老人ホーム入居と相続問題 杉並区、練馬区、中野区 | 行政書士中村光男事務所

老人ホームへの入居を検討する際は、前払い金や月額費用の支払い方法が贈与税や相続税にどのように影響するかを十分理解することが重要です。特に、前払い金が高額な場合や入居に伴って実家が空き家となる場合には、贈与や相続税の特例や条件を確認して、税負担を抑えるための計画が必要です。適切な準備をしておくことで、将来的なトラブルを防ぎ、安心して入居に臨むことができます。留意点をいくつかあげます。

前払い金が贈与になる可能性

老人ホームの料金は「前払い金(一時金)」と「月額費用」の2本立てで、前払い金が高額になるほど月額費用は低くなります。

夫婦の一方が他方の入居費用を支払う場合、贈与税がかかる可能性があるため注意が必要です。夫婦間の資金融通が生活費として必要と認められる範囲内であれば非課税ですが、過去には入居費用の支払いが課税対象となったケースもあります。

また、年110万円までの暦年贈与制度の活用も検討材料です。

一時金方式について

多くの有料老人ホームでは利用料の支払い方法として、一時金方式が採用されています。終身利用を前提としているので、家賃相当額を一括前払いしたと考えると、長生きした場合の利点はあります。しかし、万一、ホームが倒産した場合は、入居者は居住の場を失ううえ、返還金もなければ生活の継続さえ困難となります。最近は、一時金として前払い方式で支払うか、月払い方式で支払うかを選択できる施設が増えています。慎重に検討しましょう。なお、有料老人ホームには、一時金の保全措置を講じることを義務付け又は努めることとされています。

出典 https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.lg.jp/sodan/faq/main/186.html

 返金は相続税対象

前払い金は、退去時に返還される場合があり、その際の返還分は相続財産として扱われます。入居一時金返還金の評価額としては実際に相続人等に返還された金額を相続財産に計上すればOKです。

施設側は、想定居住期間を基に家賃相当額を設定し、期間内に退去した場合には一部返還が行われます。返還分は遺産分割や相続税申告時に忘れずに申告が必要となるため、契約時に返還分の受取人を決めておくことが重要です。

小規模宅地等の特例の検討

老人ホームへの入居に伴い実家が空き家となる場合、将来的に相続が発生した場合に、相続税対策として、自宅の土地330平方メートルまで評価額が8割軽減される「小規模宅地等の特例」の適用を検討しておくべきです。なぜならば、実家の不動産が最も高価な相続財産というケースが多いためです。相続税は「3000万円+600万円×法定相続人の人数」の基礎控除を超えた分に課税されますので、土地評価が8割削減されるかどうかは大きな問題となります。

「小規模宅地等の特例」は、相続税が支払えないために、相続人が生活や事業の基盤を失うことがないように、自宅の敷地や事業用の敷地については一定の要件のもとに、評価額を減額できる制度です。最大で80%の評価額引き下げができます。被相続人の居住用の宅地(=特定居住用宅地等)について、国税庁は「「被相続人の居住の用」には、被相続人の居住の用に供されていた宅地等が、養護老人ホームへの入所など被相続人が居住の用に供することができない一定の事由により相続開始の直前では、被相続人が居住していないケースも含む」としています。→該当部分(特定居住用宅地等の説明の注を参照)

<空き家になったときの小規模宅地特例適用の注意点>
・適用には、入居者が要介護または要支援認定を受けていることや、老人福祉法に規定された施設での入居であることが前提です。
・また、同居親族が住み続ける場合は特例が適用されますが、別世帯の親族が移り住む場合は「家なき子(注)」という例外的ケースを除いて、適用外となります。
・配偶者が相続する場合は同居の有無にかかわらず特例が認められています。

(注)小規模宅地の特例の「家なき子」とは

・小規模宅地の特例では、原則として、被相続人の配偶者や同居親族が自宅の土地を相続することが要件となりますが、被相続人と同居していない場合でも、一定の要件を満たせば「小規模宅地等の特例」の適用を受けることができ、この特例は、「家なき子特例」と呼ばれています。主に「3年以上に渡って第三者の所有する家屋に住んでいた被相続人の親族」が特例の対象です。

空き家特例の検討

空き家状態で相続が発生しても一定の条件で売却した場合に「空き家特例」(マンションは対象外)があります。これは、親から相続した自宅が昭和56年3月以前に建築された古い家の場合、空き家のまま、あるいは、敷地にして、相続から3年以内に売却すると、売却益が3000万円も非課税になる制度です。

この特例措置は、平成31年度(令和元年度)税制改正要望の結果、特例の対象となる相続した家屋について、被相続人が相続の開始の直前において当該家屋に居住していたことが必要でしたが、老人ホーム等に入居していた場合(一定の要件を満たした場合に限ります。)も対象に加わることとなりました。

この大きな節税となる特例を受けるためには、各種条件があります。これを知らずに、家屋・土地の譲渡をしてしまうと後悔するかも知れません。

空き家特例の要件 ⇒ 詳しくは別コラム「空家の相続 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

家屋及びその敷地を譲渡する場合 1.譲渡価格が1億円以下
2.相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていたものであること
(平成31年4月1日以降の譲渡については要介護認定等を受けて被相続人が相続開始の直前に老人ホーム等に入居していた場合も一定の要件のもとに対象となりました。)
3.相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者がいなかったものであること
4.昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除く)であること
5.相続の時から譲渡の時まで事業の用、家屋が貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと
6.耐震リフォームし、家屋及び家屋の敷地等を譲渡した場合(譲渡の時に現行の耐震基準に適合していて、リフォームをしない場合を含む)
令和6年1月1日以後の譲渡から、売買契約等に基づいて、買主が譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに耐震改修又は除却の工事を行った場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象となっています。
家屋を取り壊して土地のみを譲渡する場合 上記1~4の要件に加え、

1.相続の時から家屋の取り壊しの時まで、取り壊した家屋が事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと  
2.家屋の取り壊し後、その土地が相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用または居住の用に供されていたことがないこと
3.譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、被相続人居住用家屋の全部の取壊し等を行ったこと。
⇒ 令和6年1月1日以後に行う譲渡に限ります、

参考 空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)(国土交通省)

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