第三の道:マンション大規模改修の要件緩和の流れ / 杉並区の行政書士が解説します。

マンションが老朽化したとき、住民のとる道は敷地売却か立替えの2択でしょうか?いいえ、第三の道、「大規模改修(修繕ではありません)」があります。

2022年11月1日の報道で、政府が分譲型の老朽マンションの大規模改修をしやすくする検討に入ったとの記事がありました(日経新聞等)。

具体的には、「個人が占有する部分を含むマンションの大規模改修は現在「所有権者全員」の同意が必要だが、これを”5分4以下”にする」というもので、2024年度に区分所有法の改正を目指すとされています。

地震の際の安全性に問題のあるマンションを、立替えよりは経済的な大規模改修(骨格を変えずに内外装や設備、間取りを変えて耐震性を高める工事)しやすくすることで、マンションで安全に住める期間を延ばそうというものです。

都市部ではマンションにお住まいの方が多く、東京都では7割、神奈川県で5割です。マンションの区分所有者には、大変興味がある報道です。どのような意味があるのでしょうか。

良く管理されたマンションの寿命は100年?

2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」によって、建物の「耐震性」と「耐久性」について判定基準ができました。

具体的な内容は、以下のとおりですが、この基準から言うと、建築基準法に合致したマンションであれば、震度7強程度の地震でも倒壊しにくいとされます。また、建物寿命も、管理さえしっかりしていれば100年もつとも言われています。

①耐震性(自然災害への強さ)

震度6強~震度7程度の地震を想定し、どれだけ倒壊・崩壊しにくいかを評価する指標です。1~3の等級で表わされます。等級は数字が大きいほど性能が高いことを示し、等級1(建築基準法の最低ライン)でも震度6強~7クラスの地震で建物が倒壊しない性能です。等級2はその1.25倍、等級3は1.5倍の強さがあります。
住宅性能評価協会のデータでは、評価対象(免震構造は対象外)はすべて等級1~3ですから、ひとまず安心です。

住宅性能評価・表示協会 令和2年度(共同住宅)

②耐久性(建物の寿命)

鉄筋や鉄骨、コンクリートなど、材料の劣化の進行を遅らせるための対策がどの程度とられているかを評価する指標です

建物の耐久性は「劣化の軽減」で表示され、等級1は建築基準法を満たすレベル、等級2はおおむね50~60年(2世代)はもつレベル、等級3はおおむね75~90年(3世代)の耐久性レベルです。

令和2年データでは、等級3(3世代)が約66%で最も多く、等級2は約12%、等級1は21%程度となっています。

今のマンションの多くは、通常の維持管理を行っていれば100年近くは長持ちすると考えてよいと言われています。

住宅性能評価・表示協会 令和2年度(共同住宅)

共有部分の大規模「修繕」工事については要件は緩和されている

上で見たように、マンションは管理や修繕をしっかりすれば、寿命が延びます。技術は進歩していますので、耐震補強工事と大規模修繕工事を同時施工することもできるようになったそうです(参考:アメニティ新聞)。

通常、10年おき程度に行われるマンションの大規模な修繕は、共用部の工事です。

共用部工事でも、住民の方の同意が必要です。

以前の区分所有法(「建物の区分所有等に関する法律」)では、共用部分の変更のうち、改良目的で、かつ著しく多額の費用を要しないものは、過半数の普通決議でできるというルールでした。

しかし「著しく多額な費用」という基準はあいまいでしたので、理事会としては、住民からのクレームを恐れますので4分の3以上の賛成が必要な特別決議を選択する傾向にありました。住民の4分の3以上の賛成を得るのは大変なことですから、結果的に必要な修繕工事も進みにくいという状況でした。

そこで、区分所有者が協力して機動的に修繕工事を行うことができるように、2002年の改正で、共用部分の変更について、形状または効用の著しい変更を伴わないものは費用に関係なく、普通決議で行うことができるとされています。(法17条1項)。

区分所有法

(共用部分の変更)
第17条 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

2 前項の場合において、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。

しかし、このルール改善は、あくまで共用部分の大規模修繕工事に関するものです。

マンションの専有部分の工事も含む場合は、民法の原則通り「該当の占有者全員の同意」が必要です。

(上の条文の「2共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすべきときは、その専有部分の所有者の承諾を得なければならない。」という条項もこのことを示しています。)

マンションの耐震性向上には、占有部分に手を入れる必要あり。

マンションの耐震補強には、精密な耐震診断が必要です。その結果、建物の耐震補強が必要となった場合には、次のようなポイントがあると言われます。

①抵抗要素である壁⇒絶対量が足りているか。
②壁の接合部⇒不十分でないか。部材か劣化していないか。
③壁の配置⇒バランスよく配置されていないか。

これらの点でマンションを補強しようとすれば、どうしてもマンションの専有部分(内装など)にも手を入れざるを得ません。このとき、専有部分全員の賛成が工事開始の条件となると不都合です。

また、相続等で誰が所有者か分からないというケースでは、その人を探すのも一苦労です。

今回の、区分所有法改正の動きは、このような不便さを解消し、マンションを建て替えなくても長期にりようできるようにしようという目的があると思われます。実現すれば画期的です。

所有者の同意なしに、専有部分も工事対象にすることができるようにするのですから、法文も限定的な表現になると思われます。今後の動きが注目されます。