こんにちは、行政書士の中村光男です。
今回は、配偶者居住権を活用して、妻の生活を守る方法について解説します。
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人(亡くなった方)の配偶者が、相続開始後にも自宅に住み続けることができる権利です。
なぜ配偶者居住権が必要なのでしょうか?
社会の高齢化が進み、平均寿命が延びたことから、夫婦の一方が亡くなった後、残された配偶者が長期間にわたり生活を継続することも多くなりました。
その際には、配偶者が、住み慣れた住居で生活を続けるとともに、老後の生活資金として預貯金等の資産も確保したいと希望することも多いと考えられます。
配偶者居住権のメリット
配偶者居住権には、以下のメリットがあります。
- 配偶者が住み慣れた住居に住み続けることができる
- 配偶者が生活費を確保することができる
- 相続人間の争いを防ぐことができる
配偶者居住権の利用方法
配偶者居住権は、遺言や遺産分割の選択肢として利用することができます。
具体的ケース
状況
高齢の夫婦がいて、夫の財産は、自宅不動産(価値2000万円)と現金2000万円です。
法定相続
法定相続では、妻が50%、子供が50%の遺産を相続します。
問題点
妻が自宅を相続すると、現金は子供に行ってしまいます。妻は、生活費を賄うことができなくなり、困ってしまいます。
解決法
1. 遺言書を作成し、妻の相続分を75%にする
遺言書を作成し、妻の相続分を、子供の遺留分25%を確保できる限度まで上げる。これにより、妻の相続分は75%になります。それでも、子供の相続分は25%ありなすので、子の遺留分を侵すことにはなりません。
2. 遺言書で、子供に自宅を相続させ、妻には自宅への「配偶者居住権を遺贈する」
遺言書では、子供に自宅を相続させ、妻には自宅への「配偶者居住権を遺贈する」と記載します。これにより、妻は、現金を相続して、かつ、自宅に住み続けることができるのです。(「相続させる」と書いてしまうと「相続放棄しないと配偶者居住権を放棄できない」等の面倒な問題が生じますので、要注意です。)
登記について
配偶者居住権の登記とは?
配偶者居住権の登記とは、配偶者居住権を取得した場合に、これを公の帳簿(登記簿)に記載し、一般に公開することによって、取得した配偶者居住権を第三者(例えば、居住建物を譲り受けた方)に主張することができるようにするものです。
配偶者居住権の登記は必要?
配偶者居住権は、上記の成立要件を満たしていれば権利として発生していますので登記が効力要件ではありません。
つまり、登記をしなくても、配偶者居住権は有効に存在します。
では、なぜ登記が必要なの?
配偶者居住権を登記しないと、善意の第三者に対抗することができません。
善意の第三者とは、配偶者居住権の存在を知らなかった人や、知っていてもその権利を侵害する意思がなかった人を指します。
例えば、配偶者居住権を登記していない場合、居住建物を第三者に売却した場合、第三者は配偶者居住権の存在を知らずに購入する可能性があります。
その場合、第三者は、配偶者居住権を侵害する意思がなくとも、配偶者居住権を主張することができてしまいます。
配偶者居住権の登記はどんな手続き?
配偶者居住権の登記は、配偶者と居住建物の所有者との共同登記となります。
登記手続きは、配偶者居住権を取得した建物の所在地を管轄する法務局(登記所)で行います。
登記申請書や添付書類を提出するとともに、登録免許税を納付します。
配偶者居住権の登記の費用は?
配偶者居住権の登記の費用は、登録免許税と司法書士報酬です。
登録免許税は、「建物の固定資産税評価額✕0.2%」で計算されます。
司法書士報酬は、司法書士によりまちまちですが、10万円前後が相場です。
妻が夫の死後、老人ホームに入居することなったとき
配偶者居住権を持っている妻が、老人ホームに入居した場合、配偶者居住権は消滅しません。
配偶者居住権は、配偶者が住み慣れた住居に住み続けることができる権利です。
そのため、配偶者が老人ホームに入居しても、配偶者居住権を放棄しない限り、自宅に住み続けることができます。
配偶者居住権を放棄した場合
配偶者居住権を放棄した場合、配偶者は自宅に住み続けることができなくなります。
しかし、配偶者居住権を放棄することを条件に、建物の所有者から金銭の支払を受けることは可能です。
また、建物の所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができます。
例えば、使用しなくなった建物を第三者に賃貸することで、賃料収入を得て、介護施設に入るための資金を確保することもできます。
まとめ
配偶者居住権を活用することで、妻の生活を守ることができます。
妻が自宅を相続すると生活費を賄うことができなくなる場合は、遺言書で妻の相続分を75%にして、現金を相続できるようにし、遺言書で子供に自宅を相続させ、妻には自宅への配偶者居住権を遺贈することを検討してみてください。
参考サイト 法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策が新設されます。」
政府広報オンライン 約40年ぶりに変わる“相続法”!相続の何が、どう変わる?