成年後見制度に関し、多くの人が疑問になりそうな点を、直近のデータを参考に杉並区の行政書士が解説します。
直近データで成年後見が開始される原因・動機は?
Q 成年後見が開始される原因と動機は何でしょうか。
A 直近データでは、認知症が63.7%、知的障害者が9.6%、統合失調症が9.1%でした。また、申立ての動機は、預貯金の管理が一番多く、その次が身上保護です。
【開始原因】 以下のQ&Aデータは、最高裁の「成年後見関係事件の概況」(令和3年1月~12月) から引用。
【主な申立ての動機別件数・割合】
成年後見人の8割が専門職なのは国の方針?
Q 成年後見人の8割は、親族以外の専門家であると聞きます。親族は、成年後見人に選任されにくいのでしょうか。何らかの国の方針の結果でしょうか。
A そうではないと思われます。なぜなら、そもそも成年後見の申立てがされる段階で、後見人候補者として親族が記載されている割合が2割強であるからです。
裁判所は、親族が候補者でも、高齢、遠方、経済的に不安定な場合は、司法書士・弁護士・社会福祉士・行政書士・社会福祉協議会などの専門職を第三者の後見人に選任します。
ただし、親族が後見人等になる場合は、本人保護のため、成年後見人、後見制度支援預貯金などの形で、専門職や裁判所が関与するケースが多くなっています。
直近では、誰が申立てることが多いですか?
Q 成年後見人制度は誰が申立てることが多いのでしょうか。
A 直近データでは、一番多い申立人は本人(20.8%)で、その次は、市区町村長(23.3%)です。
【申立人と本人の関係別件数・割合】
痴ほう症になると老人ホームへの入居は成年後見制度が必要?
Q 痴ほう症の方は老人ホームの入居するために、成年後見人を選任してもらうしかないのでしょうか。
A 親族がいれば、成年後見人を立てなくても、入居契約は可能です。身寄りのない方が痴ほう症になると、成年後見人制度の利用が必要になります。その場合、市区町村長が申立人となります。
制度の申立ての取り下げは可能?
Q 成年後見人に親族の就任を希望して裁判所に申し立てをしましたが、裁判所に認められそうもありません。そこで、申立てを取り下げたいのですが、可能ですか?
A 成年後見開始審判の申立ては、家庭裁判所の許可を得なければ取り下げることができません。この理由は、恣意的に取り下げができることになると、成年被後見人として保護を受けるべき者が保護を受けられなくなる恐れがあれからです。
家事審判法では、申立てを取り下げるときは、取下げの理由を明らかにしなければならないとされています。この取下げの制限は、保佐及び補助にも準用されています。
専門家報酬が払えない場合は?
Q 痴ほう症の親に専門家の成年後見人が付きました。親の資産は少ないので、専門家報酬はそのうちに支払えなくなると思います。どうしたら良いでしょうか。
A まず、成年後見人の報酬は、定期的(年1回等)に成年後見人からの請求により、裁判所が決定しますが、報酬の支払い原資は被後見人の財産ですから、被後見人の財産がなくなれば、成年後見人は無報酬となります。なぜなら、本人資産がないのに、無理矢理に裁判所が報酬を決定することはないからです。
なお、一定の条件を満たすと、各自治体の「成年後見制度利用支援事業」を利用して報酬助成制度を利用することができます(返済の必要なし)。例えば、身寄りがなく自治体の長が成年後見人制度を申立て場合で、裁判所が決定した後見人報酬を支払うと、被後見人が困窮し生活保護の対象者となるような場合です。
成年後見人の交替は可能?
Q 成年後見人が親身に相談に乗ってくれないので、他の方に代わって欲しいのですが、可能ですか?
A 後見人に不正な行為、著しく後見人としてふさわしくない行為がある場合には、家庭裁判所に解任請求をすることができます。
ただし、後見人が親族の思うように行動しない、単に気に入らないという理由では解任することはできません。
・後見人に職務違反行為、職務懈怠などの「不正な行為、著しく不行跡その他後見の任務に適しない」事実があるときは、後見監督人、被後見人、被後見人の親族、検察官の請求により家庭裁判所は後見人を解任することができます。
・また、職権で家庭裁判所が解任することもできます。は補助人を解任することができます。
本人死亡時まで制度利用は続くのですか?
Q 障害者の子供が相続人となったので、成年後見人制度を利用して、相続手続きをしたいのですが、成年後見人制度は、一度利用すれば本人が亡くなるまで利用し続けなければならないのでしょうか。
A 現在の制度では、本人死亡時まで制度利用は続きます。現在、見直しが図られていますが、時間がかかりそうです。
現在、成年後見人制度は、主として次の点で、改善が検討されています。
・本人にとって必要な時に、必要な範囲でのみ利用できる制度とするべき
・すでに成年後見制度を利用している人について、一定期間ごとに本当に後見制度が必要な状態か、見直す機会を設けるべき
・柔軟に後見人を交代できるようにするべき
【厚労省専門家委員会 第二期成年後見制度利用促進基本計画に盛りこむべき事項 より 】
任意後見人制度は運用が難しいと言われる理由は?
Q 任意後見人制度は運用が難しいと言われるのは何故でしょう。
A 任意後見人制度は、本人が元気なうちに、信頼できる人を後見人に指名できる良い制度です。本人の判断能力が低下した段階で、本人または任意後見人制度が裁判所に申立て行いますが、裁判所によって、任意後見人をチェックする任意後見監督人が選任されるため、本人が判断能力を失った後の後見人の暴走を防ぎ、本人保護を図るというメカニズムが働きます。
運用が難しいのは次の2点です。
1.任意後見人が、本人が元気なうちから、本人を定期的に見守り、本人の判断能力の低下をタイムリーに把握する必要があること。
2.任意後見契約と合わせ、後見人候補者が受任者となって、本人の通帳を預かる財産管理契約を結ぶことが多いこと。これは、任意代理契約とも呼ばれており、体調不良や老化などが原因で外出が困難になることで財産の管理が難しくなった場合に「受任者(代理で手続きを行う人)」が一定の法律行為を代行できるようにするような目的です。
この契約があれば、本人が元気なうちから、受任者は親の預金を使用できます。本人が元気なうちは、親のチェックが働きますが、本人の判断能力が衰えると、誰もチェックをする人がいなくなるリスクがあるのです。そして、このとき、後見監督人が選任されるのが嫌で、後見人候補が、裁判所に申し立てを行わないリスクがあるということになります。
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