信託は、他社のための財産管理制度です。この信託を家族内で行うのが、家族信託です。
典型例として、老夫婦が自宅を息子に信託し、当初は夫が受益者となり、夫が死亡したら妻が受益者となり、夫も妻も死亡したら、信託は終了し、自宅は息子が取得するケースを考えます。
さて、「そもそも、委託者である夫が死亡したら、信託は終了してしまうのではないか?」という疑問がわきませんか。
答えは、「(家族)信託は、委託者が死亡しても終了しない」です。本日は、この点について解説します。
そもそも、信託の委託者とは何か
信託では、当初は委託者・受託者・受益者の3者が登場します。このうち、委託者(例えば、冒頭の例では自宅所有者のお父さん)は、信託設定の段階では主役です。つまり、委託者は、信託行為の当事者として、自分の財産を信託財産として拠出し、信託の目的設定します。
委託者は、信託の目的設定者ですので、その目的維持のために重要な事項に対する参画権が、信託法によって認められています(信託法149,150,155,159,164,165等)。
しかし、考え方としては、信託が始まってしまえば、受益者と受託者が主役となります。委託者がいなくても、あるいは、痴ほう症等になって判断能力が衰えても、委託者が当初設定した信託目的に沿って、受託者が受益者のために、財産管理を継続するという構図は変わらず続きます。これは、いいことではないでしょうか。
信託の独自の機能「意思の凍結機能」
信託は、他人のための財産管理制度の仕組みです。根拠法は、信託法です。ところで、私法の基本法である民法には、他人のための財産管理に関しては、委任、代理などの似た仕組みがありますが、これらは委託者や本人が死亡すれば、終了します。
委任であれば委託者が死亡すれば終了します(民法653条)し、代理権であれば本人が死亡すれば終了します(民法111条)。
ところが信託は、委託者が死亡しても当然には終了しません。なんとなれば、委託者不在の状態でも、信託は当初の約定どおりに存続します。
これは、民法の世界では考えにくい、信託の独自機能のひとつです。ある高名な学者はこれを「意志の凍結機能」と呼びましたが、分かりやすいネーミングに思います。
このように、信託では、委託者が死亡したり、判断能力が喪失したりという個人的事情に関わらず、信託開始当初に委託者に設定された信託目的に沿って、持続的に受託者による財産管理が継続することができます。この特長があるので、高齢化が進んだ現在の社会で、信託の活用に期待が寄せられているのです。
委託者の死亡で信託が終了する場合もある
ただし、委託者の意図が、委託者の死亡とともに信託を終わらせたいというのはOKです。その場合、当初の信託契約(または信託宣言、遺言信託)で、「委託者の死亡を信託の終了事由とする」と記載すればいいのです。
例えば、父一人・子ども一人の家庭で、自宅所有者の父が将来認知症になると、自宅の売却も簡単にはできなくなるので、父が元気なうちに、父を委託者兼受益者、子供が受託者となる形で、自宅を家族信託にした場合などです。
このとき、委託者たる父が死亡したら、信託にした目的(=父の認知症リスク回避)は達成するので、信託を組む段階で、「委託者の死亡」を信託の終了事由としておくことは合理的です。
委託者の地位は相続するのではないか?
委託者が死亡したときに、委託者の地位は誰かに受け継がれるのでしょうか?
原則は、委託者の地位は相続人に相続されます。
ただし、遺言信託では、遺言で特別に指定していないかぎり、相続人は委託者の地位は当然には取得しません。これは、遺言信託で、法定相続人とは異なる財産の死因処分をする場合には、遺言者(委託者)と受益者の間に利益相反がありえるからです。
このため、遺言信託の場合、委託者不在になる可能性があります。しかし、信託が始まれば、主役は受益者と受託者ですので、委託者不在だからと言って困ることはないのです。
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