親から相続した自宅が昭和56年3月以前に建築された古い家の場合、空き家のまま、あるいは、敷地にして、相続から3年以内に売却すると、売却益が3000万円も非課税になる制度があります。この大きな節税となる特例を受けるためには、各種条件があります。これを知らずに、家屋・土地の譲渡をしてしまうと後悔するかも知れません。
なお、この特例は令和6年以降は、「リフォーム」や「建物取り壊し」は、譲渡契約後に買い手が行ってもいいことになりました。これでますます、この特例の魅力度は高くなりました。
空き家特例
相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円(注)まで控除することができます。
これを、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。
(注) 令和6年1月1日以後に行う譲渡で被相続人居住用家屋および被相続人居住用家屋の敷地等を相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上である場合は2,000万円までとなります。
参考 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
知っておきたいこと
①古すぎて取得価格が判然としない不動産の売却には、「悪魔の5%ルール」と言われる算定ルールのために、売った価格の95%に課税される可能性があることです。
②最寄りの自治体から「被相続人居住用家屋等確認書」を取得するなど一定の条件を満たせば、「相続空き家の3,000万円の特別控除」で大きな節税が可能であることです。
「相続空き家の3,000万円の特別控除」の特例を受けるためには、空家の譲渡前、相続前から特例の要件を知っておくのがベターです。
悪魔の5%ルールとは
ざっくり言って、不動産を売却したときには、売った価格(譲渡価格)から取得した価格(取得費)を控除した差益に不動産譲渡所得税が課税されます(※)。
売った土地建物が先祖伝来のものであるとか、買い入れた時期が古いなど、取得費が分からない場合には、売った金額の5パーセント相当額を取得費とすることができます。
例えば、土地建物を3,000万円で売った場合に取得費が不明のときは、売った金額の5パーセント相当額である150万円を取得費とすることができます。
不動産譲渡所得税の税率は、長期譲渡(※※)の場合、国税(所得税)15.315%+地方税(住民税)5%=20.315%です。
したがって、(3,000万円-150万円)×20.315%=578万円が税金です。なんと、譲渡価格の95%に課税されるのです。これが、業界で「悪魔の5%ルール」と言われているものです。
※譲渡価格には固定資産税と都市計画税の清算金が含まれます。また譲渡費用は控除できます。
※※譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超える土地や建物を売ったとき。起算は被相続人の取得日です。
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除とは
相続した新耐震基準前(昭和56年)の古い家を、解体して更地にするか耐震の改修をいたうえで、売却した場合には、譲渡所得から最大3,000万円を特別控除できるという措置です。
上の例で計算すると、税金が578万円節約されることが分かります。
【空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除なし】
不動産譲渡所得税 (3,000万円-150万円)×20.315%=578万円
【空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除あり】
不動産譲渡所得税 (3,000万円-3,000万円)×20.315%=0
とても、節税効果が大きい措置です。
3,000万円特別控除の条件
節税効果が大きいので、適用されるための条件も厳しいです。
ただし、令和6年1月1日以後の譲渡から、売買契約等に基づいて、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除却の工事を行った場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となっています。
制度の概要
相続または遺贈により取得した被相続人居住用家屋または被相続人居住用家屋の敷地等を、平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に売って、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができる制度です。
国土交通省HPより 空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)
特例を受ける建物の要件
特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋で、次の3つの要件すべてに当てはまるもの(主として被相続人の居住の用に供されていた一の建築物に限ります。)をいいます。
イ 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
ロ 区分所有建物登記がされている建物でないこと。(⇒マンションは対象外。空き家の深刻さが違うという判断でしょうか?)
