PFIのVFM 杉並区 | 行政書士中村光男事務所

前回のPFI入門記事(中小建設業者向けのPFI入門①)では、「PFIとは何か」「通常の公共工事との違い」「中小企業の参入ルート」を整理しました。第2弾では、PFIの採否を決める評価軸であるVFM(Value for Money)を取り上げます。この概念を掴んでおくと、PFIの提案書や要求水準書を読んだときの理解が大きく変わります。

VFMとは「安くする」ことではない

内閣府のガイドラインでは、VFMを「支払いに対して最も価値の高いサービスを供給する」考え方と説明しています。

ポイントは、「安い=正解」ではないことです。払うお金に対して、得られるサービスの価値が最大かどうか、という発想です。PFIは施設を建てることだけでなく、その後の維持管理・運営を含む公共サービス全体をひとつの「事業」として見ます。だからこそVFMは、PFIの合否を判断するものさしになっています。

VFMの基本:PSCとPFI-LCCの比較

VFMの議論には、必ず2つの概念が登場します。

用語 内容
PSC(Public Sector Comparator) 公共が自前で実施する場合の、事業期間全体の公的負担(現在価値)
PFI-LCC(PFI方式で実施した場合のLife Sycle Cost) PFIで実施する場合の、事業期間全体の公的負担(現在価値)

同じサービス水準で比べたとき、PFI-LCCがPSCを下回れば「VFMがある」という整理です(「PFI-LCC」の「-」はマイナスではなく、「PFIの(方式で実施した場合の)LCC(ライフサイクルコスト)」という意味の区切り記号です。いわば「PFI版LCC」という合成語です)。

PSCは、設計建設費・維持管理費・運営費・リスク管理費・支払利息で構成されます。一方のPFI-LCCには同じ費目に加えて、民間の利益・配当等が乗ってきます。それでも全体のコストがPSCより低くなるのは、設計と建設の一体化、運営を見越した維持管理コストの削減、リスクの適切な分担といった工夫によるものです。

ここで注意が必要なのは、PFI-LCCは民間事業者のコストや利益の内訳ではなく、公共が支払う総額の見積もりだという点です。事業者が決まる前の検討段階で、過去の類似事業や市場調査をもとに公共側が試算します。PSCとPFI-LCCはどちらも推計値であり、この二つを比べることで「PFIを採用するかどうか」の判断材料にします。

つまり、「民間に利益を乗せてもなお、トータルで公共の負担が軽くなる」と判断されれば、PFI方式が選ばれます。「建てて終わり」ではなく「長く使い続けるコスト全体」で比べる、これがVFMの本質です。

PFIはイギリスで生まれた──VFMがすべての出発点だった

PFIは1992年、英国のメジャー政権下で導入された政府調達の手法です。当時の英国は財政難から公共投資を絞らざるを得ない状況にあり、「民間の資金と知恵を活用して、公共サービスをより効率的に提供する」という発想が政策に取り込まれました。契約期間は25〜30年が典型で、公共側はアウトプット(求める成果・サービス水準)を定め、民間が資金・建設・運営をパッケージで担います。

このとき英国政府が採用した判断基準こそがVFMでした。「PFIを使うかどうかは、VFMがあるかどうかで決める」というシンプルな原則が、制度の中核に据えられたのです。VFMはPFIを正当化するための論理的な柱であり、英国でPFIが広がった理由もここにあります。

英国ではPFIが医療・学校・交通・刑務所など幅広い分野に展開されました。代表的な事例を挙げると次のようになります。

分野 事例 概要
病院 ノーフォーク&ノリッジ大学病院 英国初期の大型病院PFI。設計・建設・維持管理を民間が一括担当
刑務所 HMP Parc/HMP Altcourse 民間が設計・建設・運営を担う刑務所。英国の監査機関(NAO)が良い事例として評価
交通 ロンドン地下鉄(PPP) 地下鉄の更新・維持管理をPPP方式で実施。後に一部破綻し議論を呼んだ事例としても知られる
学校 BSFプログラム 全国の老朽学校を建て替える大規模プログラム。PFIを活用し多数の学校を整備

もっとも、英国ではPFIへの批判も蓄積され、2018年にはメイ政権が新規PFI契約の停止を発表しています。「成功も失敗もある」というのが正直な評価ですが、VFMという判断軸そのものは今も世界中の公共調達に生きています。

建設会社がVFMで問われること

VFMは計算で出る数字ですが、その中身は設計・施工・維持管理・運営の連携の仕方で決まります。

コストを下げる方向(プラス要因)としては、設計と建設の一体化による建設費の削減、運営を見越した設計による維持管理費の削減、リスク分担によるリスク管理費の削減が挙げられます。建設会社の視点で言えば、「点検しやすい」「壊れにくい」「更新しやすい」という設計・施工の工夫が、長期間にわたってVFMに効いてきます。

コストを上げる方向(マイナス要因)としては、民間資金調達による利息の増加や、民間の利益・配当があります。

ここで大切なのは、PFIの提案は「工事費を削る競争」ではなく、ライフサイクル全体で効く改善を要求水準に沿って説明する競技だという点です。「金利が乗ってもなお価値が出る」根拠を、長期コストの観点から示せるかが問われます。通常の公共工事では評価されにくかった「長持ちする施工」や「維持管理のしやすい納まり」が、PFIでは正面から評価される世界です。

まとめ

VFMを理解すると、PFIの見え方が変わります。PFIは「工事の契約」ではなく「長期サービスの契約」であり、評価軸は施工の強さだけでは完結しません。維持管理・運営を見据えた設計・施工の工夫が、採用の根拠になり得ます。

中小建設業者がSPCの協力会社として参加する場面でも、「なぜこの工法か」「なぜこの仕様か」をLCC(ライフサイクルコスト)の言葉で説明できると、提案の説得力が変わります。VFMという言葉の意味を知っているだけで、会話の土台が違ってきます。

PFIを含む公共調達への参加には、建設業許可の維持・更新、決算変更届の提出、経営事項審査(経審)の取得が前提となります。当事務所ではこれらの手続きサポートを行っています。「経審の点数を上げたい」「許可の更新時期が近づいている」という方は、お気軽にご相談ください。

PFIシリーズの次回では、「PFIのプレイヤー、流れ、契約とリスク」について解説します。


本稿は行政書士業務としての法的助言ではなく、公開情報をもとにした情報提供です。

中村光男

この記事を書いた人

行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)

東京都杉並区 TEL 03-6356-3571

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