最近、デパートの金製品の展示場から金のお椀(約1000万円相当)を盗んだ犯人が、数日後に逮捕されたものの、既に金のお椀は買取業者に売却されていたという事件がありました。
そもそも盗品が善意の第三者に転売されていたらどのような法律関係になるのでしょうか?基本的な考え方を整理します(お断り:この事件がどう判断されるかとは無関係な基本事項の整理です)。
民法の原則は即時取得
民法では、ある動産を取引(売買など)によって取得した場合、売ってくれた人が所有者だと信じており、そのことについて落ち度がないならば、買った人がその動産の所有権を取得するという考え方をとっています(民法192条)。これを即時取得と言います。
○条文
(即時取得)
民法第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
→何故この様な制度が必要なのでしょうか?
もしその商品の「真の所有者」が現れたら、返さなければならないルールなら、消費者は、お店で時計を買うにしても、「本当にこの時計はこのお店の所有物なのか?」と、疑って、まずは所有権を調査してからでないと安心して買えなくなります。
しかし、こんなことを日本中の消費者が日々するとなると、日常的な経済活動が停滞するでしょう。
そこで民法は善意の買い手を保護しているのです。
盗まれた人の保護の仕組み
ただし、盗まれた人のことも考える必要があります。冒頭の事件であれば、金製品が盗まれて犯人も分かり、売却した店も突き止めたのに、お店は即時取得を主張して、盗品が戻って来ないのは可哀想です。
そこで民法は盗品については、2年以内ならば、被害者の保護も図っています。
○条文
(盗品又は遺失物の回復)
民法第193条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
但し、善意の第三者も代金を払っているので無償で返さなければならないのは可哀想です。
そこで、フリマアプリで盗品の時計を買ってしまったとき、盗まれた人(真の所有者)から盗難後2年以内に返還を要求されたら返さなければいけませんが、真の所有者は、善意の購入者に、購入者が支払った代金は支払わなければならないのです。
○条文
民法第194条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
古物商の例外規定
盗品等を買い取った者が古物商である場合は例外規定があります。
公の市場や同業者などから善意で譲り受けた場合でも元の所有者は1年以内であれば無償で返還請求することができます(古物営業法20条)。
これは古物商が盗品や遺失物を扱わないよう責任を加重したものです。ただし、この場合でも競売によって取得した場合は適用されません。ただし、古物商が取得した物が商品券やビール券といった場合にも適用はありません
○条文
(盗品及び遺失物の回復)
古物営業法第20条 古物商が買い受け、又は交換した古物(指図証券、記名式所持人払証券及び無記名証券であるものを除く。)のうちに盗品又は遺失物があつた場合においては、その古物商が当該盗品又は遺失物を公の市場において又は同種の物を取り扱う営業者から善意で譲り受けた場合においても、被害者又は遺失主は、古物商に対し、これを無償で回復することを求めることができる。ただし、盗難又は遺失の時から1年を経過した後においては、この限りでない。
古物商から消費者がその盗品を買っていたら
冒頭の事件では、犯人が逮捕されたときには、そのお店は客に盗品だった金のお椀を販売していたそうです。このときは、お客は消費者ですので、元の所有者との関係は、民法193条と194条のルールが適用されますから、盗まれてから2年以内であれば、お客が払った代価を払って盗品を返還してもらえることになります。
まとめ
盗品が善意の第三者に売却された場合、民法により、2年以内であれば真の所有者は、善意の第三者が支払った代価を支払うことで、盗品を取り戻すことができます。古物商が過失なく盗品を買い取った場合は、古物商法により、1年以内に真の所有者から返還請求を受けたら無償で返還しなければなりません。しかし、古物商から消費者に転売されていた場合は、また民法のルールに戻ります。
〇盗品が転売されたケースの法律関係〇 | 元の所有者が返還請求できる期間 | 第三者が払った代価の弁償 | 根拠 |
泥棒⇒善意の第三者(古物商以外) | 2年 | 必要 | 民法192,193,194 |
泥棒⇒善意の第三者(古物商) |
1年以内 |
不要 | 古物商法20 |
1超~2年以内 |
必要 | 民法192,193,194 | |
泥棒⇒善意の古物商⇒善意の第三者 | 2年 | 必要 | 民法192,193,194 |