相続が発生したときに、相続財産を調査する方法のポイントを財産種類ごとに解説します。

「相続地獄」(森永卓郎著)という面白い本があります。この中に、森永さんがお父様の遺産を探して整理するご苦労が書かれています。私にも似た経験があります。生前に、銀行口座や契約などの一覧リストが整理されていれば遺族は助かるのですが、そういうものがないと大変です。

親が亡くなり相続が発生した直後は、哀しみの中で気持ちの整理もつかないこと思います。役所への届け、葬儀なども大変ですが、相続のために事務的に急いでやるべきこことがあります。

それは、【ヒト】誰が相続人になるのか(相続人の確定)、【モノ】相続財産の調査、【分割】遺産の分割です。

最近、相続の相談に来られた方から相次いで「相続財産の調査はどうすればいいのか?」というご質問を受けましたので本稿では、この【モノ】の調査についてポイントを解説いたします。

相続財産の調査のポイント

相続財産調査が大切な理由

財産調査が必要な理由は、次のような点です。

1.相続放棄するかしないかの判断に役立つ

相続財産のプラスの資産と負債の全てを把握ができていれば、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかの判断が容易となります。負債が多いことに気づかず、相続を知って3か月間何もしなければ、「単純承認」となり、借金を相続します。

参考条文
(相続の承認又は放棄をすべき期間)

第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

2.遺産分割協議がスムーズに進みやすい

遺言がなく相続人が複数の場合は、相続人は全員で話し合って遺産分割協議を行います。相続財産がリストアップされていなければ納得のいく話し合いはできません。遺産分割協議後に、新たな資産が見つかれば、協議のやり直しです。また、協議が整ったあとで、負債の存在が判明すると各相続人が思わぬ借金を引き継ぐことになります。

いつまでに相続財産調査を終えるか

上にのべたように、相続放棄の期限は、「相続を知って3か月」です。また、相続税の申告期限(納税期限も同じ)は「相続を知った翌日から10か月以内」す。

したがって、3か月以内には財産調査を終え「相続放棄するかしないか」の判断をし、10か月以内に遺産分割協議を終えて各相続人が相続税を納めることができるようにしたいものです。

【注意点】
〇被相続人に対してお金を貸していた方が、相続人に相続放棄されないように、3か月立つまでは名乗りでないということもあることです。亡くなった方が借金を隠している場合もあります。借用書や、返済記録などが保管されている場所に心当たりがあれば探して下さい。

〇10か月以内に相続税を納税しないと、無申告加算税(税務調査前に自主的に申告すれば+5%)のペナルティがあることに加え、「配偶者の相続税額の軽減の特例(1億6000万円)」や「小規模宅地等についての評価減の特例(住宅地なら評価が▲80%)」等の重要なメリットが使えなくなってしまいます。(注)

(注)この事態を避けるため、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して納税期限までに法定相続分で計算した相続税を納めることができます。

探すべきおもな相続財産

相続ではプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐので、すべてもれなくリストアップします。ただし、生活保護受給権のように一身専属的な権利は除きます。

1.プラスの資産

プラスの財産 土地、土地に関する権利 宅地、農地、山林、原野、牧場、雑種地、借地権、地上権、賃借権、温泉権など
家、家に関する権利 家屋、庭園設備、倉庫、駐車場、借家権など
金融資産 現金、預貯金、株式、公社債、投資信託など
動産 家財道具、貴金属、書画骨董品、自動車など
無体財産権 特許権、著作権、商標権、電話加入権(注1)など
事業用・農業用の財産 機械、商品、原材料、農産物、牛馬、売掛金など
その他 ゴルフ会員権、生命保険契約に係る権利(注2)、未収配当金、貸付金、未収金(地代、家賃など)、損害賠償請求権など

(注1)電話加入権は少額なので、相続税の納税額にほとんど影響しません。しかし、わずかな金額でも財産の一つです。相続税は、すべての相続財産を申告することになっています。

(注2)生命保険金は、被相続人が保険金受取人のときは相続財産です。相続人の一人が生命保険金受取人になっている場合は、その人の固有財産ですので、相続財産からはずれます。

2.マイナスの資産

マイナスの財 借金 借入金、住宅ローン(注1)
保証債務 保証人や連帯保証人としての地位
公租公課 滞納している所得税、固定資産税など
その他 クレジットカードの未決済分、治療・入院などの医療費未払い分、買掛金、損害賠償などの債務など

(注1)住宅ローンの借り入れの際に、債務者が死亡の場合は生命保険会社が残債を支払う仕組みである「団体信用生命保険(団信)」に加入しているケースが9-10割です。この場合、住宅ローンの残債は0円となりますので、マイナスの相続財産とはなりません。

探す場所と見つかりそうなもの?

