2023年4月からお隣さんとの法律関係はどう変わる?その2/杉並区の行政書士が解説

2023年4月1日から「隣地から越境した竹木の枝の切り取りのルール」が変わります。ずいぶん細かい話と思われるかもしれませんが、お隣からの枝の越境は、頻繁にある問題ですし、自治体の道路管理などにも関係するので、実は重要な変更です。

さて・・・

Q1 お隣の家の立派な木の枝が塀越しに伸びてきて、我が家の庭に進入してきました。このとき、自分で枝を切ってもいいのでしょうか。
Q2 枝ではなく、伸びてきた根の場合はどうでしょうか。

法の一般原則として、何らかの権利を侵害された者が、司法手続によらず実力をもって権利回復を果たすこと(自力救済)は社会秩序が維持できないという理由で、法律で特別に許す場合をのぞき禁じられています。

日本の民法では、「隣地の根が伸びてきた場合」は、切ることを認めますが、枝はだめです。

木の所有者に、枝の切除を頼まなければいけません。しかし、昨今は高齢化や相続で、空家や所有者不明の土地も増えてきました。そこで、来年2023年4月1日から施行される改正民法では、隣地から伸びてきた枝の切除がしやすくなる変更が加えられました。杉並区の行政書士が解説します。

越境した竹木の枝の切り取りのルールの見直し

〇改正前(現行法)

【隣地の竹木の枝が境界線を越えるとき】
 ⇒その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

隣地の竹木の根が境界線を越えるとき
 ⇒その根を切り取ることができる。

枝は自分で切ってはダメで、根は良いのはなぜか?という点ですが・・・、

枝の場合は、木の所有者に、植え替えのチャンスを与える必要があるからと言われます。また、根の場合は、植え替えは現実的でないから、または、根は土地と一体化しているから・・等の説明があります。

〇何が不便だったのか

上記のように、現行民法では、竹木の所有者が枝を切除しない場合には、枝を越境された土地の所有者が、竹木所有者の所在を探して、当該所有者に対する枝の切除請求訴訟を提起して請求認容判決を得た上で、これを債務名義として強制執行により竹木所有者の費用負担で第三者に切除させる必要があります。

そして、手間暇をかけて、この手続を踏んだとしても、枝はまた伸びます。そうすると、また同様の手続きがとることになり、裁判を繰り返す必要があります。このため、現行ルールは、土地の円滑な管理の妨げとなっていました。

〇改正される内容

1. 次の3つの場合には、土地所有者が隣地の竹木の枝を自ら切り取ることができるとしました(改正法第 233 条第 3 項)。

①竹木所有者に枝の切除を催告したにもかかわらず相当期間内(※)に切除しないとき
②竹木所有者又はその所在を知ることができないとき(※※)
③急迫の事情があるとき

※相当期間とは2週間程度です。
※※ 竹木の所有者又はその所在が不明である場合には、公示に関する手続を経ずに、本枝の切取りが可能です。立法時の資料では、所有者不明の場合は、通常は竹木所有者による切除は期待できないこと、また、枝はいずれまた伸びるので土地所有者による直接の切除を認める理由があると説明されています(民法・不動産登記法部会資料46 p5)

2. 隣地の枝を自ら切り取ることができる場合は、隣地の使用も認められることになりました(改正法第 209 条第 1 項第 3 号)。

第二百九条(改正)
土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り

3. 竹木が複数人で共有されている場合は、共有者はその枝を切り取ることができるようになりました(民法新233条2項関係)。

相続人が多い場合は、隣地の竹木に共有者がたくさんいることになります。

このときは、伸びてきた枝の切除をどうするか?

「共有者の持分の過半数の同意を得れば、枝の切除ができる」という改正案が、検討部会では検討されたのですが、枝を切るために、わざわざ共有者を探し出したり、何回も裁判をしなければならないというのは、如何にも手間がかかりすぎです。

そこで、簡素化案が通り、竹木が共有のときは、各共有者は、その枝を切り取ることができるという規定ができました。これは、強制執行手続の実施について他の共有者の同意が不要であるという意味です。

ただし、他の共有者も切除に反対し、これを妨害している場合には、その他の共有者に対する判決(債務名義)も必要となると解釈されています。

新旧比較

改正法 現行法
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条
1 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が
境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。

2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の
所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。

4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を
切り取ることができる。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条
1 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
(新設)

(新設)

 

 

 

2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

その他の論点

1.越境した枝から落下した果実をどうするか?

隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、土地所有者の所有権が侵害されていることから、土地所有者はその枝から自己の土地に落ちた果実や自ら切り取った枝については、自ら処分することができるとすることが公平に適うと考えられています。

そこで、土地の所有者が、越境した枝から自己の土地に落下した果実を処分することができるとする規律を設けることが検討されましたが、越境した枝から落下した果実等について、不法な越境が果実の処分権を土地所有者に与えることを正当化する根拠にはならない(越境した物干し竿から洗濯物が落下した場合と同じ。)との、考慮もあり、結局は見送られました。

2. 根については、所有者に催告しなくていいのか?

現行法上竹木の根については越境された土地の所有者が自ら切り取ることができるとされています(現行法第233 条第 2 項)。ただし、越境した枝の切除について催告手続等を設けるに当たり、根の切除についても竹木の所有者に対して切除の機会を与える必要があるとの考え方もあるのではないかと議論されました。

これに対しては、①根は土地の一部であるから、土地の所有権に基づいて切除可能と理論づけられる、②簡単なルールが好ましい、という理由で、現行どおり「催告なしで切除OK」ということになりました。

まとめ

隣地の竹木の枝が越境し、土地の利用に支障を来しているケースは、あちこちで発生しています。2023年4月1日から、一定の要件の下で裁判手続を経ずに土地所有者が枝を切り取ることができるようになったことによって、費用や時間・労力の面で枝の越境を我慢していたという不幸な状況は減少する可能性があります。

特に鉄道、送電線等公共インフラに、枝がかかって、そのままでは事故発生など危険な状態にないかねないケースを予防できるという効果も期待されています。

【道路に樹木がかかって危険な例】

民法とは言え、今回の改正は、隣接地における土地所有者と竹木所有者との権利関係の調整ルールの改正ですので、国・地方公共団体が所有している道路に竹木の枝が越境している場合にも適用がされます。

今後は、国・地方公共団体も土地所有者として本改正に基づき道路に越境した枝を切り取ることができるようになるので、管理責任者として隣地から伸びてきた枝の伐採等が容易になり、交通安全の向上にも役立つものと思われます。

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