自分が亡くなった後に、自分の財産を大切な人に移転する方法には、様々な方法があります。死因贈与、遺贈、遺言、家族信託などです。このうち、死因贈与と遺贈は何が違い、どのようなメリデメがあるのでしょうか?また贈与税など税金はどうなっているのでしょうか?杉並区の行政書士が解説します。
死因贈与と遺贈の概要
死因贈与
死因贈与は、甲が「私が死んだら、あなたに○○(財産)をあげます」という意思表示に対して、乙が「あなたが死んだら○○(財産)をもらいます」と受託する甲乙間の贈与契約です(民法554条)。
(死因贈与)
民法第554条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。
遺贈
遺贈は、遺言による贈与のことです。遺言により人(相続人のこともあれば、第三者のこともあります)に遺言者の財産を無償で譲る遺言者が単独で行う意思表示です。遺贈は、贈与の一種ですが、遺留分を侵害することはできません。
(包括遺贈及び特定遺贈)
民法第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
死因贈与と遺贈の共通点と相違点
共通点
〇死亡により効力が生じることは同じです(民554、民985)。
〇撤回できることも同じです。
遺贈は、遺言の一種ですので、遺言者の最終意思が尊重されるため、遺言の方式でいつでも撤回可能です(民1022)。
死因贈与は、相手のある贈与の一種ですので、相手の期待が生じているため撤回に制限があります(民550条)が、遺贈に似た性質もあるので、判例によって遺言者の最終意思が尊重され「遺言の方式」の部分を除いて、民1022条が準用されるものとされています。ただし、負担付死因贈与契約などの場合で受贈者が自分の負担をすでに実施している場合などには、一方的な撤回はできないことになっています。
(遺言の撤回)
第1022条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
相違点
〇方式
・遺贈は、単独行為です。文書である必要があり、かつ、遺言の方式を満たす必要があります。
・死因贈与は2者間の契約です。契約は、遺言のように厳格な方式に従う必要はありません。
〇不動産登記
・遺贈は、生前に登記ができません。
・死因贈与は、生前に仮登記ができます。
〇年齢
・遺贈は遺言の一種なので15歳以上であればできます。
・死因贈与は契約なので18歳以上でなければできません。
死因贈与の不動産登記
死因贈与の対象が不動産であるとき、2者間の贈与契約ですので贈与者と受贈者の共同申請によって仮登記できます。贈与者の死亡後に、受贈者と相続人全員での共同申請で本登記にします。
実務的には、相続人全員の同意を得て共同申請するのは難しいこともあります。その対策として、予め死因贈与契約を公正証書にして執行者を定めておくと、本登記は受贈者と執行者の共同申請で可能となります。最初の死因贈与契約書の作成段階で、最終的な仮登記の本登記をすることも考えて、本登記がしやすい公正証書で死因贈与契約書を作成し、受遺者を執行者にしておけば、事実上の単独登記がスムーズに進めることができます。
死因贈与は、契約時点では税金はかからず相続開始のときに相続税が課税されます。
不動産については、遺贈の場合は不動産取得税はかかりませんが、死因贈与の場合は課税されます。また、登録免許税は、遺贈の場合は、固定資産税評価額の0.4%ですが、死因贈与の場合は2%(仮登記のときは1%、本登記の時1%)かかります。
死因贈与が有効な場合は
遺贈と死因贈与を比べると、厳格な方式が要求されない死因贈与の方が遺贈に比べ法的なリスクは少ないとも言えますが、税金面では遺贈の方がメリットがあります。それでも、死因贈与が有効と思われるのは、以下のようなケースです。
1.遺贈だと遺言者に取り消される可能性がある場合
死因贈与も撤回は可能ですが、契約文書にしたり仮登記をしておくことで、心理的には撤回しにくいものとなります。
2.自分の死後に財産を与える代わりに、生前に受贈者に身のまわりの世話など何かしてもらいたいことがある場合
実際に、受贈者が身の回りの世話や生活費負担など、契約で定めた義務を履行し始めれば、撤回が制限されます。
3.あらかじめ受け取ってもらえることを確かめておきたい場合
遺贈では、遺言者死亡後に、受遺者はいつでも遺贈の放棄ができます。死因贈与では、契約ですので受遺者は受取りを拒否できません。
(遺贈の放棄)
第986条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
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