相続業務を受任して最初に取りかかる作業のひとつが、相続財産調査です。
この調査ですが、やみくもに、相続人の財産を調査するものではありません。基本的には、あくまでも、遺産分割協議の対象となりえる金融資産・不動産を、遺族の方からの情報をもとに、行政書士が「定型調査」として受任する、というものです。
(ただ、最近できた「所有不動産記録証明制度」「相続時預貯金口座照会制度」では、広く被相続人の財産を探せる可能性もでてきましたので、これにも触れます)
「範囲」と「評価」を確定するための調査
相続財産調査の目的はシンプルです。被相続人が遺した財産について、「どこまでが相続財産か(範囲)」と「いくらの値打ちがあるか(評価)」を確定することです。
この二つが固まらなければ、誰がどう分けるかという話には進めません。
そして、この調査は単独で動くものではなく、相続人調査と並行して進めるのが鉄則です。
遺産分割協議は、「相続財産(範囲・評価)」と「協議の参加者である相続人(範囲)」の両方が揃って初めて成立するからです。
片方だけ先に終わっても、もう片方が動かなければ協議の卓には着けません。実務では、職務上請求で戸籍を集めて相続人を確定する作業と、各窓口への財産照会を、同時並行で進めていきます。
不動産で集める書類
不動産で柱になるのは、次の二つの書類です。
固定資産税評価明細書は市区町村が管理する書類で、納税通知書に同封されてくる課税明細書、または市区町村窓口で取得する固定資産評価証明書がこれに当たります。被相続人名義の固定資産について評価額を確認でき、相続税申告でも遺産分割でも、不動産の「評価」を支える基本資料になります。心当たりのある自治体ごとに名寄帳とあわせて取得します。
履歴事項全部証明書は法務局で取得する登記の証明書です。所有者・地番・面積に加えて、過去の権利変動と現在の抵当権の有無まで一通り確認できます。共有持分の有無、住宅ローンの抵当権が残っていないか、未登記建物の存在といった、後の手続きに響く要素はすべてここで把握します。
物件の所在自体が分からない場合は、令和8年2月にスタートした所有不動産記録証明制度(法務局での全国一括検索)を併用して、被相続人名義の不動産を網羅的に拾い上げます。
相続登記の申請に当たっての当事者の手続的負担を軽減するとともに登記漏れを防止する観点から、登記官において、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産について一覧的にリスト化して証明書として交付する制度のことです。 令和8年から施行されました。https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html#1
金融資産で集める書類
金融資産については、各金融機関に対して残高証明書と経過利息計算書の発行を依頼します。
残高証明書は、相続開始日(被相続人の死亡日)時点の預貯金残高を証明する書類で、財産目録の中心になります。経過利息計算書は、定期預金などについて死亡日までに発生した未収利息を計算したもので、これも相続財産に含まれるため、評価額に上乗せします。あわせて、取引履歴(過去5年分程度)を取り寄せておくと、生前の資金移動が見え、後の遺産分割の局面で役に立ちます。
どこの金融機関に口座があるかどうかわからない場合は、2025年に運用の始まった「相続時預貯金口座照会制度」により、故人がマイナンバーと紐付けていた口座の所在は判明する可能性があります。ただ、この場合でも、口座の所在が分かるだけですので、その金融機関に残高証明の請求は必要です。
相続時口座照会制度は、相続人が、被相続人名義の「付番済み預貯金口座」について、複数金融機関をまとめて照会できる仕組みです。実務上は、受付窓口になっている金融機関に申請し、預金保険機構(DICJ)側の手続を経て結果が通知される流れになります。亡くなられた方(被相続人)が亡くなられてから10年以内であればお申し込みが可能です。亡くなられた方が個人番号(マイナンバー)を届出されていない金融機関については、該当金融機関に預貯金口座をお持ちの場合でも確認することができません。
https://www.dic.go.jp/katsudo/content/souzokuji_yotyokinkoza_no_omousikominiatatte_20250423.pdf
有価証券については、証券保管振替機構(ほふり)への登録済加入者情報の開示請求で被相続人の証券口座の所在を網羅的に把握し、判明した証券会社へ残高証明書を請求します。生命保険は、生命保険協会の契約照会制度で加盟各社の契約有無をまとめて確認します。いずれも、決まった窓口に決まった様式で請求すれば回答が得られる、定型化された手続きです。
相続人全員の委任が無くても残高証明書を請求できる理由
実務上、相続人代表者お一人からの委任状をいただければ、行政書士が代理人として請求できます。
その根拠は民法にあります。
相続が開始した瞬間から、相続人は相続財産の共有者になる――これが民法898条の定めるルールです。相続人が複数いても、それぞれが相続開始の時から相続財産について共有持分を承継しています。共有者は、自己の持分に基づいて、財産の現状を確認するための保存行為として、単独で残高照会を行えると解されています。したがって相続人代表者お一人から委任を受ければ、その方の権限の範囲で、行政書士が代理請求できる、というわけです。他のすべての相続人から同意書や印鑑をかき集める必要はありません。
「定型調査」として受任する意味
心当たりのない金融機関を全国規模で当たり続けるような調査は、現実的にはどこまでやっても終わりが見えません。
相続財産調査は、ご遺族の情報をもとに、決まった書類を決まった窓口に請求していく作業です。
具体的には、次の内容を基本パッケージとしています。
- 財産調査(預貯金・不動産・その他)
- 登記事項証明書・不動産評価証明書の取得
- 財産目録(遺産目録)の作成
出発点はご依頼者からのお話と、ご自宅に残された通帳・郵便物・納税通知書などの手がかり情報です。ここで把握できた金融機関や物件について、所定の書類を取得し、財産目録にまとめます。心当たりのない金融機関を全国規模で当たり続けるような調査は、現実的にはどこまでやっても終わりが見えません。
範囲を区切ることで、料金や所要期間の見通しも立ちます。調査の途中で想定外の照会先が必要になれば、その都度ご相談のうえ追加で対応します。
まとめ
相続財産調査は、相続人調査と並行して進める「範囲」と「評価」の確定作業です。不動産は固定資産税評価明細書と履歴事項全部証明書、金融資産は残高証明書と経過利息計算書――決まった書類を決まった窓口に請求していく業務です。
行政書士が銀行に残高証明書を請求できるのは、相続開始のときから相続人が相続財産の共有者になるという民法の仕組みによるもので、代表者お一人からの委任状で足りるのが実務の前提です。
この記事を書いた人
行政書士中村光男事務所 代表 中村光男(行政書士・防災士・AFP)
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