
表題部所有者不明土地問題とはなんでしょう。この問題の背景、対策として立法された「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」を解説します。
不動産登記の基本
不動産登記とは、土地や建物に関する情報を「登記簿」という公の記録に残して、みんなが確認できるようにする制度です。
登記には大きく2種類あります。
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表示に関する登記
土地や建物の場所、面積、種類、構造などの「物理的な情報」を記録するものです。事実に基づいて法務局が職権で行います。 -
権利に関する登記
所有権や抵当権など「誰がどんな権利を持っているか」を記録するものです。売買や相続など権利の変化を証明するため、持ち主が申請して行います。これをしておかないと、第三者に対して自分の権利を主張できなくなる場合があります。
権利に関する登記
権利に関する登記は1887年に始まり、土地や建物の所有権などの変化を登記簿に記録する制度です。1899年の不動産登記法により、新しい登記簿に権利の移転や変更が申請ごとに記録され、古い記録は引き継がれました。現在の登記簿には130年以上にわたる権利変動の履歴が保存され、不動産の権利関係を証明・確認する基盤となっています。
表示に関する登記
表示に関する登記は、1960年、不動産登記法の改正ではじまりました。
土地の表示に関する登記の登記事項は、土地の課税台帳である土地台帳を転記したものです。
建物の表示に関する登記の登記事項は、家屋の課税台帳である家屋台帳を転記したものです。
土地台帳と不動産登記簿の一元化
上記の土地台帳は、明治時代に「地租(昔の土地税)」を取るために作られた帳簿です。そこには土地の場所や地目、面積なども記録されました。戦後までは課税用の台帳として続きましたが、税制改正で役割を終え、登記所に引き継がれていました。
その後、1960年から、登記簿と土地台帳が二重に存在する状態をなくすため、全国で一元化作業が行われ、1971年に完了しました。
表題部所有者不明土地とは
1960年(昭和35年)以降に行われた「土地台帳と登記簿をまとめる作業」で、土地台帳にあった所有者の名前や住所の記録ミス(変則的記載)が、不動産登記の「表題部所有者」に、そのまま引き継がれてしまいました。そして、その後も放置されているため、今でも「誰が本当の所有者なのか分からない土地」が全国の登記の約1%もあることが明らかになっています。
表題部所有者
所有権の登記(権利部)がない不動産について、登記記録の表題部に記録される所有者のことです。
当事者の申請により所有権の登記がされると、表題部所有者に関する登記事項は抹消されます。
土地台帳にあった所有者の名前や住所の記録ミス(変則的記載)が発生した理由
土地台帳の変則的記載(不正確な記載)は、墓地、山林、畑など、あまり取引されていない土地に多く、「住所の記載がない(全体の85%)」「大字〇〇までの記載(全体の11%)」「共有者が未記載(全体の4%)」などが代表例です。
【変則的記載が生じた経緯】
昔の日本では、村人が薪や草などを採るために共同で使う山や原野「入会地(いりあいち)」がありました。村などの共同体が納税者となって入会地の所有を認められることもありました。その後、「財産区」という仕組みが作られ、共同体所有のまま残されたケースも多かったのです。
その後も、名義を寺社や代表者に変えたり、市町村に寄付したりする動きがありましたが、全国一律にはまとまりませんでした。戦時中は部落会・町内会が名義を持つこともありましたが、敗戦後にこれらは解散させられ、多くが市町村の財産に変わりました。この過程で、一部は個人名義や「○○ほか何名」という形の共有登記に変わり、今も登記簿にその形が残っています。
表題部所有者不明土地の問題
所有者不明土地の中には、名前や住所の記録すらなく、戸籍や住民票でたどることもできないものがあります。こうした土地は、誰と交渉すればよいのか分からず、自治体や民間の取引が進まない大きな原因になっています。
解決するには、寺に残る過去帳や地域の歴史資料を調べたり、昔から住んでいる人に聞き取りをして、持ち主を探し出すしかありません。しかし、資料の散逸や地域のつながりの弱まりによって、今後はさらに特定が難しくなる恐れがあります。
新しい法律による対策
2019年(令和元年)に「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」ができました。これは、不動産登記簿の所有者欄に名前や住所が正しく書かれていない土地(表題部所有者不明土地)を整理し、利用しやすくするための法律です。
この法律では、登記官に所有者を探すための調査権限を与えたり、専門の「所有者探索委員」を設けたりして、見つかった情報を登記に反映できるようにしました。また、どうしても所有者が特定できない場合は、裁判所が選んだ管理者がその土地を管理できる仕組みも整えられました。
表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律のポイント
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所有者を探す仕組みの導入
表題部所有者不明土地について、登記官が調査権限を持ち、必要な情報収集や「所有者探索委員」による調査が行えるようになりました。これにより、持ち主を確認する体制が整えられました。 -
調査結果を登記に反映できる仕組み
探索で分かった情報を不動産登記簿に反映させるため、不動産登記法に特例が設けられました。これにより、登記簿上の情報を最新かつ正確に保てるようになっています。 -
所有者が特定できなかった場合の管理制度
探索を行っても所有者が分からない土地については、裁判所が選任した管理者が管理できる制度が設けられました。これにより、放置される土地を減らし、適切な利用や維持管理を進められるようになっています。
解決方法
表題部所有者不明土地を登記官が調査して、所有者が判明しても、その後はどのように解決するのでしょうか。国土交通省の資料からいくつか例を挙げます。
町内会又は部落会が所有権者
昭和22年第15号政令に基づき市町村が所有するに至っているとみられる土地は、事実関係についての所要の調査を経て、市町村の嘱託により、市町村を所有権登記名義人等とする所有権の登記を進めることとなります。なお、その登記原因は「昭和22年政令第15号第2条第2項による帰属」、日付は「昭和22年7月3日」となります。
記名共有地
表題部の所有者欄に「A外○名」とあるのみで、その共有者の住所氏名が登記されていない土地をいわゆる記名共有地といいます。 これらの土地は、個々人の共有物である場合もありますが、墓地や山林が入会地として集落等で所有管理されていた土地の場合もあります。
共有者全員の同意の下で当該土地の売買契約等を締結するか、全ての共有者との間でそれぞれ個別に当該土地の共有持分に係る売買契約等を締結することになります。
共有者や相続人が極めて多数にわたる場合は、以下の方策の検討を行います。
・認可地縁団体構成員と共有者の範囲が一致している場合など、認可地縁団体の所有といえる場合は、地方自治法に基づく登記の特例を活用し、市区町村の証明により所有権の保存又は移転の登記を行う方策の検討。
・入会林野等に係る権利関係の近代化の助長に関する法律38の活用により都道府県知事の認可を得て、所有権移転登記を行う方策の検討。
字持地
表題部に「大字A」又は「字A」などと記録された土地を字持地といいます。これらの土地はかつて地域の共同体の財産であった場合が多く、地方自治法の財産区(地方自治法第294条)が所有する土地になっていることが多いと考えられます。
財産区の所有であることが確認された場合には、「財産区」を所有権登記名義人等とする所有権の登記を行うこととなります。つまり、例えば「字みちのく」という登記名義人になっている場合は、「財産区みちのく」を所有権登記名義人等とする登記をすることになります。これをするに当たっては、財産区の登記の嘱託は市町村が行うこととなっているため、市町村と十分な調整を行います。
行政書士中村光男事務所について
参考資料
〇「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律について」法務局 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000027.html
〇「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」第3章 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000125.html?utm_source=chatgpt.com
〇「不動産登記制度の遠隔と役割」東京財団https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=2967