遺言書に、遺言執行者が指名されていない場合や、指名されていた遺言執行者候補が辞退したり死亡していた場合は、相続人などの利害関係人は、家庭裁判所に遺言執行者にしてほしい人の名前を書いて、遺言執行者への選任を申し立てることができます。
遺言執行者の役割
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する者のことです。遺言執行者は、よく相続人の代理人と思われがちですが、むしろ、被相続人の代理人と考えた方がその役割はわかりやすいです。
遺言執行者は、遺言の内容や、相続財産の目録を全相続人に通知したうえで、亡くなった被相続人の作成した遺言の内容を実現するのですから、必ずしも相続人と利害が一致するとは限りません。
遺言執行者の役割は、民法にまとまって書いてあるわけでなく、委任の箇所や遺言の箇所に分散されて記載されています。
<遺言>
第1007条2項 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
第1011条1項 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。(注)
第1012条1項 言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
第1012条2項 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
第1012条3項 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。
<委任>
第644条 受任者の注意義務
第645条 受任者による報告
第646条 受任者による受取物の引渡し等
第647条 受任者の金銭の消費についての責任
第650条 受任者による費用等の償還請求等
(注)遺言執行者の作成すべき相続財産の目録は、遺言書に記載されている相続財産です。遺言書に記載されていない遺産の内容については相続人自身で調べる必要があります。
遺言執行者の選任申し立てとは
お亡くなりになった方の自筆遺言書が見つかると、亡くなった方の最後の住所を管轄する家庭裁判所に、封を切らずに検認の申し立てを行います(郵送で可です)。公正証書遺言や自筆証書遺言保管制度を使用している遺言であれば検認は不要です。
そして、遺言書の内容を確認すると、遺言執行者が記載されていない場合や、遺言執行者が相続人である奥さんになっていたが、すでに奥さんは高齢で実務的なことを自分でやれないので辞退する場合は、遺言執行者がいないという状態になります。
このとき、相続人が協力して、遺言書通りの相続を実現することは可能です。ただ、口座がたくさんあるとき、証券の相続、不動産の相続などの場合は、実務にたけた遺言執行者が遺言書の内容に従って事務を進めるほうがスムーズです。
なお、自筆証書遺言の場合、「遺言書の検認」→「遺言執行者の選任」の順番に申し仕立てることになります。
遺言者になれる人、なれない人
民法1009条は、遺言執行者の欠格者は、未成年者と破産者に限定しています(民法1009条)。したがって、相続人は、遺言執行者になれます。
ただ、最初に書いたように、相続人の立場と遺言執行者の立場は、利害相反する場合もありますので、遺言書を作成する場合は、相続人のうちの一人を遺言執行者に指名することが、トラブルのもとにならないかを検討すべきです。
遺言執行者の選任申し立ての理由は
概ね、以下のような理由が考えれらます。
1.遺言執行者の指定または指定の委託がない。
2.遺言執行者の指定された者が就職を拒絶している。
3.遺言執行者の指定の委託を受けた者が,その委託を辞退した。
4.遺言執行者が死亡した。
5.遺言執行者が解任された。(注1)
6.遺言執行者が辞任した。
7.遺言執行者が制限能力者である。
8.遺言執行者が破産者である。
(注1)第1019条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
手続きの概要
遺言によって遺言を執行する人が指定されていないとき又は遺言執行者がなくなったときは、家庭裁判所は、申立てにより、遺言執行者を選任することができます。
申立人
利害関係人(相続人,遺言者の債権者,遺贈を受けた者など)
申立先
遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。→管轄裁判所の調べ方
申立てに必要な費用
- 執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。なお,各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に掲載されている場合もあります。)
申立てに必要な書類
- 遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
- 遺言執行者候補者の住民票又は戸籍附票
- 遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し(申立先の家庭裁判所に遺言書の検認事件の事件記録が保存されている場合(検認から5年間保存)は添付不要)
- 利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本(全部事項証明書)等)
※ もし、申立前に入手が不可能な戸籍等がある場合は,その戸籍等は申立後に追加提出することでも差し支えありません。
申立書の書式及び記載例
記載例は以下の通りです。
記載内容は簡単で大丈夫です。申立書は、管轄の家庭裁判所(東京23区であれば、東京家庭裁判所の事件受付係)に郵送できます。
申立書の記載要旨
1,遺言執行者の選任申し立ての理由を書く。
2,選任して欲しい遺言執行者候補者を書く。
です。遺言執行者候補者は、信頼できる方を、相続人親族、相続人の一人、専門家(行政書士、弁護士など)などです。
申し立ては、利害関係者ができることになっています。相続人の意見が合わない場合でも、一人の相続人が選任を申し立てれば、家庭裁判所は
申立書DL先と、記載例
(裁判所HPよりhttps://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_18/index.html )
用紙は、各裁判所で独自のものがあるかも知れません。
岡山や京都で使われている(いた?)申立書は、選択式なので、書きやすいと思います。
遺言執行者選任届(岡山)
行政書士中村光男事務所について