親が50%、自分が50%共有しているマンションを、100%自分名義にしたい場合の手順について解説します。
イメージがわきやすいように、建物の固定資産税評価額1000万円、土地の相続税評価額800万円、共有割合は母親が50%、子供1名が50%とします。
親との契約
マンションの50%の所有権を、もともと50%持っている子に移すためには、売買契約または贈与契約が必要です。
価格の決め方
親子間売買
親子は「特別な関係」にあるため、価格を不当に安くすると「贈与」とみなされ、贈与税が課されるリスクがあります。したがって、客観的に適正と認められる価格を設定することが大切です。
<価格決定の主な基準>
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相続税評価額を基準にする
・建物:固定資産税評価額 500万円(1000万円×母親の共有割合50%)
・土地(敷地権割合考慮後):相続税評価額 400万円(800万円×母親の共有割合50%)
⇒ 合計900万円を参考に、売買価格を決める方法。 -
実勢価格(時価)を基準にする
・不動産業者の査定額や、同じマンションの取引事例を参考にする。
・将来の相続トラブルを避けるため、時価に近い価格で売買するのが安全。
「相続税評価額(路線価ベース)」と「不動産業者査定額(時価ベース)」の両方を確認し、その中間あたりで価格を決めるケースが多いです。
あまりに低い価格(例:相続税評価額を大きく下回る価格)で売買すると、差額部分が「贈与」と指摘されやすくなります。
親子間売買で使える主な税制上の優遇措置
親子間の不動産売買であっても、適正な時価で行われる限り、次の税制優遇を利用できます。なお個別に要件があるので要注意です。
① 住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
・子が親から住宅を購入し、自分が居住する場合に利用可。
・ただし、親と生計を一にしていないこと、第三者(銀行等)からの借入であることが条件。
② 不動産取得税の軽減措置
・居住用住宅を取得した場合、課税標準から最大1,200万円が控除される。
・中古住宅でも、築年数や耐震基準を満たせば適用可能。
③ 登録免許税の軽減措置
・自宅用建物の所有権移転登記は、税率が2.0%→0.3%に軽減される。
④ 売主(親)の3,000万円特別控除
・親が自宅を売却する場合、譲渡所得から3,000万円を控除可能。
・ただし、子と同居している場合は適用不可(別居している場合のみ利用可)。
これらの優遇措置は、「適正な時価での売買」が前提条件です。形式的に売買契約を結んでも、価格が低すぎると贈与扱いになる点に注意してください。
親子間の贈与
親子間で「贈与」をする場合、売買のように価格を決める必要はありません。基本は「無償で財産を移す」行為です。
ただし、贈与税の計算上は“いくら贈与したか”を決める必要があるため、そのための「評価額」を定めます。
つまり、親子間の贈与で金額は自由に設定できますが、贈与税は国の定める評価額で必ず計算します。
<贈与の評価額の決め方>
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建物
固定資産税評価額をそのまま使います。
例:建物評価額500万円の場合、50%の持分贈与=250万円が贈与額。 -
土地(マンション敷地権を含む)
国税庁の「路線価」または「倍率表」で算定した相続税評価額を用います。
敷地権部分の評価額400万円のうち、50%の持分=200万円が贈与額。 -
贈与税の課税価格
建物250万円+土地200万円=合計450万円が贈与価額。
これをもとに贈与税を計算します。
贈与:相続時精算課税の利用について
親の持分(50%相当、評価額450万円)を子に贈与する場合、通常は18万円前後の贈与税がかかります。
ただし、翌年の確定申告のタイミングで「相続時精算課税制度」を選択(届出必要)すれば、贈与税はかかりません。
この制度では、贈与時に2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となり、将来親が亡くなった際に、この贈与分を相続財産に合算して相続税を計算します。
相続人が子1名の場合でも、基礎控除(3,600万円)があるため、他に大きな財産がなければ相続税は発生しない見込みです。
<注意点>
一度この制度を選択すると、今後親からの贈与はすべて相続時精算課税扱いとなり、暦年贈与の「年間110万円の非課税枠」は使えなくなります。
分譲マンションの評価方法の改正について
相続税や贈与税の計算における「分譲マンション(居住用)」の評価方法が改正され2024年から施行されました。これは、従来の評価方法(建物は固定資産税評価額、土地は路線価×敷地権割合)では、実勢価格との差が大きすぎるという実情が背景となっています。
改正後の評価方法は、複雑ですが、登記事項証明書があれば、国税庁のホームページの計算明細書 をダウンロードして計算すれば、補正率が簡単に算出できます。
ここでは、「従来の評価方法による評価額」の補正する考え方をご説明します。
①築年数 ⇒ 築年数が浅いほど評価が高くなる。
②総階数 ⇒ 高層マンションほど評価額が高くなる
③所在階 ⇒ 専有部分が高層階ほど評価額が高くなる
④敷地持ち分狭小度⇒専有部分の床面積に対する「敷地利用権の面積(敷地面積×登記に記載されている敷地権割合)」が小さいほど評価額が高くなる。
下記は、国税庁のホームページから「計算明細書」をダウンロードして、登記と照らし合わせて入力した例です。この場合、補正率は1.0572なので、これを従来の評価方法により算出した建物と敷地の評価額に乗じる必要があるというわけです。

主な費用
親子間売買の場合
<売り手側>
・印紙税(売買契約書:価格により1~10万円)
・抵当権抹消費用(登録免許税(注)+司法書士報酬)
・譲渡所得税 等
(注)自宅用建物の所有権移転登記は、税率が2.0%→0.3%に軽減されます。
<買い手側>
・印紙税(売買契約書:価格により1~10万円)
・所有権移転登記費用(登録免許税+司法書士報酬)
・不動産取得税 等
贈与の場合
・印紙税 (200円×通数)
・所有権移転登記費用(登録免許税(注)+司法書士報酬)
・贈与税(今回のケースでは相続時精算課税を利用すればゼロ)
・不動産取得税 等
(注)登録免許税は2.0%です。住宅用不動産の軽減はありません。したがって、登記費用には、売買と比較すると司法書士報酬は同額ですが、税金を含む総額は売買の方が安くなる傾向にあります。
生前贈与の場合の検討点 母親の居住権
マンションを贈与すると、お母様の所有権はなくなるため、法律上は住み続ける権利がなくなります。
家族円満なうちは話し合いで解決できますが、将来的なトラブルを避けるためには、贈与契約書に「贈与者はマンションに終身住み続ける権利(使用貸借権)を有する」と記載しておくことを検討するとよいと思います。
最後に
当事務所では、マンションの親子間の贈与や売買の契約書作成のお手伝いをしています。この記事は、登記や税務に関連する一般的な内容をわかりやすくご紹介したものです。実際のご事情に応じた判断が必要な場合には、必ず税理士、司法書士や税務署、法務局にご確認いただきますようお願いいたします。
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