遺言書は難しいものではありません。ご自分で紙とボールペンで作成することもできます。相続人がたくさんいる場合に、遺言書があると、遺族の方の遺産分割協議が不要になりますし、遺言者から見て公平な財産分配を実現できます。
しかし、遺言書は法的に有効なものでなければいけません。法的に不備のある遺言書を持参しても、銀行は受け付けてくれません。法的に有効な遺言書とするためには、「作成時の注意点」と「開封時の注意点」があります。
遺言書を自筆で作成するときの注意点
遺言書作成の民法のルールを守ること
- 全文を自筆で記載すること
ワープロやパソコンで作成したものは無効です。遺言者がすべて手書きで書く必要があります。ただし、2019年の法改正により、財産目録については自書でなくてもよくなりました。例えば、パソコンで作成した目録や通帳のコピーを添付することが可能です。ただし、その場合、目録の各ページに遺言者の署名と押印が必要です。 - 日付を正確に記載すること
「○年○月○日」と具体的に書き、日付が特定できるようにしてください。「○月吉日」など曖昧な表記は無効になります。 - 署名と押印を行うこと
遺言者自身が署名し、必ず押印してください。実印である必要はありませんが、印鑑の使用が求められます。 -
内容が明確であること
遺言の内容が具体的かつ明確であることが重要です。不明確な記載は紛争の原因となります。<自筆証書遺言の例 本文は自筆、財産目録はワープロ作成の例>
- 訂正方法に注意すること
訂正箇所がある場合、訂正部分に二重線を引き、訂正箇所の近くに署名し、訂正印を押す必要があります。また、訂正した旨を明記してください。
封筒に入れて封印し、「遺言書」と記載すること
遺言書はなるべく、封筒に入れて封印し、「遺言書」と記載しましょう。そうしておかないと、後々、誰かに改ざんされたのでないかという疑いをもたれる可能性があります。また、同じ理由により、死後に必要となる裁判所による「検認」もスムーズにいかないケースもでてきます。
保管場所を決めること
自筆証書遺言は遺言者が保管しますが、最近では法務局による保管制度も利用できます(自筆証書遺言書保管制度)。安全な保管場所を選び、必要に応じて家族に保管場所を伝えることが推奨されます。
民法第968条(自筆証書遺言)
- 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
- 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
- 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
遺言書の開封の際の注意点
遺言書(公正証書遺言、を除きます)の保管者またはこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を受けなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等が立会いをしたうえで、開封しなければならないことになっています。
検認とは、相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
金融機関は、家庭裁判所が検認後に作成する遺言検認調書または検認済証明書によって、検認の内容や検認が行われたことを確認します。
したがって、遺言書が発見された場合、まず以下の手順を踏む必要があります。
遺言書の封印確認と開封の禁止
遺言書が封筒に入っており封印されている場合、勝手に開封してはいけません。
民法第1004条第1項では以下のように規定されています。
民法第1004条
(遺言書の検認)
第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
封印のある遺言書を発見した者は、相続人その他の利害関係人の請求により、家庭裁判所に提出し、その検認を受けなければならない。
ただし、特別法により、「自筆遺言書保管制度」を利用している自筆遺言には検認は不要です。
法務局における遺言書の保管等に関する法律
(遺言書の検認の適用除外)
第11条 民法第1004条第1項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。
開封を禁止する理由
遺言書の改ざんや偽造を防ぐためです。封印がある遺言書を家庭裁判所の検認を受ける前に開封した場合、5万円以下の過料に処される可能性があります(民法第1005条)。
検認とは
検認は、遺言書が偽造・変造されていないことを確認し、内容を明らかにするための手続きです。遺言書の有効性を確認するものではありません。
検認が必要な場合
自筆証書遺言が遺言者の死亡後に発見された場合、家庭裁判所での検認が必要です。検認を受けないと遺言の効力が制限され、遺言内容を実現できないことがあります。
検認を受けない場合の影響
検認を経ない遺言書で相続手続きを進めると、不動産の名義変更や銀行口座の解約手続きが行えない場合があります。また、検認を怠った場合、5万円以下の過料に処される可能性があります(民法第1005条)。
検認不要のケース
遺言書が法務局に預けられている場合(自筆証書遺言書保管制度を利用している場合)は、検認が不要です。
参考 法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」
全銀協 「預金相続の手続に必要な書類」