相続人の1人が認知症の場合
まとめ

・相続人が子供と認知症の親となったとき、遺言がない場合は、遺産分割協議が必要ですが、認知症の親は判断能力に欠けるため、家庭裁判所で代理人を立ててもらう必要がでてきます。遺言書があれば、この必要はありませんので、こどもの負担はかなり軽減されます。
・認知症の相続人が、相続した財産の管理を自分ではできませんので、対策が必要です。ひとつは、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう方法ですが、通常は報酬支払の必要がある専門家が成年後見人に選任されます。その点、新しい制度である「家族信託」は、信頼する家族を受託者にすることができ、しかも、報酬は通常不要となります。

相続人に認知症の方がいる場合

遺言がない場合、相続人全員で遺産分割協議が行う必要があります。しかし、遺産分割協議を行うためには、相続人全員が、法的に有効な判断能力が必要ですから、相続人に認知症の方がいる場合には、そのままでは、遺産分割協議ができません。

そのため、次のような不都合が起こります。

  • 遺産が不動産のとき、法定相続分の登記は、遺産分割協議を行わないで、登記を済ませることは可能ですが、不動産が共有状態になってしまい、後にトラブルの原因になりえる。
  • 遺産が預金のとき、遺産分割協議書がない場合、民法で認められた払い戻し制度(※)の金額以上に、預金を引き出すためには、相続人全員の印鑑証明が必要ですが、認知症の方は、印鑑証明をとれませんから、手続きできません。

 ※改正民法で認められた「払い戻し制度」

成年後見制度を利用する場合

遺言がない場合で、相続人の一人が認知症などで、法的判断能力が不十分な場合は、遺産分割協議で当人が不利益を被らないように、家庭裁判所に成年後見人を代理人として選任してもらう必要があります。

成年後見人は、親族も可能ですが、金本的には専門家が専任されます。このとき、次のような不便な点が生じます。

  • 手続きに数か月かかる。
  • 専門家が専任され、費用支払いが発生することが多い。
  • 認知症の方の相続分は、権利保護のため法定相続分となる(かつ現預金優先)ことが多い。

このため、迅速かつ実情に応じた分割協議は困難となります。

相続発生前にどのような対策があるか

(1)遺言(+遺言執行者の指定)

遺言書が作成されていれば、遺産分割協議なしに、相続手続きを進めることが可能となります。なお、遺言は、法的に無効になるリスクのない「公正証書遺言」、また認知症の相続人に負担を掛けないように「遺言執行者を指定すること」が望ましいです。

【不動産の相続の場合】

相続人がいる場合で、遺言書の内容が「相続させる」という場合は、その財産を取得する相続人が単独で不動産登記をすることができますので、遺言執行者の有無にかかわらず、相続手続きが可能です。ただし、不動産の相続人が、認知症の方の場合は、仮に遺言執行者がしていたとしても、成年後見人が選任なれていないと不動産の名義変更登記ができないと考えられています。

【現預金の払い戻し】

遺言があったとしても、遺言執行者が指定されていない場合、銀行は相続人全員の印鑑証明を求めます。認知症の方は、印鑑証明の取得が困難なので手続きが難しくなります。遺言執行者が遺言で指定されていれば、遺言執行者は、遺言内容を実現するための権限を有します(民法第1012条)ので、銀行も、遺言執行者の印鑑証明で、手続きを進められます。

(2)家族信託

遺言があれば、相続人の中に認知症の方がいても、遺産分割がスムーズになるのは確かです。ただ、遺言で痴ほう症の妻に自宅の所有権や金融遺産を移しても、妻に管理能力はないのですから現実的にそのような遺言は難しいです。認知症の方が、何らかの支援がなく日常生活や財産管理を行うのは困難です。それには、別途手を考える必要があります。

これは二つの側面で考える必要があります。一つは、妻の身の回りの世話をどうするか?、二つめは妻の生活を維持するための財産管理をどうするか?です。前者の問題については、家族でよく話し合って対応を検討しておくあります。二つ目の問題に対して、新しい解決策として最近話題になることも多いのが、「家族信託」です。

 家族信託とは、財産を持っている人(委託者)が、信託契約等によって、信頼できる家族(受託者)に対し不動産・現金等の財産(信託財産)を託し、一定の目的(信託目的)に沿って、特定の人(受益者)のために、受託者がその財産を管理・処分する家族間の財産管理制度です。受託者は家族ですので、報酬の支払いはありません。

この仕組みを使えば、認知症の妻をもつ、ご主人が、息子を受託者にして、ご主人が存命中は、自分を受益者、死亡後は、認知症の妻を受益者にすることで、財産の実質的な所有者は、妻にしながらも、財産管理を息子に任せることができるのです。また、成年後見制度では、専門家が選任されがちですが、家族信託であれば家族に委託できるのももメリットでしょう。

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