自己信託と「親亡き後問題」

1.親亡き後問題とは

自分が亡くなった後「誰が我が子の生活を支えてくれるのか」、これが障がいのある方の親が不安を抱えている「親なき後問題」です。大学の研究グループの調査によると、知的障がいのある方の親の9割以上が子どもの老後に不安を抱えています。

この問題の解決策としては、認知症や知的障がい、精神障がいなどによって判断能力が不十分な方を対象にした成年後見制度の利用などが考えられます。

また、最近徐々に認知度の高まっている家族信託の中の「自己信託」というスキームも、一つの解決のヒントになるかもしれません。

2.自己信託とは

「自己信託」とは、親が自分の財産を対象にして、親自身が委託者、親自身が受託者という信託を設定し、受益者(判断能力が不十分な子ども)のために財産を管理・処分・交付等する信託のことです。

信託契約では、通常、①委任者 ②受託者 ③受益者の3者が登場人物となることが多いですが、①=②となるのが、自己信託です。このような仕組みはかつては、認められませんでした。その理由としては、これを許すと、親の財産の中に、受益者以外の手の及ばない「財産の聖域」ができてしまうので、債権逃れに悪用されるリスクもあるからでした。

ところが、平成19年改正の新しい信託法では、一定条件のもとに自己信託が認められることになりました。

自己信託が認められる条件

自己信託の成立のためには、信託の目的、信託財産の特定に必要な事項その他の一定の事項を記載又は記録した公正証書その他の書面又は電磁的記録によることを要し(いわゆる要式行為に当たる)、また、①公正証書又は公証人の認証を受けた書面もしくは電磁的記録によってされる場合には、当該公正証書等の作成のときから、②公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合には、受益者となるべき者として指定された第三者に対する確定日付ある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知のときから、それぞれ効力が生ずるとされる(信託法第 4 条 3 項 1 号、2 号)。⇒これらの特別の方式を要求することにより、自己信託がされた事実、その内容及び日時等が客観的に明確になると共に、自己信託がされた日時を事後的に虚偽に遡らせることによって委託者の債権者を違法に害することを防止することが可能となると説明されています。

また、何らかの理由で、受託者が受益権の全部を固有財産で保有する状態が1年間継続した場合は信託が終了してしまいます(信託法第163条第2号)。

3.親亡き後問題への自己信託の活用

親の財産を、障がいを抱える子や判断能力がない子に渡しても、子は十分な資産管理ができませんが、親が自己信託を設定し、受益者を子にすれば、親の生前に子に財産をみなし贈与したことになります。そして、親が元気なうちは親が財産管理を続けることができます。また、信託設定した財産は実質的には、受託者たる子供のものですので、万一親が破産した場合でも、子供用の財産は守られます。

この場合、親が亡くなった後の信託財産の委託者を指定しておくことで、親亡き後の子の財産管理も当初の信託設定の目的に従って継続していくことが可能となります。

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