遺言書と異なった内容の遺産分割協議

1.相続の割合の決め方

通常のケースでは、相続人が相続財産を次の順序で分配するのが原則です。

相続財産の分配の順序

①相続の割合は、遺言がある場合は、遺言に従って分けます。
        ↓
②遺言が無ければ、相続人同士が話し合って決めます(この話し合いを遺産分割協議と言います)。   
        ↓
③相続人の協議で相続分が決まらない場合は、家庭裁判所へ調停を申し立てて、第三者を立てて遺産分割協議を進めます。

2.法定相続分は、話し合いの目安

上記のように、遺言が無い場合は、相続人同士の協議となりますが、その目安が民法の定める法定相続分です。

法定相続分は、あくあでも相続の公平さを保つための目安です。個々の相続には様々な事情がありますから、相続人全員の合意があれば、法定相続分どおりに分割する必要はありません。

法定相続分

イ 配偶者と子供が相続人である場合
   配偶者1/2 子供(2人以上のときは全員で)1/2
ロ 配偶者と直系尊属が相続人である場合
   配偶者2/3 直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
ハ 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
   配偶者3/4 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)1/4  
 
  ※(民法887、889、890、900、907)

3.遺言の内容に反する遺産分割(遺言執行者がいない場合)

遺言執行者が指定されていないときは、相続人全員の合意によって、遺言と異なった内容で遺産分割を行うことが可能です。

例えば、子供3人が相続人だったときに、遺言では自宅を子供3人で共有にして欲しいと書いてあったとしても、子供3人で話し合いを行った結果、自宅は長男単独名義で相続しようと決めて登記することは可能です。

事例は多少異なりますが、このことを肯定的に認めたのが、さいたま地裁平成14年2月7日の判例です。

この判例では、「相続させる旨の遺言による場合でも、遺言者の通常の意思は相続を巡って相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、遺言と異なる遺産分割が相続人間によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえず、相続人間において遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできない」と説明されました。

もっとも、相続人(法定相続人・受遺者)のうち一人でも合意ができない場合は、もとに戻って、基本通り遺言が優先されます。

4.遺言の内容に反する遺産分割(遺言執行者がいる場合)

遺言執行者が指定されている場合は、相続人全員が遺言内容とは異なる遺産分割に同意していたとしても、相続人は相続財産に対する管理処分権はなく(民法1013)、遺言執行者が管理処分権を有する(民法1012)ので、遺言執行者は、遺言に基づいた執行をなすことができます。

遺言の執行の妨害行為の禁止

第1013条1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。 2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。 ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

 

ただし、遺言執行者の同意の下に、合意が利害関係を有する関係人全員(相続人・受遺者)でなされ、かつその履行として処分行為がなされた場合に、民法1013条の目的に反するものではないとして相続財産の処分行為を有効とした判例があります(東京地判昭和63年5月31日)。

実務上も、遺言執行者が指定されていたとしても、相続人全員が同意しており、本質的に遺言の趣旨に反していないなら、遺言執行者が同意すれば遺言と異なる分割も可とされているようです。

5.国税庁の見解

遺言と異なる遺産分割が相続人全員の協議でなされた場合には、遺言により相続財産を原始的に取得した相続人から他の相続人に贈与があったことになりはしないかという心配もあります。
この点について、国税庁の見解は否です。

国税庁No.4176 遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税

特定の相続人に全部の遺産を与える旨の遺言書がある場合に、相続人全員で遺言書の内容と異なった遺産分割をしたときには、受遺者である相続人が遺贈を事実上放棄し、共同相続人間で遺産分割が行われたとみるのが相当です。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。

なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。
(相法11の2、民法907、986)