自分が亡くなった後、障がいのある子の財産は守れるか――自己信託の仕組みと活用法

障がいのある子どもを持つ親が抱える「親なき後問題」、つまり「自分が亡くなった後、誰が我が子の生活を支えてくれるのか」という不安は、深刻です。大学の研究グループの調査によると、知的障がいのある方の親の9割以上が、子どもの老後に不安を抱えているといいます。この問題への対策として、「自己信託」という家族信託の一形態が、一つの選択肢になりえます。

自己信託とは何か

通常の信託は、「委託者・受託者・受益者」の3者で構成されます。これに対して自己信託とは、委託者と受託者が同一人物となる信託です。つまり、親が自分の財産を信託の対象とし、管理・処分する受託者も親自身が務めます。そして受益者には、判断能力が不十分な子どもを指定します。

親が元気なうちは、親自身が受託者として財産を管理し続けます。その一方で、受益者(子ども)のために財産を使う目的とルールを、信託の設定時に先に決めておくことができます。

自己信託が認められる条件

かつて自己信託は認められていませんでした。委託者が受託者を兼ねると、他の債権者の目が届かない「財産の聖域」ができ、債権逃れに悪用されるリスクがあるからです。

ところが平成19年の信託法改正により、一定の要件のもとで自己信託が認められることになりました。その要件は次の通りです。

  • 信託の目的、信託財産の特定に必要な事項などを記載した公正証書その他の書面または電磁的記録によること(要式行為)
  • 公正証書または公証人の認証を受けた書面の場合 → その作成のときから効力が発生(信託法第4条3項1号)
  • それ以外の書面の場合 → 受益者となるべき者への確定日付ある証書による通知のときから効力が発生(同2号)

このような厳格な方式を要求することで、自己信託がされた事実・内容・日時が客観的に明確になり、事後的な日付の偽造を防ぐことができると説明されています。

なお、受託者(親)が受益権の全部を固有財産で保有する状態が1年間継続した場合は、信託が終了します(信託法第163条第2号)。

親亡き後問題への活用

自己信託の構造は「親=委託者かつ受託者、子=受益者」です。親が財産を信託し、受益者である子のために自分自身が管理を続けます。

この設計には次のような利点があります。

① 財産を守る(倒産隔離) 信託財産は受託者の固有財産と分別管理されます。そのため、万一親が破産した場合でも、信託財産は破産財団に含まれず、受益者である子どものための財産として守られます

② 親亡き後の継続管理 信託契約の中に、親が亡くなった後の後継受託者(誰が引き続き財産を管理するか)をあらかじめ指定しておくことができます。これにより、親の死後も当初の信託目的に従った財産管理を継続させることが可能です。

③ 判断能力があるうちに設計できる 自己信託は公正証書等によって設定しますので、親が元気で判断能力があるうちに、財産管理の枠組みを先に整えておくことができます。

成年後見との違い

成年後見制度も「判断能力が不十分な方の財産保護」を目的としていますが、発動のタイミングと柔軟性が異なります。成年後見は判断能力が衰えた後に家庭裁判所が関与して始まる制度であり、財産の積極的な処分には一定のハードルがあります。

自己信託を含む家族信託は、判断能力があるうちに「目的・管理の範囲・後継者」を自分で設計できる点が、大きな違いです。

まとめ

自己信託は「委託者=受託者、受益者は別の者(障がいのある子など)」という構造の信託です。親が元気なうちに設定することで、自分の目の届くうちから子のための財産管理を始め、かつ親の死後もその仕組みを引き継がせることができます。

「親なき後問題」への備えの一つとして、自己信託という選択肢を頭に置いておくことには、十分な意味があります。具体的な設計には専門家への相談が必要ですが、まず仕組みを知ることが第一歩です。

 

中村光男

この記事を書いた人

行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)

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