
2024年7月、東京・銀座四丁目交差点に誕生したティファニーの新しい旗艦店は、その華やかな外観だけでなく、不動産開発と金融スキームの観点からも注目すべき点があります。
特に、土地取得費用とビル建設費用をノンリコースローンで調達し、その契約主体に信託を用いた点は、今後の都心部再開発のみならず、地方でも再開発のモデルケースとなり得ます。
ノンリコースローンとは
ノンリコースローン(Non-Recourse Loan) とは、融資の返済が原則として担保物件の収益や売却代金に限定され、借主個人(または企業)の他の資産には遡及(リコース)しない融資形態です。主に不動産のプロジェクトファイナンスで用いられ、事業収益によって返済されることが前提となります。
ティファニー新ビルでは、隣接する複数の土地をまとめて取得・再開発する必要があったことから、通常の開発よりも高額かつリスクの高い資金調達が必要でした。このため、事業リスクを限定できるノンリコースローンを採用したと考えられます。
ノンリコースローンの反対は、リコースローンです。リコースローンは、債務不履行の場合、貸し手は担保に加えて、借り手個人の資産にも返済を請求できます。一般の住宅ローンは、リコースローンです。
SPCではなく「信託」を用いた契約主体
通常、ノンリコースローンではSPC(特別目的会社)を設立し、開発対象の不動産をそのSPCに帰属させて融資を受けるのが一般的です。しかし今回の案件では、信託スキームが用いられました。
これは、土地や建物を信託財産として受託者(信託銀行など)に帰属させ、資金の貸し手と受益者との間で契約を行う形です。信託を使うことで、以下のようなメリットがあります。
① SPC設立・維持にかかるコストや煩雑さを回避
② 財産の帰属先が信託銀行などの信用力ある法人となることで、担保性が高まる
③ 不動産の登記や所有権移転を柔軟に設計可能
このように、信託を使うことで、実質的にSPCと同等の機能をより柔軟に実現しつつ、プロジェクトの透明性と安定性を確保したと言えるでしょう。
示唆
今回のティファニーの事例は、「信託」と「ノンリコースローン」を組み合わせることで、法的リスクや事業リスクを管理しながら、プロジェクトを成功に導くことができることを示しています。
信託口座では以下のような特徴があります。
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信託財産名義で融資を受けることは可能(実際には受託者が契約主体となる)
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借り入れた資金は信託財産の管理運用目的に使用される
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返済原資は信託から生じる収益等に限定される(=ノンリコースの性質)
個人レベルで信託スキームを使うことももちろん可能です。当事務所では、家族信託の設計や契約書作成の実績もございます。