東京圏では2030年に高齢者夫婦のみ世帯と高齢者単独世帯が全体の25%に達すると予想されています(首都圏白書)。また、日本全体の65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています(厚労省)。
認知症になりますと、ご自分の財産を、ご自分はもちろん家族でも、管理や処分ができなります。人生100年時代と言われている今こそ、ご自分がお元気なうちに、対策を考えておく必要があります。
老後の資産を守るためには、認知症になった後では、成年後見制度しか選択肢がありません。成年後見制度では、専門家が後見人に就任することが多く、費用もかかりますし、裁判所が監督しますので、家族による柔軟な財産管理が難しくなります。
まだご本人が元気なうちであれば、ご本人の財産を家族を委託者とする信託に移しておくという方法が選択肢に入ります。
家族信託は、私文書でも無効ではありませんが、実務上は公正証書で作ります(信託口座作成時に金融機関は公正証書を求めます。また公正証書であれば、作成時に本人の意思能力がしっかりしていたことの証拠にもなるので、後々のトラブル防止になります)。
その形態は自己信託公正証書、信託契約公正証書、遺言信託公正証書の3種類です。
自己信託と信託契約は、信託行為を行った時から効力を発生させられますので、自分と配偶者の安心設計が目的になります。遺言信託は、自分が死亡したときに発効する信託なので、配偶者の安心設計が目的となります。
以下に、「自宅に住む80代の夫と妻と、近所に住む長女」の3人の家族を例にとって、家族信託のスキームを分類します。
自己信託公正証書
自己信託は、委託者と受託者が同一人物ですので、単独でできます。契約ではありません。
【信託の目的】
夫と妻の老後の安心設計です。
【信託財産】
不動産(自宅の土地・建物)、金融資産
【信託当事者】
・設定者:夫
・受益者:夫と妻
・受託者:夫
・後継受託者:夫の後見開始後、夫の死亡後 長女
【残余財産受益者】
長女
【このスキームのポイント】
◎夫がしっかりしている間は、自分を受託者として、それが不可能となったときに長女を後継受託者に設定しています。
◎夫より妻が先に死亡した場合、そのままだと、委託者=受託者=受益者となってしまいます。これでは、信託を組んでいる意味がなくなりますので信託法(163条2項)によって、1年で信託は終了します。これを避けるために、妻が先に死亡した場合は、長女を後継受益者にすることで信託が終わってしまわないように工夫しています。
◎信託財産は、不動産と金融資産で、受益権は、自宅の土地・建物に無償で居住できることが原則で、老人ホーム等に入居するときには、自宅を売却して入居資金とし、金融資産は夫婦の老後の生活のために使用し、最終的には両親の面倒を見た長女に残余財産が帰属します。
信託契約公正証書(受益者を自己とし、死後は妻とする場合)
信託契約は、委託者と受託者が取り交わす契約です。
【信託の目的】
夫と妻の老後の安心設計です。
【信託財産】
不動産(自宅の土地・建物)、金融資産
【信託当事者】
・設定者:夫
・受益者:夫が生存中は夫、夫の死後は妻
・受託者:長女
【残余財産受益者】
長女
【このスキームのポイント】
◎委託者の夫と、夫の死後の妻の生活が心配という場合に、信託設定の最初から、信頼する長女を受託者として、夫と妻の生涯の面倒を見てもらい、受益者の夫と妻が両方とも亡くなった後は、長女に残余財産が帰属します。
◎信託財産は、不動産と金融資産で、受益権は、自宅の土地・建物に無償で居住できることが原則で、老人ホーム等に入居するときには、自宅を売却して入居資金とし、金融資産は夫婦の老後の生活のために使用し、最終的には両親の面倒を見た長女に残余財産が帰属します。
(なお、このスキームの変形で、当初から夫と妻を受益者とすることも可能です。この場合、信託契約で、夫と妻の受益権の割合を記載する必要があります。)
遺言信託公正証書(受益者を配偶者とする場合)
遺言信託は遺言ですので単独行為です。契約ではありません。
【信託の目的】
妻の老後の安心設計です。
【信託財産】
不動産(自宅の土地・建物)、金融資産
【信託当事者】
・設定者:夫
・受益者:妻
・受託者:長女
【残余財産受益者】
長女
【このスキームのポイント】
◎委託者の夫が、自分が亡くなった後の妻の生活が心配という場合に、遺言により、自分が死亡した後は、信頼する長女を受託者として、妻の生涯の面倒を見てもらい、受益者の妻が亡くなった後は、長女に残余財産が帰属します。
◎信託財産は、不動産と金融資産で、受益権は、妻が自宅の土地・建物に無償で居住できることが原則で、老人ホーム等に入居するときには、自宅を売却して入居資金とし、金融資産は妻の老後の生活のために使用し、最終的には両親の面倒を見た長女に残余財産が帰属します。
これらの3つのタイプの中で、何がいいのかは、それぞれのご家庭の事情に応じて、家族会議を開くなどして決めていくことになると思います。
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