相続では、被相続人の財産上の権利(プラスの財産)と義務(マイナスの財産)を包括的に引き継ぎます。
プラスの財産としては、現金・不動産・自動車・貴金属などの目に見える有体物もあれば、貸金債権・借地権・損害賠償請求権・知的財産権などのように目に見えない無形物もあります。
マイナスの財産としては、未払いの借入金・損害賠償義務などがあります。
ただし、一身専属的な権利義務であれば相続の対象とはなりません。例えば、画家が、ある人物の肖像画を描く契約を締結し、一部支払いを得ていたが、仕事は完成することなく死亡してしまったケースでは、肖像画を描く債務は、その画家ならではの一身専属の債務ですから、息子が父の債務を相続することはありません。
ただ、この場合でも、仕事が未完成のため返金しなければいけない金銭があるときは、これは、通常の金銭債務ですので、相続対象となります。
【生命保険金は相続財産ではない】
Aさんが妻や子を受取人にして生命保険をかけていた場合、Aさんが死亡した際に支払われる生命保険金は、相続財産でしょうか。答えはNoです。
「親が子供を受取人にして生命保険料を負担してくれていた」のであれば、心情的には「相続財産」と考えるのが普通のように思えますが、最高裁平成16年10月29日の判例では、下記の理由を挙げて、「生命保険金は相続財産ではない」としています。
①死亡保険金請求権は,その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するのであって,保険契約者又は被保険者たる被相続人から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産に属するものではないというべきである 。
②死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない。
このように、死亡生命保険金は、相続財産でないということになりますと、遺留分や特別受益のような相続人間の公平を調整する規定対象にはならないことになります(ただし、例外的に、著しい不公平が生じる場合は、特別受益に関する903条の類推適用があると、上記判例は言っていますが・・・(注))。
【生命保険金は相続財産ではないが、みなし相続財産とされる】
死亡保険金は、上記のように、判例では民法上の相続財産ではないとされていますが、税務上は、相続財産と同じように扱われており、相続課税対象です。これを「みなし相続財産」といいます。
みなし相続財産の例としては、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金や、死亡退職金があります。
ただし、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が認めれており、その非課税枠を差し引いた金額が、相続税の課税対象となります。
計算式は、各相続人の課税金額=(「相続人が取得した死亡保険金の額」-500万円×法定相続人の数)×(取得した保険金額÷すべての相続人が取得した保険金の合計額)です。この非課税枠は有効に使いたいものです。
なお、非課税の枠があるのは、相続人だけですので、第三者や内縁の妻や夫、相続放棄をした人が受取人の場合は、全額相続税の対象となります。
民法上は相続財産ではないが、税法上は相続財産とみなされる・・。税法は実質を見ているということですね。
(注 ご参考) 「 被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる。」最高裁平成16年10月29日