
不動産の「価格」には複数の顔があります。売買契約で決まる金額もあれば、税金の計算や統計に用いるために国や自治体が定める金額もあります。実務に携わると、同じ土地や建物について「なぜこんなに金額が違うのか?」と不思議に思うことも多いでしょう。
固定資産税評価額
市町村長(東京23区は都知事)が国の「固定資産評価基準」に基づき算定します。土地は時価の約70%、家屋は再建築価格から経年減点を行って評価されます。3年に一度の評価替え(基準年度)で見直され、固定資産税・不動産取得税・登録免許税の課税基準となります。
たとえば実勢価格5,000万円の土地なら、固定資産税評価額はおよそ 3,500万円 となります。
路線価(相続税評価額)
相続税や贈与税の計算に使うのは、土地と建物で異なります。
【土地】
土地は、原則として、宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価します。土地の評価方法には、路線価方式と倍率方式があります。
【路線価方式】
路線価方式は、路線価が定められている地域の評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことで、千円単位で表示しています。
路線価です。国税庁が毎年1月1日時点の価格を基準に設定し、7月に公表します。水準は時価の約80%。道路ごとに1㎡あたりの価格が決められており、全国どこでも一定の方法で相続税評価ができる仕組みです。
同じく実勢価格5,000万円の土地なら、路線価評価額はおよそ 4,000万円 です。
【倍率方式】
倍率方式は、路線価が定められていない地域の評価方法です。倍率方式における土地の価額は、その土地の固定資産税評価額(都税事務所や、市(区)役所または町村役場で確認してください。)に一定の倍率を乗じて計算します。
路線価図および評価倍率表ならびにそれぞれの見方は、国税庁ホームページで閲覧できます。
【建物】
固定資産税評価額に1.0を乗じて計算します。したがって、その評価額は固定資産税評価額と同じです。
公示価格
地価公示法に基づいて、国土交通省土地鑑定委員会が、適正な地価の形成に寄与するために、
毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月に公示するものです。
社会・経済活動についての制度インフラとなっています。
水準は時価にほぼ近く、公共事業の補償金額や不動産取引の参考値として活用されます。ニュースで「地価が上昇した」と報じられるときには、この公示価格が基準になっています。
実勢価格5,000万円の土地なら、公示価格は実勢価格に近い 5,000万円前後 (※)となります。
(※「一般的に実勢価格は公示価格の1.1倍〜1.2倍が目安」ということも言われますので、あくまで目安です。)
【公示価格の主な役割】
・般の土地の取引に対して指標を与えること
・不動産鑑定の規準となること
・公共事業用地の取得価格算定の規準となること
・土地の相続評価および固定資産税評価についての基準となること
・国土利用計画法による土地の価格審査の規準となること
【参考URL】国土交通省 地価公示
実勢価格(時価)
市場で実際に売買される価格が実勢価格です。売買価格は、需給や景気の動向、個別の立地条件によって常に変動します。
売り手と買い手が合意すれば、同じ物件でも4,800万円になることも、5,200万円になることもあります。
実勢価格の求め方としては、地域の不動産広告を見てみたり、不動産会社に査定を依頼したり、国土交通省の「不動産ライブラリー」で、地図から近隣の取引事例を調べる方法などがあります。
不動産価格の4つの基準の比較表
名称 | 決定主体 | 評価水準 | 公表・更新時期 | 主な用途 | 例:実勢価格5,000万円の土地 |
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固定資産税評価額 | 市町村長(23区は都知事) | 実勢価格の約 70% | 3年ごとに評価替え | 固定資産税、登録免許税、不動産取得税 | 約 3,500万円 |
路線価(相続税評価額) | 国税庁 | 実勢価格の約 80% | 毎年7月公表(1月1日基準) | 相続税・贈与税 | 約 4,000万円 |
公示価格 | 国土交通省 | 実勢価格の 100%前後 | 毎年3月公表(1月1日基準) | 公共事業補償、不動産取引の目安 | 約 5,000万円 |
実勢価格(時価) | 市場(売買当事者) | 常に変動(需給次第) | 取引の都度 | 実際の売買、担保評価 | 4,800〜5,200万円など変動 |
※ご注意
本稿の内容は、なるべく正確性を心がけていますが、一般的な情報提供を目的として記載したものです。実際の取引や税務申告にあたっての判断は状況により異なります。当事務所ではこれらに関する責任を負いかねますので、具体的なお手続きについては必ず所轄の税務署や不動産会社などの専門機関へご確認ください。