空家対策で民法4つの改正スタート/杉並区の行政書士が解説

2017年の国土交通省の調査では全国の土地の22%が所有者不明土地となっています。高齢化が進むため、手を打たなければ所有者不明土地は益々増加すると危惧されています。所有者不明土地の増加を防止すること、所有者不明土地の利活用を進めることの2つが社会的な課題です。

そこで、政府は2020年に各種法制を整備する骨太方針を出しました。その一環として、2023年4月1日から、民法の一部改正が施行されます。改正内容は、「相隣関係」「共有」「所有者不明土地管理命令」「相続」の4分野が主なものです。その内容を、わかりやすく、解説します。

1.相隣関係の規定の見直し

隣地の所有者が不明の場合、一時的な工事のために隣地に立ち入りたい場合とか、枝が伸びてきた場合の切り取り等の同意が得られないので、困ることがありました。そこで、所有者不明土地の隣地の利活用を進めるために、以下の3点が改正されます。

①隣地使用権のルールの見直し
従来は「請求権」ですが、2023年4月1日からは「使用権」に格上げされます。

原則的に事前の所有者の同意が必要ですが、所有者不明の場合は、所有者が判明してから事後的に通知すればよいことになります。(民法209条)

②ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備
水道・ガス等のライフラインを自己の土地に引き込むためのパイプなどの設備を他人の土地に設置する権利が明確化されました。隣地の所有者が不明な場合は、隣地使用権のルール(所有者判明後に事後通知)が準用されることになります。(民法213条の2)

③越境してきた竹木の枝の切り取りのルールの見直し
従来も「切除させる権利」でしたが相手が応じない場合や、所有者不明の場合は曖昧でした。今回は、これらの場合には、切り落とせることを明確化しました。(民法233条2項、3項)

2.共有制度の見直し

共有物の管理は、持分の過半数の同意が必要ですが、共有者が不明な場合は、利用に関する共有者間の意思決定や持分の過半数同意を得るのが困難でした。

そこで、共有者が不明な場合は、裁判所に請求して「不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度」と「不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭の供託により、不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する仕組み」がスタートします。(民法251条,252条,252の2条、262の2条)

3.土地や建物の管理制度の見直し

現行法では、不在者の土地や建物の管理は、人単位で財産全般を管理する必要があるため、すべての財産調査が必要である手間がかかる制度でした。また、所有者が判明していても、管理が不十分で隣家が大変困っている場合でも、不法行為や物権的請求権に基づく損害賠償や裁判による強制執行などの手段しかなく不便でした。

そこで、所有者不明や管理不全の土地・建物への対応を円滑にする2つの制度がスタートします。

⓵所有者不明土地・建物の管理制度の創設

個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度ができます。利害関係者の請求により、裁判所が管理命令を発令し、管理人を選任します。裁判所の許可があれば売却も可能となります。(民法264条の2~264条の8)

【申立権者】
・利害関係人(管理不全で迷惑している隣地所有者、共有地で他の共有者が不明の場合の共有者、公共事業の実施者など)

 ※国の行政機関または地方公共団体の長も申立の権利あり(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法38条)

【発令要件】
・調査しても所有者またはその所在が知ることができないこと
・管理状況が悪く管理人による管理の必要があること

②管理不全土地・建物の管理制度の創設

所有者が土地・建物を管理せずこれを放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある場合に、利害関係者の請求により、裁判所による管理人の選任が可能となります。(民法264条の9~264条の14)

【申立権者】
・利害関係人
 ※所有者不明土地・建物と異なり、国の行政機関または地方公共団体の長も申立の権利は明文化されていません。

【発令要件】
・所有者の土地・建物の管理が不適当なため、他人の権利・利益が侵害され、または侵害される恐れがある場合で、裁判所が管理人による管理が必要と認めるとき。

4.相続制度の見直し

相続不動産の遺産分割がされないまま長期間放置される場合がありますが、時間の経過とともに、証拠も散逸してしまうため、相続人による共有状態を解消することが難しくなっていました。

そこで、相続人間の遺産分割の交渉期限を10年とし、相続開始(被相続人の死亡)から10年経過後は、画一的に法定相続分によって簡明に遺産分割をすることとなります。(民法904条の3)

ただし10年経過後も相続人全員が具体的相続分による遺産分割に合意した場合等は例外とされています。

まとめ

相隣関係・共有制度・管理制度の見直しは、主として、空家の隣地の方などの利害関係者の便宜を図る目的のものです。これにより、空家や空地近辺の土地の利活用が進むことが期待できます。

相続の見直しは、これ以上空家は増えないようにする目的のものです。民法だけでなく、登記制度や空地の国庫帰属制度など、多くの法制度が、空家の増加防止、近辺の利活用推進の目的で制度改定されていきます。今後も、注目していきたいと思います。

 

ご参考(過去の関連記事) 2022/11/26 コラム  2022/11/27 コラム

サイト管理者の杉並区の行政書士中村光男です。ホームページにもお立ち寄りください。

何かお聞きになりたいことがあれば、お気軽にをお問い合わせメールを頂ければ幸いです。