前回の記事では、2025年10月16日施行の経営管理ビザ改正で「資本金等3,000万円」の要件が何を意味するのかを解説しました。法人の場合は登記上の払込済資本金が基準となるため、現在資本金500万円で経営管理ビザを保有している方は、3年間の経過措置(2028年10月16日まで)を活用して増資を検討する必要があります。今回は、その具体的な方法を整理します。
増資の4つの方法
資本金500万円を3,000万円にするには、差額の2,500万円分を資本金に積み増す必要があります。方法は大きく4つあります。
| 方法 | 現金の移動 | 主な前提条件 | 手続き難易度 |
|---|---|---|---|
| ①金銭出資による増資 | 必要 | 手元資金または調達資金 | 低〜中 |
| ②DES(借入金の資本化) | 不要 | 役員借入金の残高 | 中(税理士必須) |
| ③利益準備金・利益剰余金の資本組入れ | 不要 | 黒字経営の積み上げ | 低(司法書士と連携) |
| ④現物出資 | 不要 | 不動産・機械等の資産 | 高 |
以下、それぞれの内容を説明します。
各方法の詳細
① 金銭出資による増資
会社の法人口座に現金2,500万円を払い込む、最もオーソドックスな方法です。入管審査においても資金の流れが明確で、最もわかりやすい選択肢です。株式を誰に割り当てるかによって、社長自身が追加出資する「株主割当」と、外部の投資家等が加わる「第三者割当」に分かれます。経営管理ビザ保有者は自社株100%保有のケースが多いため、株主割当が一般的です。
② DES(Debt Equity Swap/借入金の資本化)
社長が会社に貸し付けているお金(役員借入金)を、株式に振り替えて資本金に組み入れる方法です。新たに現金を用意する必要がなく、会社の負債が減り自己資本比率も改善します。開業以来、社長個人が事業資金を立て替えてきた会社では、相当額の役員借入金が計上されているケースがあり、そのような場合に有効な選択肢です。ただし、税務上の適格条件を満たさないと債務免除益課税が生じる可能性があるため、税理士のチェックが必須です。
③ 利益準備金・利益剰余金の資本組入れ
貸借対照表の純資産の部には、「利益剰余金」という区分があり、その内訳として利益準備金と繰越利益剰余金などのその他利益剰余金が含まれます。会社法第450条に基づき、株主総会の決議によってこれらを資本金に振り替えることができます。現金の移動はなく、株主構成も変わりません。税務上も会社側・株主側ともに原則として課税は生じません。
なお利益準備金は、会社法の規定により剰余金の配当のたびに一定額の積み立てが義務付けられているもので(資本金の4分の1に達するまで)、繰越利益剰余金と並んで利益剰余金を構成します。どちらも株主総会の決議により資本金に組み入れることができます。
入管庁のQ&Aは「利益剰余金は資本金等に含まれない」と明言していますが、これは利益剰余金のままの状態で合算しようとする場合の話です。株主総会の決議を経て資本金に組み入れた後は、登記事項証明書上の払込済資本金の額が正式に増加しますので、入管庁が確認する「資本金の額」として認められます。
黒字経営を継続してきた会社にとって最もシンプルな選択肢ですが、合計2,500万円分の利益準備金・利益剰余金が積み上がっていることが前提条件です。「3年間の経過措置期間中に計画的に黒字を積み上げ、2028年10月までに資本組入れで要件を満たす」というロードマップが現実的な活用シーンになります。なお、増加する資本金額に対して登録免許税(増加額×0.7%)がかかります(2,500万円の増資なら17.5万円)。
④ 現物出資
不動産・機械設備・知的財産権などを現金の代わりに出資する方法です。500万円を超える現物出資には原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要(会社法第207条)で手続きが煩雑なため、優先順位は低くなります。入管審査でも資産評価の客観的な証明が求められます。
資金の出どころと入管審査
金銭出資の場合、2,500万円をどのように調達するかが課題です。入管審査では資金の出所(source of funds)の説明が必ず求められます。主な調達方法と必要な証明資料を整理すると以下の通りです。
| 調達方法 | 主な証明資料 |
|---|---|
| 自己資金(預貯金等) | 通帳、確定申告書 |
| 親族からの贈与 | 贈与契約書、送金明細書、身分関係証明書 |
| 親族からの借入 | 金銭消費貸借契約書、返済計画書、送金明細書 |
| 金融機関からの融資 | 金銭消費貸借契約書、事業計画書 |
親族からの贈与で調達する場合、日本の贈与税にも注意が必要です。年間110万円を超える贈与には贈与税が発生します。また、借入による増資の場合、「実際には借金で資本金を積んでいる」という事業基盤の弱さが審査で問われる可能性もあり、事業計画書でカバーする必要があります。
実務では組み合わせが現実的
4つの方法は単独で使うとは限りません。現実には複数を組み合わせて3,000万円を達成するケースが多くなります。たとえば次のような例が考えられます。
- 役員借入金のDESによる資本化 1,500万円
- 既存株主(社長本人)による追加出資 1,000万円
- 利益準備金・利益剰余金の資本組入れ 500万円
- 合計 3,000万円
この例では、新たに用意する現金は1,000万円にとどまります。役員借入金の状況や利益剰余金の積み上がり具合によって最適な組み合わせは変わりますので、早めに税理士・司法書士と試算することをお勧めします。
4つのポイント
見せ金は絶対にNG
資金を一時的に借りて払い込み、登記後すぐに引き出す「見せ金」は犯罪です。税務調査や入管審査で発覚した場合、ビザ取消しや重加算課税などの重大なペナルティが課されます。
法人住民税の均等割が増加する
赤字でも発生する法人住民税の均等割は、資本金1,000万円超になると東京都の場合で年間約18万円となり、1,000万円以下の約7万円から跳ね上がります。増資のタイミングで意識しておく必要があります。
消費税への影響について
資本金1,000万円以上の法人が設立初年度から課税事業者になるというルールは、設立時のみに適用されます。既存法人が増資しても消費税の課税判定は前々事業年度の課税売上高によって行われるため、増資自体が課税事業者切り替えのトリガーになることはありません。ただし、これから新たに資本金3,000万円で会社を設立する場合は設立初年度から課税事業者となる点に注意が必要です。
事業計画書の専門家確認
2025年10月の改正により、経営管理ビザの申請には中小企業診断士・公認会計士・税理士による事業計画書の確認が必須となっています。増資の資金計画がどれだけ整っていても、それを使って事業をどう維持・拡大するかという計画の実現可能性が審査の焦点になります。増資の検討と並行して事業計画書の整備も進めてください。
まとめ
増資の方法を選ぶ際の優先順位は、概ね次のように考えるとよいでしょう。
- 利益剰余金の積み上げ→資本組入れ(黒字経営が続いている場合)
- DES(役員借入金が相当額ある場合。税理士と要確認)
- 自己資金または親族資金による金銭出資(資金の出所を丁寧に証明)
- 金融機関融資の活用(事業計画書の質が問われる)
増資の登記手続きは司法書士、税務上の問題は税理士、事業計画書の確認は中小企業診断士・公認会計士・税理士、そしてビザ申請書類の作成は行政書士と、専門家の役割分担を明確にしながら進めることが、スムーズな更新への近道です。経過措置の2028年10月16日まで、残り約2年半です。早めにご相談ください。
【参考】
- 出入国在留管理庁「在留資格『経営・管理』に係る上陸基準省令等の改正について」 https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/10_00237.html
- 経済産業省「『外国人起業活動促進事業に関する告示の一部改正(案)』に関する意見公募手続の結果について」 https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000301009
この記事を書いた人
行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)
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