家族信託で親の預金凍結リスクを防ぐ方法とは/杉並区の行政書士が解説

親御さんが将来的に認知症になってしまうと、銀行に預けてある預金が引き出せなくなる可能性が大となります。事前対策の手を打っていないと、その時点でできる対策は、成年後見人制度の利用などに限定されてしまいます。

しかし、親の認知能力が健全なうちに、親の金融資産の管理を子どもに委託する方法(「家族信託」)もあります。これは、裁判所の監督下におかれ、専門家利用の継続的コストもかかることが多い成年後見人制度に比べて、家族の希望にそった設計が可能なため、柔軟性は高いと言えます。

金融資産を家族信託にするには注意点があります。それは、預貯金には通常は「譲渡禁止特約」がついているため、そのままでは信託財産にできないということです。また、信託契約締結後に、当初予定した金額では親の安心な生活維持に不足する場合があることも考えておく必要があります。

これらの点を、どのように解決するのでしょうか。杉並区の行政書士が解説します。

認知症になるとなぜ銀行預金は「凍結」されるのか?

認知症の方の銀行預金は「凍結される」と言いますが、これは、銀行実務では、預金口座の認知能力のある名義人本人が銀行に出向いて手続きをしないと預金が引き出せないことになっているからです。

親御さんが認知症になると、銀行に自分で出向くことは難しくなります。仮に家族が連れて行ったとしても、認知能力のあることを何らかの方法で確認してもらう必要があります。

結局のところ、親御さんが認知症になると、銀行に預けた預金は引き出しにくいものとなり、事実上「凍結」されるリスクがあるということです。

このような場合には、銀行は、従来は成年後見人制度の利用を勧めていましたが、高齢化の進展もあり、最近では、実務の緩和の動きも発表されています(令和32月全銀協報道発表「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方について」)。

例えば、下図のように、本人の認知判断能力がない場合に、成年後見制度以外に任意代理でも認めるようになっています。しかし、任意代理も完全に本人の認知能力がない場合は締結できません。

家族信託で金融資産を子供が引き出し可能にする方法の注意点

親御さんが元気な内なら、親の金融資産を信託財産とし、委託者と受益者を親、委託者を子供とする家族信託を組むことができます。

具体的にはどうするのでしょう。

注意すべき点があります。

例えば、親が「〇〇銀行〇〇支店 口座番号123456で定期預金1000万円」を持っているとします。この口座と金額を信託の対象として、信託契約書に明記し、さらに、受託者である子どもは親の老後の安心の目的で、この資金を使えるという内容もしっかりと書き込んだとします。

しかし残念ながら、受託者が、銀行窓口でこの預金からお金を引き出すことがはできないでしょう。

なぜなら、通常は各銀行の規程や約款によって、預貯金債権は譲渡禁止特約が付いているからです。(「そのような特約は知らなかった」ことを理由に譲渡を求めることはできません。有名な最高裁判例もあります。)

預貯金債権を信託にすること自体は禁じられていないのですが、受託者がお金を引き出せないなら意味がありません。

それではどうしたら良いでしょうか。

家族信託は、家族の実状に応じてオーダーメイドで作るものですし、判例の積み上がりも少ないので、これが正解というものはないですが、以下のような流れが考えられます。

【信託契約締結前】

取引先の銀行で、家族信託専用の口座を開設ができるか、手続き、費用等を確認しておく。

おおまかにいうと金融機関によって、つぎの3つのパターンがあります。
A「受託者名で新規に口座を開設し、信託専用として使ってほしい」
B「委託者名、受託者名を記載した信託専用の屋号付き口座は開設できる」
C「信託専用の信託口口座が開設できる」

AもBも、新たに開く口座は受託者の個人口座であって、銀行内のシステムでは受託者名で名寄されるはずです(金融機関で念のためご確認ください)。

他方、Cは受託者個人とは紐づかない信託専用口座です。Cは、法的にも受託者の個人財産と分別管理ができるため、家族信託の管理用の口座として一番望ましいです。しかし、Cができる金融機関は多くはありません。さらに、Cタイプの口座開設のためには、金融機関による信託契約の事前審査を有料(数万円)で受ける必要があることがあります。

実務的には、AタイプまたはBタイプでも、金銭の分別管理をしっかりすれば、家族信託はできます。ただし、万一、受託者が親より先に、認知症になったり、死亡したりしたときのことを考え、何らかの手当をしておく必要が出てきます。(後述の「信託専用口座が受託者個人の口座として扱われるリスク」参照

【信託契約の構成】

信託契約の「信託財産の特定」条項に、下記のように親名義の口座名を書く。

【記載例】

     信託金融資産
(1)○○銀行○○支店 ○○○○名義の定期預金 口座番号**********
(2)△△銀行△△支店○○○○名義の普通預金 口座番号**********

信託契約の「信託財産の管理処分の方法」条項に、次のように記載する。

【記載例】

受託者は、信託金融資産についてはこれを換価換金して、これを新たな信託口口座(または信託専用口座)で保存管理し、信託の目的を達成するために、相当と認める額の生活費等を受益者に交付し、また、受益者の医療費い、施設利用費その他の費用を、信託金融資産より支出する。

信託契約に、「追加信託条項」を設け、委託者と受託者の合意によって、金銭を追加信託できる旨を記載する。

例えば、公的年金は信託できませんので、信託契約後も本人口座に振り込まれます。また、当初の信託財産では、受益者(親)の安心な老後生活のための費用が賄えなくなる可能性もあります。信託契約で金銭の追加信託が可能である旨を定めておけば、追加のたびに契約を行う必要はなく、機動的に追加信託を行うことができます。受託者が管理している信託専用口座に委託者が金銭を振り込むことで信託財産の合意がされたことになります。この条項がないと、金銭を信託財産に追加する場合、委託者、受託者、受益者の合意によって信託の契約内容を変更する必要があります。

【記載例】
委託者は、本信託の目的を達成するため、受託者に書面による通知をしてその同意を得た上、信託財産として、第〇条記載の信託財産以外の金銭を追加信託することができる。

【信託契約締結後】

子供が開設した信託専用口座に、親が信託契約で特定した口座から資金を移動する。

受託者が親より先に死亡したり認知症になったりしたら・・・

なお、「信託専用口座が受託者個人の口座として扱われるリスク」ですが、これは受託者が、親より先に死亡や認知症になってしまった場合に、信託専用口座から受託者がお金を引き出せなくなるリスクのことです。

これを避けるためには、信託契約で、第二受託者を約定しておいたうえで、①第一受託者の信託口座を開いた銀行と交渉し、第二受益者を代理人登録しておくか、②信託専用口座をネットバンキング可能としておき、IDとパスワードを第一受託者と第二受託者で共有しておくことが考えられます。

まとめ

家族信託契約は、財産管理•遺言の機能も兼ねることができ、資産受け継ぎのパターンも、ご家族毎のお考え次第で設計可能な便利な仕組みです。一方、比較的新しい仕組みであり、様々な法的または実務的なリスクも考えに入れる必要があるため、難易度の高いものです。検討する際には、家族信託に取り組んでいる行政書士・司法書士・弁護士などの専門家にご相談するのがお勧めです。

当事務所は、家族信託普及協会の正会員として、常に正確な情報収集に努めています。ご興味のある方は、お気軽にご相談ください。

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