2022年7月時点で、最近の年金制度に関するトピックスをまとめました。
1.老齢年金の繰上げ受給と繰下げ受給が見直されました。(2022年4月から)
2.働きながらもらえる在職年金が見直されました。(2022年4月から)
3.短時間労働者の厚生年金保険への加入が拡大されます。(2022年10月から)
4.「わたしとみんなの年金ポータル」が開設されました。
1.老齢年金の繰上げ受給と繰下げ受給が見直されました。(2022年4月から)
改正事項 | 改正前 | 改正後 |
老齢年金の繰上げ 減額率の変更 | 1か月に0.5%の減額 (2022年3月まで) | 1か月に0.4%の減額 (2022年4月以降) |
老齢年金の繰下げ 上限年齢の変更 | 上限年齢 70歳 (2022年3月まで) | 上限年齢 75歳 (2022年4月以降) |
(1)繰上げ受給をした場合の減額率が、1月あたり0.5%から0.4%に変更されました。この改正は、2022年3月31日時点で、60歳に達していない方(昭和37年4月2日以降生まれの方)が対象となります。
(2)老齢年金の繰下げの年齢について、上限が70歳から75歳に引き上げられました。また、65歳に達した日後に受給権を取得した場合についても、繰下げの上限が5年から10年に引き上げられました。この改正は、2022年3月31日時点で、70歳に達していない方(昭和27年4月2日以降生まれの方)または受給権を取得した日から5年経過していない方が対象となります。
今回の改正では、年金を65歳前に受給開始の場合の1月当たりの減額率が0.5%⇒0.4%と緩和されました。一方で、繰下げ受給の増加率は1か月0.7%に据え置かれたものの、75歳まで受給開始を引き延ばせることになりました。受給を1年繰り下げるごとに、年金額は0.7%×12=8.4%アップしますので、75歳まで受給開始を繰り下げれば、84%増となり、年金額は1.84倍になります。
65歳以上男性の受給権者の合計受給額の平均は月額17万円程度と言われています。この数字をベースに、仮に65歳で受け取る年金を200万円として、65歳で200万円を受取開始する場合と、75歳で200万円×1.84=368万円を受取開始するケースを仮定して、単純に受取額面金額の累計を比較してみました。
すると、下記の計算のように、年金の生涯受取累計額面の損益分岐点は85歳から86歳になりそうです。
実際には、年金が増えれば社会保険や税も増えますし、寿命は誰にも分りませんので、繰下げがベストの選択とも言えません。早いうちに年金を受領開始して生活を楽しむ方を選択することもできます。その人なりの考え方がより重要になると思います。
なお、年金の請求は5年間遡及できますので、69歳まで年金を請求しないでおいて、その時に、65歳から遡って、増額されない年金を5年分請求するか、70歳から増額(0.7%×12×5=42%)された年金を受給開始請求するかを選択する方法もあります。https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html#cms03 (年金機構HPへリンク)
65歳受取開始 単位万円 | 75歳受取開始 単位万円 | ||||
毎年の年金 | 累計受取金額 | 毎年の年金 | 累計受取金額 | 差額 | |
65歳 | 200 | 200 | 0 | 0 | -200 |
66歳 | 200 | 400 | 0 | 0 | -400 |
67歳 | 200 | 600 | 0 | 0 | -600 |
68歳 | 200 | 800 | 0 | 0 | -800 |
69歳 | 200 | 1,000 | 0 | 0 | -1,000 |
70歳 | 200 | 1,200 | 0 | 0 | -1,200 |
71歳 | 200 | 1,400 | 0 | 0 | -1,400 |
72歳 | 200 | 1,600 | 0 | 0 | -1,600 |
73歳 | 200 | 1,800 | 0 | 0 | -1,800 |
74歳 | 200 | 2,000 | 0 | 0 | -2,000 |
75歳 | 200 | 2,200 | 368 | 368 | -1,832 |
76歳 | 200 | 2,400 | 368 | 736 | -1,664 |
77歳 | 200 | 2,600 | 368 | 1,104 | -1,496 |
78歳 | 200 | 2,800 | 368 | 1,472 | -1,328 |
79歳 | 200 | 3,000 | 368 | 1,840 | -1,160 |
80歳 | 200 | 3,200 | 368 | 2,208 | -992 |
81歳 | 200 | 3,400 | 368 | 2,576 | -824 |
82歳 | 200 | 3,600 | 368 | 2,944 | -656 |
83歳 | 200 | 3,800 | 368 | 3,312 | -488 |
