財産が網羅されているか、また、状況により相続財産や相続人に変更があった場合には、遺言書の変更(遺言書は最後に作成したものが優先されます)も忘れずに行う必要があります。
遺言執行後の財産管理の問題
相続手続が完結できるとはいっても、手続後の財産の管理等の問題は解決しないことに留意する必要があります。例えば、不動産の場合、登記は出来てもその後の管理・メンテナンス等はできません。そこまで考えて、信託や任意後見人の用意を考えるということは、遺言とは別に検討すべき重要な事項です。
まとめ
遺言執行者がいるからといって、すべての手続きを単独で進められるわけではありません。認知症の相続人がいる場合、遺言の内容次第では成年後見人の選任が必要になるケースもあります。相続手続きを円滑に進めるためには、遺言の作成時にできるだけ明確な指示を記載し、成年後見制度の活用も検討することが重要です。
相続や遺言のご相談があれば、お気軽に当事務所までお問い合わせください。