1.遺言執行者とは
遺言執行者は、故人が残した遺言書の内容を実現するために、遺言者に指定されたり、「遺言執行者がいない」「遺言執行者が亡くなった」「遺言執行者になることを拒絶する人がいた」場合等に、相続発生後に家庭裁判所が選任する場合があります。
遺言執行者には、未成年者及び破産者以外が就任できます。
遺言執行者がいなくても、遺言書の内容は全員の協議や裁判等で実現可能ですが、遺言執行者がいれば、遺言執行者単独で出来ることも多くなり、スムーズな遺言書の内容実現が図れます。
2.改正のポイント
(1)遺言執行者の任務の開始ルールができたこと
改正前の民法では、遺言執行者の任務開始や遺言書の内容の通知義務が明文化されていないため、事前に何も知らされず、のちのち不利な相続になった相続人とのトラブルも頻繁にあり得ました。
そこで、遺言執行者の中立と公正さを保つことを目的にして、今回の改正では、遺言執行者の遺言内容の通知義務が明記されたのです。
改正民法第1007条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
(2)遺言執行者の地位の明確化
改正前の民法では、遺言執行者は相続人の代理人という位置付けでした。
しかし、本来は、遺言執行者は相続人の利益のために働くと言うよりは、遺言書を残した故人になりかわって、遺言書の内容を実現することが役割のはずです。
そこで、今回の改正で、遺言執行者は被相続人側の立場であることが明確にされました。
改正民法第1015条 遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
改正前の文言と比較すると、「遺言執行者は相続人の代理である」という改正前の記述は、上記の改正第1015条からは削除されています。
その代わりに、遺言執行者が「『自分は遺言執行者である』と明言して遺言執行のために行動したこと」は相続人に直接の効力がある、と明記されました。
こうして遺言執行者の強い権限を認めたのです。
(3)遺言執行者の権限
改正前の民法では、遺言執行者の権限については「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」となっていました。
遺言執行者が遺言の内容を実現するためには強い権限が必要です。今までの書き方だとこの辺が少し弱いものでした。そこで改正された条項は以下の様に、「遺言の内容を実現するため」という言葉が入りました。
改正民法第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
権限強化の具体例としては、次に述べるように、具体的な特定財産承継遺言がある場合の「相続登記の申請権限」や「預貯金の払戻し・解約の権限」があります。
(4)具体的に権限強化がされた項目
①遺言執行者による相続登記の申請権限
従来は、遺言執行者が遺言で指定されているとしても、例えば、「自宅を長男に相続させる」という具体的な遺言がある場合は、相続開始により当然に、自宅は長男のものになるので、名義変更登記は遺言執行者は権限外であるとされていました。
しかし、本来は、その様な面倒な手続きを遺言執行者に行って欲しいと言うのが遺言者の意図だったはずです。
そこで今回の改正で、この点が改めらました。先程の例のような「特定財産承継遺言」については、遺言執行者が単独で名義変更登記手続きが出来ることが明確になりました。
改正民法 第1014条
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる
なお、特定財産承継遺言であっても、相続人が自身で相続登記を行うことは禁じられていません。
②遺言執行者による預貯金の払戻し・解約の権限
従来より、金融機関の実務上は、具体的な遺言がある場合は、遺言執行者が貯金の払い戻しや解約権限を認める取り扱いが標準であったのですが、明文はありませんでした。
そこで、今回の改正では、正式に「預貯金の特定財産継承遺言がある場合」は、遺言執行者に、預貯金の払戻•解約が認められました。
改正民法 第1014条3項
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
このような規定ができたので、特に遺言の中で、払い戻しや解約の権限を遺言執行者に与えるものとすると言うような記載がなくても、遺言執行者は権利行使ができることになったのです。