民法1013条改正のポイント
2019年1月1日より施行された相続法改正により、遺言執行者の権限が強化されました。今回の記事では、改正民法1013条について解説し、遺言執行者と相続人の関係、そして善意の第三者の保護について詳しく見ていきます。
第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
1. 遺言執行者の役割と権限
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為を行う権限を持ちます。具体的には、以下の業務が挙げられます。
- 遺言の内容に沿って、遺産の管理・処分を行う
- 遺言書に記載された遺贈を実行する
- 相続人に対して、遺産の引き渡しを求める
- 遺産分割協議の進行役を務める
- 遺言の内容に関する裁判所に訴訟を提起する
第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。
2. 相続人の妨害行為の禁止(民法1013条1項)
遺言執行者がいる場合、相続人は遺言執行の妨害となる行為をすることができません。具体的には、以下の行為が該当します。
- 遺言執行者の同意を得ずに、遺産を処分する
- 遺言執行者の業務を妨害するような言動をする
- 遺言執行者に対して、虚偽の情報を提供する
3. 妨害行為を行った場合の法的効果(民法1013条2項)
相続人が妨害行為を行った場合、その行為は無効となります。しかし、善意の第三者に対しては、無効を主張することができない点に注意が必要です。
例:
相続人が、遺言執行者の同意を得ずに遺産を第三者に売却した場合、その売却は無効となります。しかし、第三者が遺言執行者の存在を知らずに購入した場合は、売却は無効とならず、第三者は遺産を取得することができます。
4. 相続債権者の権利(民法1013条3項)
改正民法では、「遺言執行者がいる場合でも、相続債権者や相続人の債権者は、相続財産について差押えなどの強制執行を行うことができる」ルールとなりました。
以前は、遺言執行者がいると、相続人の債権者は相続財産を差し押さえることが難しい状況でした。これは、遺言の内容が優先されるため、債権者が不利益を受ける可能性があったからです。
今回の改正により、遺言執行者がいても、相続人の債権者は相続財産を差し押さえることができるようになりました。これは、債権者の権利を守るために重要な変更です。
遺言執行者は、速やかに遺言を実行することで、債権者の権利を害さないようにする必要があります。
今回の改正は、遺贈だけでなく、「相続させる旨の遺言」(特定財産承継遺言)にも適用されます。
5. まとめ
民法1013条の改正により、遺言執行者の権限が強化され、遺言執行の円滑化が図られました。相続人は、遺言執行者の業務を妨害することなく、遺言の内容が尊重されるように協力することが重要です。
参考
最高裁判例(相続させる旨の遺言)