ハ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと(要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合を含む)。
特例を受ける主たる要件
家屋及びその敷地を譲渡する場合 | 1.譲渡価格が1億円以下 2.相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものであること (平成31年4月1日以降の譲渡については要介護認定等を受けて被相続人が相続開始の直前に老人ホーム等に入居していた場合も一定の要件のもとに対象となりました。) 3.相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者がいなかったものであること 4.昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除く)であること 5.相続の時から譲渡の時まで事業の用、家屋が貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと 6.耐震リフォームし、家屋及び家屋の敷地等を譲渡した場合(譲渡の時に現行の耐震基準に適合していて、リフォームをしない場合を含む) ⇒令和6年1月1日以後の譲渡から、売買契約等に基づいて、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除却の工事を行った場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となっています。 |
家屋を取り壊して土地のみを譲渡する場合 | 上記1~4の要件に加え、
1.相続の時から家屋の取り壊しの時まで、取り壊した家屋が事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと |
⇒このように、令和6年1月1日以後の譲渡から、売買契約等に基づいて、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除却の工事を行った場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となったのですが、翌年2/15までに取壊しをすることが分かるように売買契約書に、その内容を記載をしなければなりませんので、忘れないようにしましょう。
特例のための手続きの流れ
この特例の適用を受けるためには、譲渡した家屋所在地の区市町村へ被相続人居住用家屋確認申請書及び確認表に必要書類を添付し、「被相続人居住用家屋確認申請書」の交付申請をします。申請後、区で交付した「被相続人居住用家屋確認申請書」を確定申告時に管轄の税務署へ提出します。
「被相続人居住用家屋確認申請書」の交付申請は自分で行うと面倒ですが、(私も含め)行政書士に依頼も可能ですので相談されてみてください。
なお、相続人が複数名いる場合は適用を受けようとする方それぞれが、被相続人居住用家屋等確認申請書を作成する必要があります。(添付書類も申請ごとに必要となります)
また、確認表に記載されている添付書類以外にも必要に応じて書類の提出を求められる場合があります。
被相続人居住用家屋等確認書の申請方法
下記は、杉並区の例です。各自治体ごとに、同様のHPがありますのでご覧ください。
【申請書】
・家屋及びその敷地を譲渡する場合
⇒(別記様式1-1)被相続人居住用家屋等確認申請書及び確認表
・家屋を取り壊して土地のみを譲渡する場合
⇒(別記様式1-2)被相続人居住用家屋等確認申請書及び確認表
【主たる添付書類】
・家屋及びその敷地を譲渡する場合
1.被相続人の「除票住民票の写し」の原本
2.相続人の「住民票の写し」の原本(相続開始の直前から譲渡時までの住所がわかるもの)
3.家屋またはその敷地等の売買契約書の写し等
4.以下の書類のいずれか
●電気、ガス、水道のいずれかの使用中止日が確認できる書類
●当該家屋の媒介契約を締結した宅地建物取引業者が、当該家屋の現況が空き家であることを表示して広告している ことを証する書面の写し(宅地建物取引業者による広告が行われたものに限る。)
家屋の取り壊し後、土地のみを譲渡する場合
1.被相続人の「除票住民票の写し」の原本
2.相続人の「住民票の写し」の原本(相続開始の直前から譲渡時までの住所がわかるもの)
3.被相続人居住用家屋の取壊し、除却または滅失後の敷地等の売買契約書の写し等
4.当該空き家の閉鎖事項証明書
5.以下の書類のいずれか
●電気、ガス、水道のいずれかの使用中止日が確認できる書類
●被相続人居住用家屋の媒介契約を締結した宅地建物取引業者が、当該家屋の現況が空き家であり、かつ、当該空き家は除却または取壊しの予定があることを表示して広告していることを証する書面の写し(宅地建物取引業者による広告が行われたものに限る。)
●被相続人居住用家屋の取壊し、除却または滅失の時から譲渡の時までの被相続人居住用家屋の敷地等の使用状況が分かる写真
注意点
●空き家を譲渡する前に、予め特例の要件可否を確認することが重要です。
●空き家と敷地を双方相続した相続人が適用対象です。複数の相続人が空き家と敷地を共有で相続した場合は、全員が個別に申請する必要があります。
●複数の相続人が特例を適用する場合は、すべての相続人の譲渡価格の合計(固定資産税等の清算金を加算した額)が1億円以下であること。
●家屋の耐震リフォームをするか、解体して更地にすること(令和6年以降の譲渡では、買い手側が行ってもよいことになった)。
【最後に】
繰り返しですが、この特例を活用するためには、一連の計画的行動が必要となります。関心がある方は、なるべく早い段階で、税務面は税理士、家屋確認申請は、空き家問題に詳しい行政書士などへご相談ください。
サイト管理者の杉並区の行政書士中村光男です。ホームページにもお立ち寄りください。
何かお聞きになりたいことがあれば、お気軽にをお問い合わせメールを頂ければ幸いです。