84歳 | 200 | 4,000 | 368 | 3,680 | -320 |
85歳 | 200 | 4,200 | 368 | 4,048 | -152 |
86歳 | 200 | 4,400 | 368 | 4,416 | 16 |
87歳 | 200 | 4,600 | 368 | 4,784 | 184 |
88歳 | 200 | 4,800 | 368 | 5,152 | 352 |
89歳 | 200 | 5,000 | 368 | 5,520 | 520 |
90歳 | 200 | 5,200 | 368 | 5,888 | 688 |
91歳 | 200 | 5,400 | 368 | 6,256 | 856 |
92歳 | 200 | 5,600 | 368 | 6,624 | 1,024 |
93歳 | 200 | 5,800 | 368 | 6,992 | 1,192 |
94歳 | 200 | 6,000 | 368 | 7,360 | 1,360 |
95歳 | 200 | 6,200 | 368 | 7,728 | 1,528 |
96歳 | 200 | 6,400 | 368 | 8,096 | 1,696 |
97歳 | 200 | 6,600 | 368 | 8,464 | 1,864 |
98歳 | 200 | 6,800 | 368 | 8,832 | 2,032 |
99歳 | 200 | 7,000 | 368 | 9,200 | 2,200 |
100歳 | 200 | 7,200 | 368 | 9,568 | 2,368 |
2.働きながらもらえる在職年金が見直されました。(2022年4月から)
改正事項 | 改正前 | 改正後 |
在職老齢年金の見直し | 年金+給与(総報酬月額相当*)=28万円を超えると年金がカットの対象 (2022年3月まで) | 年金+給与=47万円を超えると年金がカットの対象 (2022年4月以降) |
*月給(標準報酬月額)に、直近1年間の賞与を12で割った額を足した額です。
2022年3月以前の65歳未満の方の在職老齢年金制度は、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「28万円」を超えない場合は年金額の支給停止は行われず、「28万円」を上回る場合は年金額の全部または一部について支給停止されていました。この在職老齢年金制度が見直され、2022年4月以降は65歳以上の方と同じように、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の基本月額の合計が「47万円」を超えない場合は年金額の支給停止は行われず、「47万円」を上回る場合は年金額の全部または一部について支給停止される計算方法に緩和されました。
計算方法はこちら⇒https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html (日本年金機構HPへリンク)
3.短時間労働者の厚生年金保険への加入が拡大されます。(2022年10月から)
改正事項 | 改正前 | 改正後 |
厚生年金保険の加入対象者の拡大 | 被保険者数501人以上の企業が対象(2022年9月まで) | 被保険者数101人以上の企業が対象(2022年10月から) |
法律改正により、パート・アルバイトの社会保険の加入条件が変わります。
(1)対象企業が徐々に拡大します。
【現在】 従業員数501人以上 ⇒【2022年10月~】授業員数101人以上 ⇒【2024年10月~】授業員数 51人以上
ここでいう、従業員数とは、「フルタイムの従業員数」+「週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数(パート・アルバイトを含む)」です。
(2)新たな加入対象者は、以下のすべてに当てはまるパート・アルバイトの方です。
□ 週の労働時間が20時間以上
□ 月額賃金が8.8万円以上
□ 2か月を超える雇用の見込みがある
□ 学生ではない
4.「わたしとみんなの年金ポータル」が開設されました。
厚労省が年金制度に関する疑問から、自分自身の年金額についてまで幅広い情報の提供窓口として、「わたしとみんなの年金ポータル」を開設しました。
自分のライフスタイルや日常生活の中のさまざまなシーンに合わせたテーマで、年金について知りたい情報をすぐに探すことができまるように工夫されていると思います。
https://www.mhlw.go.jp/nenkinportal/index.html(厚生労働省HPへリンク)
5.年金手帳が廃止されました。(2022年4月から)
マイナンバー制度導入やデジタル化が進む世の流れから、オレンジ色や青色の表紙の年金手帳は、2022年3月で廃止されました。
新たに年金に加入する人には、基礎番号通知書が発行されることになりました。年金手帳は、新規には発行されませんが、すでにお手元にある手帳は、今後も基礎年金番号を明らかにする書類として利用できます。