認知症への備え:任意後見制度の3パターン「将来型」「移行型」「即効型」

任意後見制度には、「将来型」「移行型」「即効型」の3つパターンがあります。その違いを解説します。

認知症対策には「任意後見人制度」

◎任意後見契約は、本人の判断能力がまだ正常か、衰えたとしてもその程度が軽く、自分で後見人を選ぶ能力を持っている人が、将来、認知症やその他精神上の障害により判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、自分の財産管理、処分、介護等の手配をする後見人を選定し、両者間でこのような事務について代理権を与える委任契約です。この契約は、公正証書で締結しなければなりません。(任意後見契約に関する法律2条、3条)

◎また、任意後見契約は、公証人の嘱託によって法務局で登記されます。成年後見登記制度

当事務所の参考ブログ⇒ 「成年後見制度をわかりやすく整理しました。」

任意後見契約の3つの型

【将来型】
委任者が、将来判断能力が低下した時点で初めて任意後見による保護を受けようとする場合の契約形態です。

【移行型】
通常の任意代理の委任契約から任意後見契約に移行する場合の契約形態です。
・委任者が契約締結時から受任者に財産管理の事務を委任し、自分の判断能力が低下した後は任意後見監督人の監督を受けながら、受任者に事務処理を継続してもらいます。
・移行型の任意後見契約では、通常の委任契約と任意後見契約を同時に締結することになります(公正証書1本でも可能です)。
・なお、移行を2段階とすることも可能です。まず、委任者本人が全く元気なときはまだ、委任が発効せず、委任者が身体不自由になったときに合意により委任契約が発効し、さらに、委任者の判断能力が低下した後に任意後見に移行する型の契約もあります。

実際のところ、ご老人の場合、正常⇒身体の衰え⇒判断能力の低下というプロセスをたどることが多いので、実務では、この移行型任意後見がよく使われます。

【即効型】
任意後見契約締結直後に契約の効力を発効させる必要がある場合の契約形態です。
・軽度の認知症・知的障害・精神障害等の状況で、すでに補助人や保佐人がついているケースでも、契約締結時に判断能力があれば、任意後見契約を締結できます。なお、法定後見制度と異なり、任意後見契約締結には診断書は必須ではありませんが、この点については、下記論文から引用したように争いがあれば、家庭裁判所が総合的に判断するとされています。

「任意後見契約締結には診断書は必須でないため,判断能力が確認されないまま契約締結がなされることがある.任意後見契約締結に必要な判断能力については議論があり,公表された判例では意思能力の判断基準は示されていない.裁判所における意思能力判定は,診断書等の医学的評価のみならず,契約内容,生活状況,公証人の判断,一般社会通念,公序良俗,等を証拠として,裁判官が,総合的に判断するものと考えられる.」 [J-stage:任意後見契約に必要な判断能力と診療上の問題点より]

任意後見契約を補う「見守り契約」

高齢の委託者の生活を守る制度として、本人任意後見契約は優れていますが、その開始「前」と終了「後」には、やや弱点があります。

まず、「前」の問題ですが、任意後見契約が発効するのは、裁判所に受託者が後見監督人の選任を申し立てて、実際に後見監督人が選任されてからとなります。そのため、任意後見人が同居している親族であるような場合を除いては、以前の生活には契約上は後見人は関われませんし、委任者の判断能力の衰えを見逃す可能性もあります。

そこで、見守り契約の活用が考えられます。見守り契約とは、任意後見が始まるまでの間、任意後見受任者が定期的に任意後見の委任者と電話や訪問の組み合わせによって、コミュニケーションを図り任意後見人の心身の健康状態を把握することで、適切なタイミングで、任意後見を開始することができるようにするための契約です。

【将来型任意後見と見守り契約】
任意後見契約締結と同時に見守り契約を締結し、任意後見監督人選任以降は、任意後見契約が発効します。

【移行型任意後見と見守り契約】
A 移行型任意後見でも、契約締結時にすでに本人の身体が不自由なため、「当初から委任契約が発効し、その後、本人の判断能力が低下したときに任意後見に移行する」タイプのものには、見守り契約は不要です。

B 移行型任意後見で、契約締結時には本人がきわめて健康なため、「当初は委任契約は発効せず、その後の身体不自由⇒判断能力低下という段階を追って、委任契約⇒任意後見と移行する」タイプのものには、見守り契約が有用です。

【即効型任意後見には見守り契約は不要】
即効型任意後見の場合は、契約締結の後すぐに、任意後見監督人の選任されて、任意後見が発効するので、見守り契約は不要です。

よく利用されるのは・・移行型任意後見契約+見守り契約+死後事務委任契約

本人任意後見契約の「後」の弱点は、任意後見の委託者死亡によって、任意後見契約は終了するため、葬儀やお墓の手配やその他のこまごまとした死後事務に任意後見人が関われないという点です。これも、任意後見人が親族であれば、特に問題にならないかもしれませんが、お一人様の場合は、死後事務を誰がやるかという点が問題となります。

このような問題に対処する契約が「死後事務委任契約」です。死後事務委任契約は、委任者が死亡した際に、葬儀・埋葬手続き、未払いの医療費や施設に対する支払い、未払いの税金の支払い等の委任者の身辺整理の事務を委任する契約です。

そこで、実務でよく使われる「移行型任意後見契約」+「見守り契約」に、「死後事務委任契約」をセットするのが多いのが実情とされています(「遺言等公正証書作成の知識と文例」(日本法令)280p)。

【参考】任意後見契約公正証書の作成に必要な費用(公正証書作成関連費用)

任意後見契約公正証書の手数料は、1契約につき1万1000円、それに証書の枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書にあっては、3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円が加算されます。報酬の定めがある場合でも、契約の性質上、目的価額は算定不能となるので、手数料令16条により1万1000円になります。

病院等に出張して任意後見契約公正証書を作成した場合には、遺言公正証書の場合と同様に、病床執務加算、日当、旅費が加算されます。更に、任意後見契約は登記が必要であり、1契約ごとに、公証人が登記の嘱託をすることになっています。このための登記嘱託手数料は、1400円(手数料令39条の2)ですが、ほかに収入印紙代2600円が必要です。

参考 日本公証人連合会HP

まとめ

以上のように、任意後見制度と言っても、そのときのご本人の心身の状況や任意後見人候補の方のご事情によって、適切な契約の方法の選択の問題があります。具体的なご相談を無料で承っていますので、気になる点があればお問い合わせください。

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