長年にわたり「土地は資産」と日本では言われてきましたが、都心を除けば、少なくない土地が「『負』動産」として相続放棄や相続人不明となっています。所有者不明土地の増加によって、防災や景観などへの悪影響が目立ち、地域社会の負担となっています。
この問題を解決するために、最近、大きな民事法の改正が相次いでいます。今回は、それらの法改正の主なものの概要を、わかりやすく、当コラムの動物君たちに語り合ってもらいます。この記事は5分で読めます。
所有者不明土地法 (2018年6月成立)
所有者不明土地って何?
不動産登記簿に記載されている人が実態と違っていたり、所在が不明で連絡がつかない土地のことだよ
所有者不明土地法はなぜ生まれたの?
以前は、土地は資産価値が高かったので黙っていても登記がされていた。ところが、最近では少子高齢化と土地の価値の下落によって、未登記のため所有者が分かない土地が全体の25%前後になっているからだよ
所有者不明土地法ではどんなことを決めているの?
一定の要件をみたせば、都道府県知事の裁定で所有者不明土地の活用できるようになったよ。それと、自治体に関係者が土地所有者等関連情報の利用及び提供を申請するルールも決めたよ。詳しくは、下のボックスを見てね。
1 所有者不明土地法に基づく知事の裁定
特定所有者不明土地を地域住民等の福祉や利便の増進のために利用しようとするときは、都道府県知事に対し、特定所有者不明土地の使用についての裁定を申請することができます。
申請は、民間企業やNPO、自治会、町内会などどなたでも行うことができます。
(2)土地収用法の特例
土地収用法の事業の認定を受けた収用適格事業について、その起業地内にある特定所有者不明 土地を収用し、又は使用しようとするときは、都道府県知事に対し、特定所有者不明土地の収用又は使用についての裁定を申請することができます。
2 所有者不明土地法に基づく土地所有者等関連情報の利用及び提供
地域福利増進事業等を実施しようとする土地の所有者等を知る必要がある場合、その土地が所 在する区市町村に対し、土地所有者等関連情報の提供を請求することができます。
地域福利増進事業って何かな?
まさに。地域福利増進事業とは、特定の所有者不明土地を、公園の整備といった地域のための事業に利用することを可能とする制度なんだ。
所有者不明土地が公園になるなら地域の人もうれしいね。
それはその通りだけど、実際には、過去には全国で1件しか成功例がない。というのも、民間の人たちが、所有者の可能性のある人を探し出して、合意を取り付けていく手続きが実際には大変だからだよ。というのも、所有者不明土地法の「所有者不明土地」は定義が意外に狭いんだ。
「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地」(第2条)
不動産登記法改正(2021年4月成立。2023年4月以降、順次施行)
不動産登記についても色々変わるらしいね
そうなんだ。「所有者不明土地」の発生を防ぐために、土地だけでなく建物も含め、不動産を相続したことを知ってから3年以内に相続登記を行うことが、2024年6年4月1日から義務化される。正当な理由なく申請をしない場合には、10万円以下の過料が科される可能性があるから注意しないといけないよ。
3年で相続人間で、誰が不動産を相続するか話がまとまらない場合もあるんじゃないかな?
そうなんだ。3年はあっという間だからね。そのための制度もできた。「相続人申告登記」っていうんだ。2023年4月1日から開始される。これは、相続人が登記名義人の法定相続人であることを登記所に申し出て、登記官がその方の氏名や住所などを職権(地位にもとづき実施できる権限)で登記するんだ。その後、しっかり遺産分割協議を進めて、正式に登記し直せばいいんだ。ただし「付記登記」は権利を確保する効果はないから注意がいるよ。この登記の特徴は、したのボックスをみてね。
- 持分は登記されない
- 単独で申告できる
- 添付書面が簡略化されている
- 非課税
相続登記が、だいぶ楽に楽なるね。
これで、少しでも所有者不明土地が減ればいいね。
【一言】登記は従来は個人の権利保護、取引の安全が主目的。今後、登記は、社会の基盤である土地の情報に誰でもアクセスできる情報プラットホームとしての機能することが期待されています。
民法改正(2021年4月成立、2023年4月施行)
民法もだいぶ変わるんでしょう?
所有者不明土地を減らすために、民法も変わるよ。大きく言えば、下のボックスにある4点。別のコラムで解説があるから見てね。
•不明共有者がいる場合に金銭供託等により共有関係を解消する方策の整備
•所有者不明土地・建物に特化した財産管理制度や管理不全土地・建物の管理制度の整備
•水道、ガスなどライフライン設置のための隣地使用を可能とする相隣関係規定の整備
•相続開始から長期間経過した遺産の分割方法の見直し(10年経過後は法定相続分で簡明に分割)、等
【一言】今回の民法改正は、所有者不明土地の問題解決に限られず、人口減少時代における財産承継のあり方そのものを変えていく意味があると思います。
相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(新法)(2021年4月成立。2023年4月施行)
いわゆる「国庫帰属法」ですよね。どうして、新法になったの。
最初は、民法に土地所有権を放棄できるルールを作ろうとしたらしい。でも、そうすると、建物はどうする?という話になって、社会的にはわかりやすいルールにするのは難しいという意見があって、今回の新法となったらしいよ。
国庫帰属できる土地を、相続に限定したのはなぜかな?
所有者が、土地の管理を都合よく国に押し付けるような、モラルハザードは排除したいからだよ。相続であれば、仕方がないことなので、社会的にも受け入れやすいからね。下のボックスに概要があるよ。別のコラムでも説明があるから見てね。
【一言】国庫に帰属させるために、お金がかかるし、土地の条件が厳しすぎるという声もありますが、従来は、所有権放棄できなかった土地の国庫帰属の途が開かれた点に大きな意味があると思います。今後施行から5年後に見直しがある予定ですので、これからの実態を見て、制度改定があると思われます。
まとめ
しば君が説明してくれたように、所有者不明土地防止に関連して、多くの民事法制のルールが変わっています。しかし、2022年の調査では、「相続土地登記の義務化」を「よく知らない」「まったく知らない」が約66%、相続土地国庫帰属制度を「よく知らない」「まったく知らない」が約84%だそうです(法務省調査)。今後は、新聞やTV等でも報道される機会が増えると思います。大相続時代と言われる時代は、すぐそこに来ています。今のうちから、興味をもって備えていただきたいと思います。
当事務所では、相続や土地国庫帰属の申請などのご相談を承ります。
行政書士中村光男事務所について