会社をたたんで欲しいという遺言:裕次郎に学ぶ

「俺が死んだら即会社をたたみなさい」——これは昭和の大スター、石原裕次郎が妻のまき子さんに遺した言葉です。

しかし、石原プロモーションはその後34年間、運営され続け、2021年1月にようやく解散しました。

この有名なエピソードは、「会社に関する遺言は、どこまで法的な効力を持つのか」というテーマを考えるうえで、とても良い素材です。

会社の社長という地位は相続されない

まず、大前提として押さえておきたいのが、「社長の地位は相続されない」という点です。

会社の代表取締役(社長)は、会社と委任契約を結んでいます。委任契約は、当事者の一方が死亡すると終了すると民法に定められています(民法653条1項)。つまり、社長が亡くなった瞬間に、その経営者としての地位は消滅し、相続人に引き継がれることはありません。

裕次郎さんの場合、相続人は妻のまき子さんと兄の石原慎太郎氏でした。渡哲也さんは相続人ではなく、新社長への就任は会社法のルールに基づく選任によるものです。

新しい代表取締役の選任方法は、会社の形態によって異なります。

  • 取締役会のある会社 → 取締役会が取締役の中から代表取締役を選任します(会社法362条2項)
  • 取締役会のない会社 → 定款の定め、取締役の互選、または株主総会の決議によって選任できます(会社法349条)

社長が持っていた株式は相続される

一方、社長が個人として保有していた株式は、通常の財産と同様に相続の対象となります。株式はあくまでも個人の資産であり、会社との委任関係とは切り離されているからです。

つまり、社長が亡くなった場合、「経営者の地位」は会社法のルールで後継者が決まり、「株式の所有権」は相続法のルールで相続人に引き継がれる——この二つは、まったく別のルートをたどるということです。

地位 根拠法 相続の可否
代表取締役(社長)の地位 会社法・民法(委任) 相続されない
株式(会社の所有権) 相続法 相続される

「会社をたたんで欲しい」という遺言の効力は?

では、「会社をたたんで欲しい」という遺言は、法的にどんな意味を持つのでしょうか。

会社を解散・清算するためには、株主総会で解散決議を行い、清算手続きを経る必要があります。株式を相続した相続人は、株主としてこの手続きに関わることができます。つまり、相続人が「遺言の思いを実現しよう」と、株主の立場から会社に解散を働きかけることは可能です。

しかし、現実には従業員の雇用や取引先への影響など、様々な事情が絡みます。相続人が株主として働きかけたとしても、必ずしも速やかに解散できるとは限りません。そうした場合に「遺言に背いた」ことになるのか、というのは難しい問題です。

法律的に整理すると、「会社をたたんで欲しい」という記載は、遺言書における付言事項(遺言者の気持ちや希望を添える文章)として位置づけられることが多いと考えられます。付言事項は、守らなければ相続できないという強制力を持つものではなく、残された人々が遺言者の思いを受け止めながら、状況に応じた判断をする余地があります。

まき子さんの判断について

まき子さんは2020年の取材に対し、「裕次郎の遺言は知っていたが、俳優やスタッフの会社への愛情を感じ、運営を続けた」と語っています。そして高齢による実務の限界を感じたとき、スタッフから「惜しまれるうちに商号を返すことを、裕次郎さんも承知してくれるはず」という言葉を受け、「ここで遺言を実行しました」と決断されました。

(出典:中日新聞 https://www.chunichi.co.jp/article/90746)

法的な強制力とは別に、遺言者の「思い」をどのように受け止め、いつ、どのように実現するかは、残された人々の誠実な判断に委ねられているとも言えます。

まとめ

この事例から学べる相続法のポイントは、次の2点です。

  • 会社の社長という地位は、死亡により消滅し、相続されない。後継者は会社法のルールで選ばれる。
  • 社長が持っていた株式は相続され、相続人は株主として会社の意思決定に関与できる。

そのうえで、「会社をどうして欲しい」という遺言の記載は、法的な強制力という意味では限界があり、付言事項として遺言者の思いを伝えるものと解釈されます。まき子さんが34年越しに「遺言を実行した」と語った言葉には、法律論を超えた深い意味が込められているように感じます。

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