ここでは、相続財産が見つかりそうな場所と、そこにありそうなものを列挙します。

机やタンスの引き出し、書棚、金庫など
 〇預金通帳、株券、保険証書、不動産権利証など

郵便物
 〇金融機関から送付されてくる預り資産明細、年間取引明細など
 〇市区役所から毎年6月ごろに送付される固定資産税納付通知書など

預貯金通帳
 〇過去の引き落とし項目から、貸金庫の有無、生命保険、株式、債券、借入金、ローンなど

金融機関取引先、役所など
 〇金融機関・・・取引口座のある金融機関から残高証明(近くに店舗があるなど取引口座がありそうな金融機関へも問い合わせする)
 〇法務局・・・登記事項証明書から不動産担保の借入金の有無が分かる
 〇市区町村役所・・・税務課(東京23区は都税事務所)で、固定資産評価明細、名寄帳(固定資産税を払うべき不動産のリスト)を取得できる。

主な相続財産の確認法

金融機関の預貯金の確認法

銀行口座の有無を紹介するときには、父が生まれて以来すべての戸籍謄本を準備しなければならない。父は全国各地を引っ越して移動の多い人生だったため、戸籍謄本を全部集め切るのは大変な苦労をした。(「相続地獄」森永卓郎著、光文社新書62頁 )

金融機関から見ると「預貯金口座の有無」「預貯金口座の残高」は、預金者(預金者が死亡した場合は相続人)の個人情報なので、問い合わせても簡単に回答してもらえません。

1.被相続人の取引金融機関が分かっている場合

その金融機関に、預金通帳を持参し、預金残高の有無や残高証明の請求をします。必要な書類は、金融機関によって異なります。残高を照会する場合は、多くの場合は「来店者と被相続人の関係」が分かる資料(被相続人と相続人の戸籍等)が求められます。

2.被相続人の取引金融機関が分からない場合

大変な作業になりますが、故人が付き合っていた可能性のある「地元の金融機関」や、「高齢者が使うことが多い郵便局」等に、ひとつひとつ口座の有無を問い合わせていきます。相続時に、被相続人の口座の有無を日本全国の金融機関を一括して調査できる仕組みがあればいいのですが、今のところありません。

問い合わせを受けた店は、同じ金融機関の全ての支店で、被相続人の口座の有無を調べてくれます(これを「全店照会」と言います)。この手続きに、必要な書類は金融機関によって異なるりますので、個別に問い合わせる必要があります。ただ、一般に次のような書類は要求されます。

⓵故人の死亡の事実が分かる戸籍謄本(出生から死亡まで)
②調査しようとする人が相続人であることが分かる戸籍謄本
③調査しようとする人の印鑑証明と実印
④調査しようとする人の本人確認書類

上記の①②はかなりの部数になる場合があります。ただし、平成29年5月29日から始まった「法定相続情報証明制度」を利用可能としている金融機関なら、法定相続情報一覧図の写しが一枚あれば、その一枚を戸籍一式の代わりとして、照会に応じてくれると思います。法定相続情報一覧図は、個人でも法務局に申請できます。時間がなければ、行政書士などの専門家に依頼可能です。

法定相続情報証明制度は,登記所(法務局)に戸除籍謄本等の束を提出し,併せて相続関係を一覧に表した図(法定相続情報一覧図)を出していただければ,登記官がその一覧図に認証文を付した写しを無料で交付します。
 その後の相続手続は,法定相続情報一覧図の写しを利用いただくことで,戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなります。 法務局(「法定相続情報証明制度」について

不動産の確認方法

1.「固定資産税課税明細書」を確認する

不動産を所有していれば通常、毎年6月ごろに固定資産税の納付書が届きます。納付書には固定資産税課税明細書が同封されているので、被相続人あてに届いた書類が残っていれば、不動産所有状況の調査はしやすいでしょう。

