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遺言書作成の主な目的は、遺産の分け方を指定することです。遺産を分ける手続きを円滑に進めるため、遺言内容を実現してくれる遺言執行者を指定することも可能です。しかし、遺言書で自分の財産を隅々まで相続人を指定するのは難しそうです。
遺言の財産問答
そこで、友達同士の「しば」君と「ごる」君に話し合ってもらいました。
柴犬のしば君が、考え事をしながら散歩していると、友達の往年の名馬ゴルシ君が専用の放牧場の木製の囲いをかじっているところに出くわしました。
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ごる君、最近気になっているんだけど、遺言書で全ての財産の配分を指定するのは難しくないですか? 預貯金や不動産はいいとして、細かいものまで全部書くとなると大変そうですが……。
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確かに、すべての財産を細かく指定しようとすると大変だし、現実的じゃないね。でも、遺言には大まかな方針を示しておいて、あとは遺言執行者に任せる方法もあるよ。
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遺言執行者って何?
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遺言の内容を実際に執行する人のこと。例えば『預貯金は〇〇に相続させる』『不動産は△△に遺贈する』といった大枠を決めて、細かい動産の整理や名義変更は遺言執行者にやってもらうんだ。
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なるほど。でも、例えば、家具や宝石、骨董品みたいなものはどうしたらいい?
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そういう動産は、遺言に『遺言執行者が適切に分配する』と書いておくこともできるし、『特定の品物は〇〇に遺贈する』と指定することもできる。ただ、遺言執行者の判断基準を具体的に書かないと、遺言が無効になることもあるし、価値が高いものは相続トラブルになりやすいから、できるだけ財産を特定して具体的配分を書いておく方が安心だね。
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でも、遺言を書いた後に財産が増えたり減ったりしたらどうなるの?
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それが遺言を作る上での重要なポイント。財産が変動することを考慮して、例えば『遺産全体の○%を長男に、○%を次男に』みたいに割合で指定する方法もある。そうすれば、財産の増減に影響されにくい。
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確かに、それなら柔軟に対応できそうだね。でも、遺言書を書いた後に気が変わったらどうするの?
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遺言は何度でも書き直せるよ。最新のものが有効になるから、状況が変わったら新しく作成すればいい。特に公正証書遺言にしておくと、紛失や改ざんのリスクも防げるし、安心だよ。
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なるほどね。ちょっとずつ整理しながら、具体的に書いてみるよ。ありがとう!
ポイント解説
遺産の全部を相続または遺贈する場合の遺言の記載方法
遺産の全部を相続させる、または、遺贈する場合は、「私は、全ての財産を妻に相続させる」という抽象的な書き方で、対象となる財産は特定できます。
遺言者が、不動産を2つ持っていた場合、「この土地は妻に、あちらの土地は長男に」というように、登記簿謄本の記載に基づいて個別に記載することが必要です。
不動産の特定でありがちな困りごと
上記のように、登記簿謄本を参照して正確な地番や、建物番号により、不動産を特定し相続人を割り当てると明確ですが、誤記はあると無効になるリスクもあります。また、遺言後に、自宅不動産を売却して介護付きマンションを購入したりした場合など、遺言を書き換えればいいのですが、その時点で認知能力の問題が発生していると遺言も変更できません、
したがって、個別に指定するより「私は私の所有する全ての不動産を【妻】に相続させる」というように、包括的に記載したほうが、誤記や将来の不動産買い替えにも対応できる表現となります。
遺言で金融資産を特定したことによるありがちな困りごと
預貯金も「銀行の口座番号」で具体的に指定する方法もありますが、不動産同様、特定してしまうことで、誤記があった場合や、遺言後に口座が変更になった場合の対応がリスクとなります。
もし、妻に全て相続させるなら「私は、私の有する全ての預貯金を妻に相続させる」と記載するほうがよいと言えます。なお、「私は、私名義のの預貯金の全て」と記載すると、他人名義でしている預金は除かれてしまうのでご注意ください。
財産の具体的な分配を記載しない遺言
夫・妻・長男・二男の四人家族で、夫が遺言で、「私の所有する全財産を、妻、長男、二男に相続させる。ただし、その具体的な分け方は3人で誠実に協議して決めること」という遺言は可能でしょうか?とくに、「その具体的な分け方は3人で誠実に協議して決める」という部分は不明確ではないでしょうか?
このような遺言は、一種の相続分の指定として有効と考えられています。結局のところ、相続人で話し合って欲しいということですので、遺言の意味があるか?という考え方もありますが、少なくとも、相続人以外には財産を遺贈するつもりがないことは明確です。
財産の配分を第三者に任せる遺言
例えば、つぎのような遺言は有効でしょうか?
<例>
・私の死亡時における全財産(不動産、預貯金、有価証券、動産、その他一切の財産)は、遺言執行者が適切に評価・管理した上で、私の相続人および特定の関係者(例:孫、友人、慈善団体等)に公平に分配するものとする。
・分配の基準および割合については、遺言執行者が相続人間の事情や私の生前の意向を考慮し、裁量をもって決定するものとする。
・ただし、法定相続人の遺留分を侵害しない範囲で行うものとする。
遺言者は、相続分の指定を第三者に委託できることになっていますので、可能です。(民法902条は「被相続人は、(前二条の規定にかかわらず、)遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。」としているからです。)
分配を任されるのは、相続人の一人でもOKですが、その場合は、自分の分の配分指定はできないことになっています。
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