昭和30年代に、「カッパブックス」という面白い本のシリーズがありました。個人的には、中学生の頃、多胡輝の「頭の体操」に夢中になったのを覚えています。
Wikipediaでは「光文社常務取締役出版局長を務めていた神吉晴夫は、知識人向け教養新書路線とされる先行の岩波新書(1938年創刊)に対して、わかりやすさを重点に置いた、大衆向け教養新書路線の新書を企画し、光文社は1954年(昭和29年)10月に伊藤整の『文学入門』、中村武志の『小説 サラリーマン目白三平』をもって、カッパ・ブックスを創刊した。当時としては大きい9ポイントの活字で印刷され、また、現在多くの新書で採られている、本の裏表紙に著者の写真と略歴を入れる装丁は、日本の新書で初めての試みであった」ということです。
このカッパブックスシリーズは、徐々に売れ行きを落とし、残念ながら2005年で終了したようです。それでも、総計で2億5千万冊以上売れたということなので、発行時の戦略は当たったと言えると思います。
この神吉さんは、のちに、かんき出版を創業されるようですが、今回はその話ではありません。
最近読んでいる、評伝「小室直樹」(村上篤直著、ミネルヴァ書房 2018年)という、大変面白い本があるのですが、その下巻(やがて現実は私に追いつくであろう)に、小室直樹がベストセラーを連発する契機となったカッパブックスの「ベストセラー作法10か条」が紹介されており、これが、なるほどと思うものでした。
以下、下巻5ページ(”おそるべきカッパブックス・ビジネス”)引用させていただくと・・
「1.読者の核は20歳前後
2.読者の心理や感情のどういう面を刺激するのか。テーマの問題である。
3.テーマが時機を得ていること。
4.作品のテーマがはっきりしていること。
5.作品が新鮮であること。
6.文章が「読者」の言葉であること。
7.芸術よりモラルが大切であること。
8.読者は正義を好むということ。
9.著者は、読者より一段高い人間ではないということ。
10.編集者はあくまでプロデューサーの立場に立つこと。”先生”の原稿をありがたく頂戴するだけではダメで、編集者がわからない原稿は、わかるまで、何度でも書き直してもらうこと。」
うーんとうなります。たしかに、このようにできた本は面白いで売れるでしょうね。また、ここに書かれていることは、会社の文書、マンション内の回覧など、人に読んでいただくことを目的とする文章作成一般に当てはまることだと思いました。
最近、ある番組で、綿谷理沙さんが、SNSのような短文を連ねて書くと、リズムよくどんどん論理がたどれる作品が書けることを発見した‥という趣旨(に感じました)の話をしていました。時代が違うので、カッパブックスの「10か条」とは異なりますが、視線は似ていると思いました。