無戸籍の子供 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

嫡出推定制度とは、民法772条による嫡出推定が及ぶ子について、一定の者のみが、一定の期間内に限り、嫡出否認の訴えを提起することができる制度です。一定の期間経過後は、血縁関係の有無にかかわりなく、誰も法律上の父子関係を否定することができないものとすることによって、法律上の父子関係を早期に確定し、家庭のプライバシーを守りながら家庭の平和を尊重し、子の福祉を図ろうとするのが狙いの制度です。

ところが、従来の嫡出推定の仕組みには、「300日問題」と呼ばれる問題点があり、これが無戸籍の方が発生する一つの原因とも指摘されていました。この規定は、令和4年12月(施行は令和6年4月)に改正されました。

300日問題とは

「離婚後300日問題」とは、旧民法772条により、母が、元夫との離婚後300日以内に子を出産した場合には、その子は民法上元夫の子と推定されるため、子の血縁上の父と元夫とが異なるときであっても、原則として、元夫を父とする出生の届出以外受理されず、戸籍上も元夫の子として扱われることになるという問題、あるいは、このような戸籍上の扱いを避けるために、母が子の出生の届出をしないことによって、子が戸籍に記載されず無戸籍になっているという問題のことです。

民法の改正内容

改正前

第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

300日問題民法改正前 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

改正後

第772条 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。

2 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

3 第1項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。

4 前3項の規定により父が定められた子について、第774条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中 「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第774条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。

300日問題民法改正の後 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

無戸籍の人が直面する問題とは

日本において、「戸籍」は法的な身分を証明する非常に重要な書類です。ところが、何らかの事情で戸籍に記載されないまま育つ「無戸籍」の子どもが、毎年一定数存在しています。

無戸籍であることによって、次のような困難が生じます:

  • 保険証やパスポートが取得できない

  • 義務教育以降の進学に支障が出る

  • 就職、結婚など人生の節目で法的な証明ができない

  • 医療機関の受診や住民票取得が困難

社会的な孤立や貧困のリスクが高まるだけでなく、法的保護を受けられない深刻な状況に置かれることがあります。

無戸籍の方が存在する理由とは

無戸籍の人の多くは、親が出生届を出していないことに起因します。特に多いケースは次のとおりです。

  • 母が離婚後300日以内に子を出産した場合、前夫の子と推定されるため、現在の夫との子と認められないことを避けて出生届を出さない

  • 配偶者からのDVや支配的な家庭環境の中で、前夫に知られたくないという理由から届出を避ける

  • 再婚相手との子を法律上認められないことで、家庭崩壊を恐れる心理的要因

このような事情により、「届け出ない」という選択をせざるを得ない現実が存在します。

嫡出推定制度の変更の内容

令和6年4月1日施行の民法改正により、「嫡出推定制度」が大きく変わりました。

主なポイント

  • 再婚後に生まれた子は、再婚後の夫の子と推定されるように変更
    これまで「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定される」とされていたルールが見直されました。

  • 子どもや母親も、嫡出否認の訴えを起こすことが可能に
    父親だけでなく、子や母も「この父ではない」と裁判で主張できるようになりました。

  • 嫡出否認の訴えの期間が1年→3年に延長
    家庭の事情を整理するための時間的余裕が与えられました。

  • 経過措置あり
    令和6年4月1日以前に生まれた子についても、1年間は新制度に基づいて訴えを提起可能です。

母親が再婚しない場合

今回の民法改正で、これまで、離婚後300日以内に生まれた子どもは前の夫の子どもであると推定されていましたが、民法改正後は、離婚後300日以内に生まれた子であっても、出産の時点で母親が再婚していれば、新しい夫の子どもであると推定されることになりました。

しかし、母親が再婚しない場合は、離婚後300日以内に生まれた子に関しては、元夫の子どもとする扱いは変わりません。再婚をしない母親にとっては改正の影響はあまりないと考えられています。

 

嫡出推定制度の変更により、無戸籍の子どもは減少するか?

結論から言えば、今回の改正は無戸籍の子どもを減らすための大きな一歩です。

これまで、多くの母親が「前夫の子と推定されてしまう」ことを理由に出生届を出せず、子どもが無戸籍になるという事態が多く発生していました。

新制度では、母親が再婚していれば、再婚相手の子と自動的に推定されます。これにより、「前夫に知られたくない」「裁判を起こしたくない」などの心理的・法的ハードルが下がり、出生届が提出しやすくなります。

また、母や子ども自身が訴えを起こせるようになったことで、親権・戸籍の整理が現実的に進めやすくなりました。

【参考】 法務省「無戸籍でお困りの方へ」

   法務省 「嫡出推定制度の改正について」

   日本財団ジャーナル「無戸籍の人たち」

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