知らない間に自分の戸籍を誰かが請求したとき・・・

住民票や戸籍は、自分以外の人でも適法に取得できる場合もありますが、何らかの方法で不正に取得されることもあり得ます。自分が知らない間に、誰かが自分の戸籍や住民票を請求した場合、本人が知る方法があるでしょうか。

住民票や戸籍の本人通知制度

突然に、市町村から「あなたの戸籍謄本(住民票)が第三者に取得されました」との通知が来ることがあります。これは、「本人通知制度がある自治体」の住民が、本人通知制度に登録していた場合に起こることです。

本人通知制度とは、住民票の写しや戸籍抄本・謄本などの証明書を自分以外の代理人や第三者(弁護士や司法書士、行政書士など8士業)が取得した場合に、役所から通知される制度です。

不正取得された証明書が身元調査などに悪用されるのを抑止するため、導入されたものです。

もともとは、2009年6月に大阪狭山市が全国で初めて開始し、その後11年に調査会社の代表者等が制度のない自治体を狙って大量の証明書を不正に取得し、転売していた事件が発覚し、制度を導入する自治体が広がりました。

事前に登録した人の証明書が取得された場合に本人に通知する「事前登録型本人通知制度」、事件などでの不正取得が判明した場合に通知する「被害告知型本人通知制度」の2つの種類があります。

どちらの制度を導入するか、または、しないかについては、各自治体の判断に任されています。ご興味のある方は、ご自分の自治体のHP等で、確認されるのがいいと思います。

ちなみに、東京都では、練馬区等12の区で「被害告知型本人通知制度」が導入されていますが、杉並区、中野区や区以外の市町村では、導入されていないようです。

 

本人通知制度が法制化されていない理由

この本人通知制度は、法律で自治体に義務化されていません。このため、導入している自治体と導入していない自治体に分かれています。

個人情報保護の観点からは、なぜ法制化されていないのか?は疑問となるところです。この問題の考え方のヒントとして、以下のような議論が参考になるとも思います。

【参議院での質疑】

平成26年の参議院での質疑の記録では、その理由が次のように述べられています。やりとりが興味深いので、長くなりますが引用します。

出典 参議院 第186回国会(常会)質問主意書 質問第九九号

「戸籍謄抄本等の不正請求事件並びに本人通知制度に関する質問主意書

「二〇〇五年に行政書士が複数の興信所と結託して職務上請求書を用いて大量に戸籍謄抄本等を交付請求した事件や二〇〇六年に興信所が市販の印鑑を用いて委任状を偽造して大量に交付請求した事件が発覚したことなどを受け、二〇〇七年に戸籍法が改正された。この改正で不正取得行為を刑罰の対象とし罰則を強化するとともに、第三者・専門資格者(弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理人、行政書士の八士業)が請求する際の条件が厳格に制限されたが、「本人通知制度」及び交付請求者の個人情報の開示制度の導入は見送られた。

 しかしながら、戸籍法が改正されて以降も、二〇一一年に愛知県警捜査員の戸籍謄抄本等が不正取得された容疑で探偵事務所や法務事務所の経営者、司法書士等関係者が逮捕される事件が発生(プライム総合法務事務所事件)したほか、全国的に大量に個人情報を不正に取得した事件が発生している。これまで発覚しているだけでも約三万件を超える戸籍謄抄本・住民票等の不正取得が行われていること、また、逗子・ストーカー殺人事件においても役所から調査会社が巧妙な手口で被害者の住所を聞き出した事実が明らかになっている。

 これら不正取得事件を受け、事前に登録した者に対して、第三者による戸籍謄抄本等の取得があった場合に取得の事実を通知する「事前登録型本人通知制度」と、不正取得事件として確定した場合、被害者に対して不正取得の事実があったことを伝える「被害告知型本人通知制度」が、全国各地方自治体において導入・実施され始めている。

 しかしながら、地方自治体においては、制度のバラツキや法的リスクを懸念する声もあがっており、政府として個人情報の保護、身元調査等の人権侵害の防止、被害者の救済に向け、早急に適切な措置を講じるべきと考える。

(中略)

 このことからも「事前登録型本人通知制度」が不正請求の防止・抑止力になっていることは明らかであり、不当な目的に使用されたかどうかの判断を、記載された本人が適切、迅速に行うための作業として「本人通知制度」を法定化し、交付請求者の氏名等の情報を被交付請求者に開示する措置を講ずるべきと考えるが、政府の見解を明らかにされたい。」

【答弁書】

「お尋ねの「「本人通知制度」を法定化」することについては、御指摘の「本人通知制度」を実施した場合には、正当な理由に基づく戸籍謄本等の交付請求を萎縮させる効果が生じるおそれがあるほか、手続の密行性が求められる民事保全法(平成元年法律第九十一号)に基づく保全命令の申立てをしようとする債権者の利益を害するおそれがあるとの指摘があること、市区町村に通知に係る事務処理上の負担が生じることなどから、御指摘の「本人通知制度」について立法的措置を講ずることや、お尋ねのように「全国各地方自治体における実施状況について早急に調査」し、「地方自治体における必要な経費を国として補助」することについては、政府としては考えていない。」

「正当な理由に基づく戸籍謄本等の交付請求を萎縮させる効果」という点は、何を指すのか、必ずしも明確ではありませんが、DV等が絡む親子関係において、DV被害者側が、やむを得ない理由で、恐る恐る戸籍を取り寄せたことが、本人にもれるのは避けたいというようなことは、考えらえます。

【京都弁護士会の意見書】

これについて、興味深い、やり取りが、「事前登録型本人通知制度の導入に反対する意見書」(2012年9月20日)」(京都弁護士会)から公開されています。

「(抜粋)事前登録型本人通知制度が導入された場合、弁護士等の専門家が職務上請求により、他方当事者や紛争の相手方の住民票の写し等を取得すると、取得の事実が当該相手方に直ちに知られることになる。そうすると、その事態を避けるため、職務上請求が困難又は事実上不可能になる場合が生じ、結局、多数の市民が希求する、専門家に依頼して行う法に基づく正当な権利の実現が妨げられてしまうのである。」

やはり、「取得の事実が当該相手方に直ちに知られる」ことを恐れて、正当な取得ができなくなるのが問題視されているようです。