2.「固定資産評価証明書」を取得する

ただし、不動産を所有していても、納付すべき税額が発生しない場合(例:所有している土地が公共道路に面していて、不特定多数の人が通行などで利用している場合など)は、納付書などの書類は届きません。また、共有不動産については、通常、共有者を代表する一人に納付書などの書類が送付されます。従って、「固定資産税の納付書」だけでは確認できない所有不動産があり得ます。

そうした場合は、被相続人名義の固定資産評価証明書を取得することで、非課税のものも含めた保有物件を確認できます。単独名義だけでなく、共同所有名義のものも漏れなく取得しましょう。固定資産評価証明書は不動産の所在する市区町村役場窓口で請求でき、郵送でも取得できます。複数の自治体に保有不動産がある場合は、各自治体で取得が必要です(東京23区の場合は、どこの区の都税事務所からでも請求できます)。

【固定資産評価証明書見本(東京都)】

固定資産税課税明細書

3.名寄帳(なよせちょう)を取得する

名寄帳は、不動産所在地の市区町村役場で閲覧・取得できます。
名寄帳には同一市区町村内の不動産がまとめられているので、被相続人が持っている不動産を一覧で確認することができます。

被相続人が不動産を複数持っているような場合に、相続人が全貌を把握しているかどうか不安な場合は、名寄帳を取得して確認するのが有効です。

【名寄帳見本(東京都)】
土地・家屋調査票

※東京23区の場合、固定資産評価証明書は区をまたがっていても一つの都税事務所で取得できますが、名寄帳は区単位となります。
また、取得をする場合は、最新年度(4月から切り替わります)を請求しましょう。

マイナスの財産の調査

1.信用情報機関に開示請求をする

被相続人が、クレジット会社、消費者金融、カード会社等の金融機関に債務が残っていないかどうかは、信用情報機関に信用情報の開示請求をすることで確認できます。

信用情報機関は以下の3社です。3社に加盟している金融機関は同じではないので、結局全社に照会を掛ける必要があります。開示手数料は、各社1000円です。開示請求は、各社のホームぺージを見て、その指示に従って書類を揃えて郵送で申請します。

送られてくる信用情報は、各信用情報機関にデータ登録日現在のものですので、本人死亡時の残高とイコールではないですが、相続放棄の判断には役立つはずです。請求のためには、戸籍等多くの書類が必要です。もし、時間がない場合は行政書士などの専門家に代行依頼もできます。

株式会社日本信用情報機構(JICC) 消費者金融系  https://www.cic.co.jp/mydata/index.html
株式会社シー・アイ・シー(CIC) クレジット・信販会社系  https://www.jicc.co.jp/kaiji
全国銀行個人信用情報センター(KSC) 銀行系  https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/open/

2.不動産の登記事項証明書を取得する

不動産登記の権利欄に抵当権者が記載されていないかを調べることができます。すでに債務は完済しているが、抵当権の抹消手続きがされていないこともありますので、抵当権者に連絡をして現在の残高を確認をします。

3.個人間の貸し借りや保証債務

個人間の契約、法人からの借入などは、上記の信用情報機関に情報が登録されいません。確実な調査方法はないのですが、戸棚や段ボールなどを探して、被相続人の残した書類がないか、地道に調べるしか方法がありません。被相続人が保証人になっていた場合、保証債務も相続対象になることがあります。心当たりがある場合は、被相続人の人間関係や残された資料を調査したほうがよいでしょう。

最後に

ご遺族が相続財産の調査で途方に暮れることがないようにするためにはどうしたらいいでしょうか。

お子様の立場から言えば、冒頭にご紹介した、森永卓郎さんの「相続地獄」の次のアイディアが参考になります。「”親父って預金どれくらいもってんだっけ”といったストレートな聞き方は厳禁。まずは年長者である親へのリスペクトをもって親と良好なコミュニケーションをとれる関係を作ったのちに、言葉の使い方に注意しながら、金融機関と支店名くらいから、徐々に取材できれば御の字(要旨)」というコツです(58頁)。

親御さんとしては、残された配偶者や子供が苦労しないように、エンディングノートのようなものを使って、徐々に自分の資産(せめて口座や保険の種類や金融機関名だけでも)を整理して、ご家族と共有化するようにしたらいかがでしょうか。資産管理アプリに銀行、証券、保険会社の口座を登録し、定期的にリストを家族の分かる場所に保管する方法もあるかと思います。

ぜひ、それぞれのご家庭にあった方法でお考えいただければと思います。

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