会社の総務担当者が替わるとき、前任者から事務や課題の引継ぎはあっても法律関係は引継ぎから外れていることが多いので、わが社は決算の公告をどのような法根拠で行っているのかと正面から聞かれると、困ってしまうことあるかと思います。
会社総務の運用上、ミスの出やすい役員変更登記漏れと決算公告漏れのうち、役員変更登記は、前回のブログで書きました。今回は、「決算公告漏れ」についてです。
実態として、決算公告をしていない会社も数多く存在すると言われています。面倒であることや、会社の内情をオープンにしたくないという理由もあるようです。しかし、会社法では会社の規模にかかわらず、計算書類の開示義務があります(罰則規定あり)。コンプライアンスや社会的信用の向上のためにも、決算公告のルールを今一度確認し。自社の現状を点検しておくことはよいことだと思います。
結論
決算公告を行う簡単な方法は、自社のホームページでの開示と思われます。公告の媒体には、会社法の原則は、定款で選んだ方法か、指定が無ければ官報となっていますが、決算の公告については、定款の定めに関わらず、自社のホームページで開示してもいいとなっています。ただし、その場合は、URLを登記しておくことが必要です。またこのとき、資本金が5億円未満の会社であれば、開示は貸借対照表だけでいいことになっています(ただし、要約版はダメ)。
そもそも公告とは何か
「公告」とは、官報その他の方法により、特定の利害関係者に限らず広く会社の情報を公開することをいいます。
会社の行う法定公告は、合併公告・資本金の額の減少公告・準備金の額の減少公告・解散公告などのように、法令で官報掲載と定められているものもあります。決算公告・株券提出公告・基準日設定公告などは、官報、日刊新聞紙(時事に関する事項を掲載するもの)又は電子公告のいずれかに掲載すればよく、いずれに掲載するかは会社の定款によって定めることになっています。
決算公告に関するルールは?
会社法の以下の条文が重要です。
第440条
1項 株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。
2項 前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第1項第1号又は第2号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。
3項 前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第1項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後5年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。
4項 金融商品取引法第24条第1項の規定により有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社については、前三項の規定は、適用しない。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告
(略)
3 会社又は外国会社が第1項第3号に掲げる方法を公告方法とする旨を定める場合には、電子公告を公告方法とする旨を定めれば足りる。この場合においては、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、同項第1号又は第2号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
4 第1項又は第2項の規定による定めがない会社又は外国会社の公告方法は、第1項第1号の方法とする。
ポイントは以下の通りです。
1.株式会社は規模の大小にかかわらず、定時株主総会の終結後、遅滞なく貸借対照表を公告する必要があります。(会社法440条第1項)
また、大会社(会社法での大会社とは、資本金の額が5億円以上又は負債の額200億円以上である会社を言います)の場合は、貸借対照表及び損益計算書を公告する必要があります。
そして、決算公告漏れや不正な公告があった場合は、「100万円以下の過料に処する」となっています(会社法976条2号)。
2. 次に、会社の公告方法は、次の3つの方法の一つを定款で定めることが必要です。(会社法939条)何も規定されていない場合は、「官報」によります。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告(ホームページ等)
コスト面では、官報(※)は6万円~程度、全国紙では50万円~程度かかります。自社ホームページ等インターネット上で電子公告を自社で行うなら、コストはそれほどかかりません。
官報掲載の料金例 https://kanpou.npb.go.jp/pdf/s_guide.pdf
3.定款で、公告の方法を①官報、②日刊新聞を選択している会社は、貸借対照表の要旨(全文でない)を公告すれば足りる(会社法440条第2項)。
これは簡単でいいですね。例えば、最近の官報で公示されていた会社の決算公告の例を見ると、下のように簡略です。ほぼ先程のサンプルと同じなので、料金は6~7万円程度でしょうか。
4. 定款で「官報や日刊新聞で公告」としていても、決算公告はホームページでも可能(会社法440条第3項)。
会社等の公告方法を官報又は日刊新聞紙による方法としている場合であっても,決算公告のみをインターネット上のホームページに掲載することも可能です(会社法第440条3項,一般法人法第128条第3項,第199条)。この場合は、貸借対照表の内容は、官報等に掲載する際には認められた「要約」ではなく、「全文」を掲示します。この場合、5年間は掲示義務があります。
また、貸借対照表等が掲載されるウェブページのURLを登記する必要があります(会社法第911条第3項第26号,一般法人法第301条第2項第13号)。
5.有価証券報告書提出会社(※)は、より詳しい内容の開示をしているので、会社法による決算公告の義務は免除されています(会社法440条第4項)。
※金融商品取引法第24条 有価証券報告書の提出の義務のある会社とは以下の通りです。
・上場企業(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場等)
・非上場ではあるが店頭登録されている有価証券の発行者
・「半年間で50名以上への勧誘」「年間で累計1億円以上の募集を行う」予定で、有価証券届出書または有価証券通知書を提出する有価証券の発行者
・「所有者が1,000人以上いる株券」等の発行者
定款で「電子公告」を選択した場合
1.決算公告のみホームページで行う場2.決算も他の公告事由もホームページで行いたい場合
会社法上、決算公告のみホームページで行う場合は、定款上の公告の方法は、官報や日刊新聞となっている場合でもいいとされているので、定款を変更する必要はありません。
2.決算も他の公告事由もホームページで行いたい場合
この場合は、定款にその旨を記載する必要があります。電子公告は平成17年からできた制度ですので、それ以前の会社であれば定款変更が必要です
定款で、電子公告を選択した場合、決算公告を行う場合のポイントは以下の通りです。
①決算書類の全文掲載となる。
先に述べたように、日刊紙や官報で決算公告を行う場合は、貸借対照表(大会社は加えて損益計算書)の要旨のみ掲載すればよいことになっていますが、ホームページでの決算公告の場合は、要旨ではなく全文を掲載することが必要です。
②URLの登記が必要
会社等が定款を変更して電子公告を公告方法とした場合には,2週間以内に,本店(主たる事務所)所在地の管轄登記所に登記の申請をします。この場合には,公告方法のほかに公告ホームページのURL(共通ページで可)についても登記を要します。
③5年間の掲載が必要
まとめ
ディスクロージャーが会社の信用を高めます。決算決算公告は、電子公告を定款で選択していなくても、上記のように会社法第440条3項で、ホームページで開示が可能です。詳細な開示にはなりますが、官報や日刊紙に比べれば、コストは抑えられます。メリデメを考えて、自社に好ましい方法を選択されるべきかと思います。
参考 法務省 電子公告制度について
国立印刷局 会社法法定公告について
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