以前のコラム(韓国籍の方の相続と遺言)で書いたように、韓国籍をもって日本に住んでいる方については、特に遺言で「自分の相続は日本法に従う」と明記しておかない場合には、相続・遺言は韓国民法に従います。
韓国の民法は、最近改正がありました。そこで、最新の韓国の相続法の重要な部分について見ていきたいと思います。
韓国民法を閲覧できる公式なサイトは、韓国の「国家法令情報センター (National Law Information Center)」です。このサイトでは、韓国民法をはじめとするさまざまな法律を確認することができます。このサイトで「민법」(民法)を検索すると、韓国民法の全条文を閲覧できます。
韓国の相続は、四親等内の傍系血族も相続人になりえる
韓国の民法は、日本の民法ととても似ていますが、相続人については、いとこが第4順位の相続人となっている点が異なります。
日本では、下記の法務局の図のように、①被相続人の配偶者が常に相続人(順番なし)となり、②その他は、第一順位(子供)、第二順位(最も親等の近い直系尊属)、第三順位(兄弟姉妹)です。
<日本の相続人>
韓国で、第四順位として「被相続人の4親等内の傍系血族(直系ではないが同じ祖先をもつ血族)」が書かれています。つまり、叔父さん、叔母さん、いとこまでが相続人になる場合があるということです。
「韓国民法第1000条(相続の順位)
- 相続において、以下の順序で相続人となる者は次の通りである。<1990年1月13日改正>
- 被相続人の直系卑属(子孫)
- 被相続人の直系尊属(祖先)
- 被相続人の兄弟姉妹
- 被相続人の4親等内の傍系血族
- 第1項の場合において、同一順位の相続人が2人以上いる場合は、血族関係の親等が最も近い者が相続の優先権を有する。同じ親等で2人以上の相続人がいる場合は、共同相続人となる。
- 相続の順位に関して、胎児は出生したものとみなされる。<1990年1月13日改正>」
韓国の相続は、兄弟よりは配偶者を優先する
日本の民法では、被相続人に子供などの直系卑属や、両親のような直系尊属がいない場合に、第三順位の相続人として兄弟が相続権を持ちます。韓国の民法では、このようなケースでは、配偶者が単独相続人となります。
「韓国民法
第1003条(配偶者の相続順位)
- 第1000条第1項第1号および第2号に定められた相続人が存在する場合、被相続人の配偶者は、これらの相続人と同じ順位で共同相続人となる。相続人が存在しない場合、配偶者は単独で相続人となる。<1990年1月13日改正> Article 1003 (Order of Inheritance of Spouse) (1) If there exist such inheritors as provided in Article 1000 (1) 1 and 2, the spouse of the inheritee becomes a co-inheritor, in the same order as the said inheritor. If there exists no inheritor, the spouse becomes the sole inheritor. <Amended on Jan. 13, 1990>」
日本ですと、子供のいない夫婦で、遺言がないと残された配偶者と被相続人の兄弟(または代襲相続したおいやめい)との間で、遺産分割協議が必要ですが、韓国民法では、配偶者が単独で相続可能となります。
韓国の相続は、代襲相続の際に「お嫁さん(婿さん)」も相続できる
日本の民法では、被相続人により先に子供が死亡した場合に、その子供の配偶者(例:長男の嫁)には相続権はありません。このようなケースでは、亡くなった長男に子供がいれば代襲相続となり、亡くなった長男に子供がいなければ他の兄弟が相続権を得ます。
そのため、長男が親より早く死亡したので、お嫁さん義理の親の面倒をみていたとしても、お嫁さんには義理の親の相続権はありません。
しかし、韓国の民法では、このケースでは長男のお嫁さんも代襲相続した子供や、子供がいない場合にでてくる兄弟姉妹の代理人とともに、相続権を得ます(韓国民法1003条2項)。この問題は、本来の相続人である長男がが被相続人である親より早くなくなった場合にのみ生じることですので、代襲相続の関連規定となっています。
「韓国民法
第1001条(代襲相続)
第1000条第1項第1号または第3号に基づいて相続人となるべき直系卑属または兄弟姉妹が死亡したり、相続開始前に相続資格を失った場合、その者の直系卑属が、その死亡または資格を失った者が相続人となるべき順位で相続人となる。<2014年12月30日改正>
第1003条(配偶者の相続順位)
- 第1000条第1項第1号および第2号に定められた相続人が存在する場合、被相続人の配偶者は、これらの相続人と同じ順位で共同相続人となる。相続人が存在しない場合、配偶者は単独で相続人となる。<1990年1月13日改正>
- 第1001条に記載された場合において、相続開始前に死亡または資格を失った者の配偶者は、同条に定める相続人と同じ順位で共同相続人となる。相続人が存在しない場合、配偶者は単独で相続人となる。<1990年1月13日改正>」
韓国の相続では、配偶者の相続分が異なる。
日本の配偶者の法定相続分は、配偶者以外の相続人が子供のときは1/2, 直系尊属のときは2/3,兄弟姉妹のときは3/4です。
一方、韓国の場合は、配偶者以外の相続人が子供か直系尊属のときは、配偶者の相続分は子供または直系尊属の50%増しというルールです(配偶者と兄弟姉妹の場合は配偶者だけが法定相続人ですので、この問題はおこりません)。
したがって、韓国の相続のルールでは、子供が多いほど配偶者の相続分は少なくなります。
「第1009条(法定相続分)
- 同順位の相続人が2人以上いる場合、その相続分は等しく分割される。<1977年12月31日、1990年1月13日改正>
- 配偶者が直系卑属と共同相続する場合、配偶者の相続分は直系卑属の相続分より50%増加される。また、配偶者が直系尊属と共同相続する場合も、直系尊属の相続分より50%増加される。<1990年1月13日改正>
- 削除 <1990年1月13日>」
韓国の相続では、兄弟にも遺留分あり
日本の相続人の遺留分は、配偶者・直系卑属は1/2,直系尊属は1/3,兄弟姉妹には遺留分はありません(1042条)。
韓国では、基本は同じですが、兄弟姉妹にも直系卑属同様の遺留分があります。もっとも、被相続人に配偶者がいる場合には、兄弟姉妹に相続権自体がないのは前に述べた通りです。
韓国民法
「第1112条(遺留分権利者および遺留分)
相続人の遺留分は、以下の各号に従って計算される。
- 被相続人の直系卑属については、法定相続分の2分の1。
- 被相続人の配偶者については、法定相続分の2分の1。
- 被相続人の直系尊属については、法定相続分の3分の1。
- 被相続人の兄弟姉妹については、法定相続分の3分の1。」
日本の不動産を韓国の相続ルールで相続する場合は?
「法の適用に関する通則法」によれば、不動産の相続に関してはその不動産が所在する国の法律が適用されるという規定があります。したがって、
- 被相続人が韓国人である場合、相続分や遺留分に関しては、韓国民法が適用されます(国際私法の原則)。
- ただし、日本国内にある不動産に関しては、日本法(不動産所在地法)が適用され、登記手続きなどは日本法に従う必要があります。
(物権及びその他の登記をすべき権利)
第十三条動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。
まとめ
日本に住んでいる韓国籍の方が亡くなると、相続分や遺留分に関しては、韓国民法が適用されます(国際私法の原則)。韓国の相続法は、日本の相続法と似ていますが、相続人の範囲、法定相続分、配偶者の相続割合、遺留分などで異なることも多々あります。遺言がない場合、ご自分の財産がどうなるのかは、韓国民法を知っておく必要があります。そのうえで、遺言を用意しておくことも検討されるのが良いと思います。
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