動物たちの議論

2019年7月に施行された新しい相続法のルールでは、相続人に対する特別受益となる生前贈与は、相続開始前の10年間になされたもののみを遺留分算定の基礎財産に算入されることになりました。仲良し動物君の会話と、イラストを使ってわかりやすく杉並区の行政書士が解説します。

特別受益とは

ぶるぶる

相続のときに、特別受益のある相続人がいるともめるって聞いたけど、「特別受益」って何?


しばしば

特別受益とは、一部の相続人だけが亡くなった人(被相続人)から生前贈与や遺贈、死因贈与で受け取った利益のことだよ。他の相続人が不利にならないように、相続財産を分けるときは、特別受益をもらっていることは計算に入れるようなルールになっている。そうしないと不公平だからね。


ぶるぶる

どんな贈与が「特別受益」になるの?


しばしば

相続人が、被相続人から遺贈を受けたり死因贈与を受けた場合は無条件で、特別受益になるよ。生前贈与の場合は、「婚姻や養子縁組のためか、生計の資本としての贈与」のときだよ。


じゃっくじゃっく

どんな生前贈与が、特別受益になるのかなぁ。ちょっとわかりにくいね。


しばしば

そのとおり。裁判所は「生命保険」は原則として、特別受益にならないっていう判例を出してる。でも生前贈与と言っても、いろいろなケースがある。明確な基準がないので、わかりにくいね。だから、もめると裁判になるよ。

解説
特別受益については、しば君の言っているような問題があります。民法の規程は以下のようになっています。しば君が言っているのは903条1条です。つまり、特別受益に当たるものは、「相続分の先渡し」と考えられるので、相続開始時点では一旦、他の財産と合算して(これを「持ち戻し」と言います)、相続分を計算しなおすのです。このような調整をして、「相続分の先渡し」を受けている相続人は、現実の相続発生時にはその分だけ少なく相続することで、他の相続人との公平を保つという仕組みになっています。ただし、この条文には、3項、4項があります。そこには、被相続人は、このような持ち戻し計算をしないように意思表示できることになっています。ですから、特別受益を一部の相続人に与えるときは、「持ち戻し」計算をどうしたいかは、しっかり意思表示しておくことが、トラブル防止のために必要ですね。

民法903条

(特別受益者の相続分)

1  共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う

4 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

遺留分と特別受益

しばしば

少し詳しい話になるけどね、遺産分割の場合は古い特別受益も考慮して公平に分けるのに対し、今度の民法改正で、遺留分の計算のときには、特別受益は相続開始10年前までのものしか考慮しなくなったんだ。


ぶるぶる

え!どういうこと?


ごるごる

そういえば、近所で、こんな話を聞いたよ。近所のおばさんの、お父さんが亡くなったんだって。そのおばさんにはお兄さんがいて、亡くなったお父さんは30年前にお兄さんに4千万円の住宅資金を生前贈与したんだって。お父さんが亡くなったときに、残った財産は2千万円だったって。

〇ごる君の聞いた話〇

特別受益

じゃっくじゃっく

もし、お父さんが兄さんに4千万円もあげなければ、遺産は6千万円あったってことだよね。子供が2人のとき一人の遺留分は25%だよね。さっきの話と同様に、公平のためには、亡くなったときの遺産の2千万円に4千万円を足して、6千万円に戻してから25%かけるのではないの?

しばしば

前はそうだった。でも新しい相続法のルールでは、遺留分の計算上は、特別受益となる生前贈与は相続開始前の10年以内のものに限ることになったよ。だから、その場合は、妹さんの遺留分の計算には、4千万円は足さなくていい。結局2千万円×25%の500万円が妹さんの遺留分だよ。

解説

民法改正前

2019年7月に新しい相続法が施行されるまでのルールでは、遺留分の計算の際に、次の贈与を相続財産に加算するというものでした。

①相続開始前1年以内の生前贈与(旧1030条)

②遺留分を侵す害意のある生前贈与(旧1030条)

相続人への特別受益となる生前贈与(旧903条、判例)

このように、何年前であっても相続人になされた特別受益は相続財産に加算して、遺留分を計算していました。

これは、「特別受益となる贈与は実質的には相続財産の前渡しだから」という考え方によります。しかし、何十年前にも遡って相続人間で特別受益があったかなかったかというのを調べるのは大変で、争いのもとにもなっていました。

生前贈与 民法改正前

民法改正後

そこで、2019年7月から施行された新しい相続法のルールでは、特別受益となる生前贈与は、遺留分の計算上は相続開始前の10年以内のものに限ることになりました。生前贈与 民法改正後

特別受益者の相続分と遺留分の計算の方法が違うのは何故

ぶるぶる

なるほどね。でも、どうして遺留分の計算にときだけ、特別受益の生前贈与を相続開始前の10年以内という限定をつけるのかな。もめごとを減らしたいのならば、相続分の算定のときも、同じように期間制限をつければいいのではないかな?


ごるごる

そうそう。たしかに、どうして差があるのかはよくわからないよ。


しばしば

そうだね。でもよく考えると、バランスのとれた考えだよ。


じゃっくじゃっく

どういうことかな。


しばしば

特別受益分を相続財産に加算することを「持戻し」っていうんだけど、被相続人(亡くなった方)は、遺言や生前の意思表明で、遺産分割の計算上、特別受益者のもらった分を「持戻し」はしないということを主張できることになっているんだ。長年連れそった奥さんに贈与することを考えて欲しい。そのような形で、自分の財産を生前に処分する自由を与えている。


ぶるぶる

ふむふむ。


しばしば

ただ、あまり、被相続人の生前の財産処分を自由にすると、相続人の最低保障である遺留分が侵害される恐れがある。だから、被相続人の意思にかかわらず、遺留分の計算上は、せめて10年以内のものは持ち戻すルールとしたんだって考えられるよ。


ごるごる

それならわかる気がする。

民法関係条文
(遺留分を算定するための財産の価額)

1043遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

1044贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2 略

3 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

まとめ

しば君の考えは正しいでしょうか。ただ、いつまでも過去の特別受益が、相続人の遺留分に影響をあたえるのは、法律関係が安定しませんでしたが、10年経てば遺留分計算には影響が無くなるようになって、この点は安定しました。相続争いの種がひとつ少なくなったと言ってもいいかも知れません。

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