相続 | 山林も相続土地国庫帰属法の対象です

農地や山林であっても、要件を満たせば、2023年4月27日からスタートする相続土地国家帰属法の対象です。行政書士が分かりやすく解説します。

Q そもそも山林の相続税上の評価はどのようにする

まず最初に、山林の相続税評価について書きます。

山林は、①純山林、②中間山林、③市街地山林に区分されます。それぞれの評価方法は以下のようなものです。
(詳しくは国税庁HP山林及び山林の上に存する権利

純山林

純山林とは市街地から遠く離れた場所にあり、宅地の影響をほとんど受けない山林です。評価は、固定資産税評価額×倍率(注1)(倍率方式)です。

中間山林

中間山林とは、市街地近郊にある山林で、宅地の影響を受けて、売買価格水準が純山林としての売買価格より高い水準にある山林です。評価方法は、純山林と同様に固定資産税評価額×倍率(倍率方式)です。

市街地山林

市街地山林とは、宅地にある山林または市街化区域にある山林です。市街地山林の価額は、原則として、その山林が宅地であるとした場合の価額から、その山林を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費を控除した金額により評価することとされています(宅地比準方式)。

評価額=(宅地とみなした場合の1㎡当りの価額(注2)ー1㎡当りの宅地造成費(注3))×土地の面積

財産評価の調べ方

注1のような具体的「倍率」は、国税庁の「財産評価基準書」で分かります。

例えば、国税庁の財産基準評価書のページで、「愛媛県南宇和郡愛南町の山林を調べると、純(純山林の略)、市(市街地山林)などとあり、固定資産税評価額に掛ける倍率が0.8であることが分かります。

注2の「宅地とみなした場合の1㎡当りの価額」については、城辺乙地区は、山林が市比準となっているので、ここを宅地とみなして、宅地に記載のある倍率1.1を固定資産税評価額に掛けるといいことが分かります。

注3の「1㎡当りの宅地造成費」についても、同じく財産基準評価書で都道府県別に記載があります。下記は愛媛県の例(傾斜地の場合)です。

但し、宅地転用が困難な場合は、近隣の純山林の価額に比準して評価します。

Q 山林の管理は大変なので国庫帰属法で国に寄付できますか?

山林も農地も、2023年4月27日からスタートする相続土地国庫帰属制度の対象です。法務省の「相続土地国庫帰属区制度に関するQ&A」では以下のようになっています。「帰属の承認ができない土地」については、後述します。

相続した山林について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りの土地に迷惑がかかるから管理が必要だけど、負担が大きい」といった理由により、手放したいというニーズがあるのであれば、売却等とならんで選択肢になると思われます。

相続土地国家帰属制度の要点(制度開始は2023年4月27日)

申請ができる人

相続又は相続人に対する遺贈によって土地を取得した人。
共有者も、制度施行前に相続した人も可能です。

申請先

帰属させる土地を管轄する法務局・地方法務局

帰属の承認ができない土地

以下のような土地に該当すると帰属が承認されません。

(1) 申請をすることができないケース(却下事由)(国庫帰属法第2条第3項)
承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない。

A 建物がある土地
B 担保権や使用収益権が設定されている土地
C 他人の利用が予定されている土地
D 土壌汚染されている土地
E 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

(2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)(法第5条第1項)
法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
A 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
B 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
C 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
D 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
E その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地

土地が山林である場合、上記の条件のうち、法2条3項5号「境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地」と、法5条1項「一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地」が気になるかと思います。

境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

この点について、国交省資料「相続土地国庫帰属法施行令について」(R4年10月)では、以下のように「申請時に測量の実施や境界確認書の提出は不要土地の範囲を示せば足りるとする方向で検討中」としています。

したがって(国交省の方針が確定するまでは何とも言えませんが)その山林が、地積調査(主に市町村が主体となって、一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査)がすんでいる場合は、測量等を改めて行わなくても、土地の範囲を示せる可能性があります。

相続する山林がすでに地積調査されているかは、法務局で「地図証明」を取得し、その地図の「分類」欄に「地図(法第14条1項)」という記載があるかどうかで分かります。分類が「地図に準ずる図面」となっていると、まだ地積測量が終了していないことになります。

国交省資料「相続土地国庫帰属法施行令について」から抜粋 https://www.moj.go.jp/content/001380883.pdf

相続土地国庫帰属法施行令の手続きイメージ

〇地図証明書見本から 法務省 地図証明書及び各種図面証明書等のレイアウトの変更について

地図証明書

<一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地>

これは、「勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの」である土地です。
勾配30度

勾配30度以上の山ですと、がけ地と判断されて、相続土地国庫帰属法で国庫帰属の対象外とばれる可能性があります。(なお、仮にこのような山が「市街化山林」となっていた場合は、「宅地への転用が困難」なため、宅地の評価ではなく、純山林としてより低価格に再評価できる可能性があります。)

負担金

土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた者は、承認された土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額の負担金を納付しなければなりません(法第10条1項)。

参考相続土地国庫帰属制度の負担金(法務省)

山林の負担金については、以下のような計算となります。
相続土地国庫帰属法 山林負担金

手続きのフロー

相続土地国庫帰属法の手続きの審査フローは以下のようなものです。

国庫帰属法手続きフロー

申請書の作成代行を依頼できる専門家

国庫帰属制度における承認申請手続は、法定代理人(親権者、成年後見人等)による場合を除き、申請者が任意に選んだ第三者に申請手続の全てを依頼する手続の代理は認められません。

ただし、専門家に申請書等の作成を代行してもらうことができます。その場合、業務として申請書等の作成の代行をすることができるのは、専門の資格者である弁護士、司法書士及び行政書士に限られます(法務省|相続土地国庫帰属制度における専門家の活用等について)。

最後に

山林と相続土地国庫帰属法については、色々な事例にどのような対応となるのかについて、現在でも不明なことが多く、基準の明確化が望まれます。本コラムでは、この問題を今後も追って更新してまいりたいと思います。

【参考ブログ】
相続した土地を手放せる制度相続税の計算ってどうするんだっけ

相続土地国庫帰属制度の概要

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