このところ、少し収まって来た感じはありますが、まだまだ円安と言う言葉を聞かない日はないように思います。
現在の円安の主たる原因は、日米金利差です。米国の金利すなわち債券の金利は今、高いのです。では今、日本円を使って米ドル建ての債券を買うタイミングなのでしょうか。
つい最近、日系企業が発行した5年物の米ドル建新発債券のケースをたたき台に考えてみました。
最初にお断りしておきますが、今日の記事は、「債券を5年後の償還日まで売らずに保有しつづけること」を前提にしして、為替の変動が外債購入のトータルな収益にどのような影響があるかを、かなり大雑把に計算したものです。投資のご参考にしていただこうというより、頭の体操的な読み物ですので、ご了承ください
(上場株式と異なり、債券の流動性はやや劣ります。また金利水準や発行体の信用力の変化などで、債券の時価(売買価格)は思ったより低くなることも多いです。したがって、途中で売買することも考えると、為替変動だけでなく、単価の動きも大きな要素となります。この点は、今回は考えておりません。)
最近の米ドル建債券発行事例
本日、たまたま目にした某証券会社のホームページにあった個人向けの新発債の概要を見て、「これは確かに高利回りだ。でも今買ってお得なのだろうか?」と思ったのがきっかけです。
例 某証券会社のHPで見つけた米ドル建て債券の例
発行体○○社(日本メーカー)
利率3.74%(税引き後)
単価100(ディスカウントなし)
購入1000ドル以上
利回り3.74%(税引き後)
償還5年後
発行2022/12/1
外債購入の損得計算の方法
上記の債券はドル建てですので、例えば1万ドル購入すると、今日の為替ですと、1万ドル×136.5円=136.5万円必要です。
そして、5年間は年2回の利払い日に1万ドル×3.74%×1/2=187ドル支払われます。これを円で受け取るように指定した場合は、その時の換算レートで円で入金されます。
そして、5年後の償還日に1万ドルが償還されて、やはりドルで受け取るかその時の為替で円転して入金させるかになります。
結局のところ、外債を円で購入する場合、①最初に支払う金額(マイナス)+②期中に利子としてもらう金額(プラス)+③最後に償還金として受けとる金額(プラス)のトータルが、プラスになるか、マイナスになるかが問題です。
これらの数字は、ドルでは確定しています(収入が確定しているので債券のことをFixed Incomeと言います)。しかし、円で考えると①は最初に分かりますが、②と③は、今後の為替しだいとなります。
今の為替と金利水準は
2022年12月1日現在の1ドル=135.6円、または5年金利が3.74%(税引後)はどのような水準でしょうか。
過去5年のドル/円の為替の動きと、米国の5年債(国債)の金利(これは税引前)の水準は以下の通りです。
これを見ると、現在はかなりのドル高の時期(これからドル安になると思えば、ドル建て債券を買うのはためらう)であることが分かります。同時に、かなりの高金利(ここを重視すれば、ドル建て債券は買い時とみてもよい)であることも分かります。
冒頭の債券は、非常に人気ですべて売れきれたようですので、今は、ドルが下がる恐れよりも、相対的に金利が高い魅力が勝っているのかもしれません。
今、米ドル建て債券(期間5年、利率3.74%(税後))を1ドル136.5円で買うと・・・
2022年12月1日のドル円の水準は、概ね136.5円でした。この為替水準で、1万ドルだけこの債券を買ったとします。
5年後、この決断は良かったと思えるかどうかは、今後の為替水準によることが分かるように単純計算します。
前提として、5年後のドル円の水準を3つのパターンで予測します。
そして、計算しやすいように5年間の平均為替は「(現在値136.5円+5年後の予測為替)×1/2」と仮定します。
このようにして、計算すると・・・
①5年後のドル円=130円のとき、通算損益は183千円(年換算利回り2.69%(税後))
②5年後のドル円=120円のとき、通算損益は74千円(年換算利回り1.09%(税後))
③5年後のドル円=110円のとき、通算損益は-34千円(年換算利回り -0.51%(税後))
となりました。
今後さらに円安が進む可能性もありえますが、そのときは買ってよかったということですね。
結論として、5年後この債券を買ってよかったかどうかは、誰にも予測できないということかと思います。
ただし、個人の場合は、5年後に為替が思ったよりも円高だったとしても、円で受け取らずドルのまま再投資すれば、ドル円の為替損は現実には発生しないと考えられます(法人だと、現実に円転するかしないかにかかわらず、その時点で為替損益は収益計算しませすので、こうはいきませんが。)
まとめ
今回は、冒頭書いたように頭の体操?のようなお話でした。
ざっくり言えば、金融市場は、よくできていて全ての条件(リスクとリターン)は金融商品の価格に織り込まれているはずです。また、リターンが大きいならリスクも相応にあるはずですし、逆も真です。
為替レートや金利などは、市場参加者がとても多いので、誰かがお得な情報をこっそり持っているということはありえず、万一、売り手と買い手のどちらかが明らかに損をしたり、得をしたりする価格のゆがみがあればあっという間に、売り買いが殺到してもとに戻るはずです。
身も蓋もないですが、上記の債券を購入してもしなくても、または、円で銀行預金をしようが、円をドル転して外債を買おうが、そのリスクリターンはそれほど変わらないはずと大きく構えてよいように思います。
ただ、全ての資産を円で持つ行動は、卵を一つのかご(=金融商品の種類)に入れているとも形容されます。かご(=金融商品の種類)は分散しておいた方が安心です。その意味で、ご自分のポートフォリオに、為替変動リスクのあることを認識したうえで外債を少し所有するのも悪い選択ではないと思います。
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