吉日遺言は無効です。:父の遺言書の日付が「○○年○○月吉日」なっていたケース

Q. 死亡した父が、私に自宅を相続させるという自筆証書遺言を作っていました。全部、自筆で作成されていて、名前もハンコもありました。ただ、日付が令和4年4月吉日とありました。これを見た妹が、この遺言は無効だと言っています。納得できません。

A. 自筆証書遺言には自筆で日付を記載することが要件とされています。これは、遺言作成時の遺言者が遺言を作成する能力があったかとか、複数の遺言があった場合の前後関係を明確にするためです。このため、判例でも、「いわゆる吉日遺言は、特定の日を表示したとみられないことから、日付の記載を欠くものとして無効とされています。」(最高裁 昭和54年5月31日判例)

自筆証書遺言に無効リスクがある理由

一般的な遺言には、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は、自筆による遺言です。証人は不要です。公正証書遺言は、証人2人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の趣旨を公証人の前で口授し、それに基づいて公証人が遺言者の真意を正確に文章にまとめ、公正証書遺言にします。

遺言の効力は、遺言者の死亡により財産の無償移転を行う(民法985条I)というもので、その点で、どちらの遺言も同じです。ただし、遺言は法律に定める方式に従わないと無効(民法960条)になります。

公正証書遺言ならば、公証人が内容を見ますので、法的にも形式的も遺言書が無効になるリスクはほとんどないですが、自筆証書遺言は作成に専門家が関与しない場合は、無効リスクがでてきます。

民法第960条(遺言の方式)

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

自筆証書遺言の方式は以下のように決められています。「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」と決まっていますので、「日付」がないと無効になってしまうのです。

民法第968条(自筆証書遺言)

1 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない。

 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを、日本公証人連合会のHPを参考にまとめると以下のようなものです。

自筆証書遺言 公正証書遺言
無効となる危険性 専門家のチェックを受けないで作成すると、法律的にも、方式的にも、不備となって、紛争や遺言無効のリスクがあります。
さらに、自筆証書遺言は、誤りを訂正した場合には、遺言者が、その訂正した箇所を指示し、これを訂正した旨を付記して、そこにも署名し、かつ、その訂正した箇所に押印をしなければならないなど、方式が厳格なので、方式不備で無効になってしまう危険も付きまといます(民法968条)。
公正証書遺言は、公証人が関与するので、複雑な内容であっても、法律的にも、方式的にも問題のない整理されたきちんとした遺言になります。公正証書遺言は、遺言をその場で訂正する場合でも、公証人が責任をもって訂正手続を行うので、安心です。
字が書けない場合 財産目録以外は全文を自書しなければならないので、当然のことながら、病気等で手が不自由になり、字が書けなくなった方は、利用することができません。 業機で、自書が困難となった場合でも、公証人に依頼することによって、遺言をすることができます。遺言者が署名できなくなった場合でも、公証人が、遺言公正証書に、その旨を記載するとともに、「病気のため」などとその理由を付記し、職印を押捺することによって、遺言者の署名に代えることができることが法律で認められています。公証実務では、これに加えて、公証人が遺言者の氏名を代署し、その代署した氏名の次に、遺言者に押印してもらうことが行われており、遺言者が押印することもできないときは、遺言者の意思に従って、公証人等が遺言者の面前で遺言者に代わって押印することができます。
検認手続の要否 その遺言書を発見した者が、必ず家庭裁判所にこれを持参し、その遺言書を検認するための手続を経なければなりません(ただし、法務局における遺言書保管制度を利用した場合には、検認の手続が不要です。) 家庭裁判所における検認の手続は不要です。
証人の要否 証人は不要です。 証人2名の立会いが必要です。証人が立ち会うことによって、遺言者の真意を確認し、手続が適式に行われたことが担保されます。
保管上の危険性の有無 自宅で保管していた場合には、紛失したり、発見した者が、自分に不利なことが書いてあると思ったときなどに、破棄したり、隠匿や改ざんをしたりしてしまう危険性がないとはいえません。(ただし、法務局における遺言書保管制度を利用した場合にはこのリスクはありません。) 遺言書の原本が必ず公証役場に保管されるので、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんをされたりする心配はありません。
費用の有無 自筆証書遺言は、自分で書けばよいので、費用も掛からず、いつでも書くことができます(ただし、法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用する場合には、若干の手数料が必要です。)。 政令で定められた手数料が必要です

 

まとめ:自筆証書遺言と公正証書遺言のメリット・デメリット

〇自筆証書遺言のメリット・デメリットを整理すると、以下の通りです。

【メリット】
・いつでもどこでも自分で簡単に作成できる。
・費用がほとんどかからない。
・誰にも内容を知られず秘密に作成できる。
・証人が不要。
・自筆のため、相続人に想いを伝えやすい。

【デメリット】

・自分で作成するので、形式的要件を満たさず無効になってしまう可能性がある。
・意思能力等の問題により遺言向こうの場合がある。
・遺言書の紛失や、生前に発見されることがある。
・第三者に変造、偽造されるリスクがある。
・法務局での保管制度を利用しない場合、家庭裁判所の検認が必要。

【ポイント】
・自筆証書遺言のデメリットを軽減するためには、必要に応じて、①法律専門家の関与、②医療関係者の関与、③法務局の自筆証書遺言保管制度の利用を検討した方が良いと思います。

〇公正証書遺言のメリット・デメリットは、以下の通りです。

【メリット】
・公証人のチェックが入るので法的に無効になるリスクは少ない。
・原本は公証人役場に保管されるので紛失や変造・偽造が少ない。再発行もできる。
・検認手続きは不要なので、早く執行できる。
【デメリット】
・費用と手間がかかる。
・証人2名が必要である。

ということで、比較すると、多少コストはかかってもやはり公正証書遺言が安心ですね。(危急の事情もあり、時間がない場合などに、とりあえず自筆証書遺言を作成し、のちに公正証書遺言にするという実務もあります。)

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