現在、国内には桜の木とほぼ同じ約3,600万本の電柱があるとされており、毎年約7万本ずつ増加しているのが現状です。
無電柱化は、災害時の被害軽減、交通安全、景観向上のために必要です。国や地方自治体は、無電柱化に向けて努力していますが、欧米や韓国などに比べ、無電柱化率はかなり低いのが現状です。
今日は、この問題を簡単に解説します。
無電柱化の現状
ロンドン・パリなどのヨーロッパの主要都市や香港・シンガポールなどのアジアの主要都市では無電柱化が進んでいるのに対して、日本の無電柱化率は東京23区で8%、大阪市で6%と立ち遅れています。
日本では、電柱の数は新設と減少の差では、毎年7万本づつ増えています。
最近の経産省の調査では、電力柱の新設(約10.6万本)のうち、供給申込や再エネ発電設備への接続に係るものが約5.2万本です。このうち、約8割が個別の家屋新築等に伴う供給申込によるものだそうです。電力柱の新設のうち、民地に約8割、官地に約2割が設置されているとのことです。
無電柱化はなぜ必要か?
無電柱化は、以下の3つの観点から必要です。(写真は国土交通省HPより)
- 道路の防災性向上
電柱は、台風や地震などの災害時に倒れたり、電線が垂れ下がったりする危険があります。無電柱化を行うことで、これらのリスクを大幅に低減することができます。
- 通行空間の安全性、快適性の確保
電柱や電線類は、道路の視界を遮り、歩行者や自転車の安全を脅かす可能性があります。無電柱化を行うことで、道路の見通しが良くなり、交通の安全性が向上します。また、歩道が広く使えるようになり、歩行者や車いす利用者にとって安全で快適な歩行空間が形成されます。
- 良好な景観の形成
電柱や電線類は、道路の景観を損なう原因となります。無電柱化を行うことで、美しい街並みが形成され、地域の活性化にもつながります。
日本では、2022年4月時点で、東京23区の無電柱化率は8%となっています。国土交通省は、2030年度までに全道路の50%を無電柱化する目標を掲げています。
欧米の無電柱化、日本との違いとは?
欧米諸国では、電力が普及し始めた当初から電線は地中に埋設されていました。その理由は、大きく分けて以下の2つです。
- 電柱を設置するためのスペースが不十分だった
- 感電防止の離隔距離が確保できなかった
また、当時は照明にガス灯が使用されていたことから、電気事業者が新たに参入する際、ガス事業者との競争条件を同一とするため、電線類の地中化を法的に義務づけた経緯もあります。
このように、欧米では電線類の地中化が早い段階から行われてきました。そのため、日本と比べて無電柱化率が高い傾向にあります。
日本ではなぜ無電柱化が進まなかったのか?
日本では、欧米諸国と比べて無電柱化率が低いことが知られています。その理由は、大きく分けて以下の3つです。
- 戦後の復興優先
戦後、日本は安価で安定した電気を国土全体に供給することを至上命令として復興を進めました。そのため、低価格で施工が容易な架空電線が採用され、無電柱化は後回しにされました。
- 国民世論の低さ
架空電線が邪魔だという国民世論の声は、戦前まではそれなりにありました。しかし、戦後になると、電気の普及が進み、架空電線が当たり前の存在になっていきます。そのため、国民世論の支持も得られず、無電柱化は進まなかったと考えられます。
- 技術的な課題
欧米では、裸線による架空配線の感電事故が問題視されたことを受け、地中化が進みました。一方、日本では、電気の普及が遅れたため、先んじて電線を被覆するコーティング技術が開発されました。そのため、感電事故のリスクが低く、架空配線が採用され続けたと考えられます。
道路法第33条の盲点?
道路法第33条では、道路の敷地外に余地がない場合に限り、道路占用を認めています。しかし、実際には、道路敷地外に設置できる余地があっても、電柱や電線が道路敷地内に占用されている事例も少なくありません。
国土交通省は、平成27年に緊急輸送道路の新設電柱の占用を禁止する道路占用の見直しを行い、直轄国道等の緊急輸送道路における新設電柱の抑制に取り組んでいます。しかし、新設電柱の禁止は直轄国道等の緊急輸送道路に限られており、大多数を占める既設電柱が無電柱化されなければ、緊急輸送道路としての機能が十分には発揮できない場合があります。
今後、より一層の無電柱化を推進するためには、緊急輸送道路の新設電柱の占用禁止だけでなく、占用制度の厳格な運用や既設電柱の更新時の地中化などの必要もあると考えられます。
無電柱化の低コスト化に向けた取組み
無電柱化には、従来の架空電線に比べてコストがかかるなどの課題があります。
そこで、国土交通省は、無電柱化の低コスト化に向けた取組みを進めています。具体的には、以下の3つの対策が実施されています。
- 埋設深さの基準緩和(浅層埋設)
従来の基準では、埋設深さが80cm以上とされていましたが、規制緩和により、交通量の少ない道路では35cmまで、歩道では15cmまで浅くすることが可能になりました。これにより、工事のコストを削減することができます。
- 小型ボックスの活用
従来の基準では、電線類を収容するために、管路が必要でした。しかし、規制緩和により、小型ボックスの活用が可能になりました。小型ボックスは、管路に比べて設置コストが安価であるため、コスト削減につながります。
- 電線類の直接埋設
国土交通省によれば、『海外の電線類地中化の方式は、イギリス、フランスでは直接埋設方式、アメリカ、カナダでは管路方式を採用している。』。日本では、再工事がしやすい管路方式が主流ですが、コストが高くなります。
直接埋設方式は、管路の設置コストや、管路と電線類の接続工事のコストを削減することができますので、一部で試行が始まっています。
無電柱化の低コスト化に向けた取組みが進んでいけば、無電柱化の普及が加速し、より安全で快適な街づくりにつながることが期待されます。
まとめ
日本の無電柱化は、規制緩和、低コスト工法採用、規格統一、補助金等の様々な対策により、少しづつ前進しています。欧米のような、無電柱の街づくりを進めるには、住民自体が自分の街の景観づくり、交通安全、防災のため、この問題に関心を持っていくことが求められると思います。
参考
国土交通省HP無電柱化の推進
経産省HP https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/other/pole/
寒地土木研究所HP https://www.ceri.go.jp