死因贈与とは? 遺言との差、メリット・デメリット /杉並区の行政書士が解説 

自分の死後、自分財産を自分の意思で家族や世話になった方々に配分する方法に、遺言と死因贈与があります。

例えば、お父さんが、自宅を長男に継がせたいと思った時を考えます。

遺言は、単独行為ですので、長男の承諾は必要ありません。長男に秘密にしておくこともできます。ただ、遺言は、法律で決めた様式を守らないと、法的に無効になってしまうリスクがあります。

死因贈与は、贈与する側と受け取る側の私的な契約ですので、双方が合意する契約が必要です。ただ、死因贈与は遺言のように、法的に決まった様式はありませんので、契約が無効になるリスクは低いものです。

民法では、死因贈与はその性質に反しない限り遺言と同様に扱われます。以下に詳しく解説します。

死因贈与契約の例

一般的な死因贈与契約の文例です。簡単ですし、証人等も不要ですので、遺言の様式をしっかり守る時間がない緊急な場合でも締結可能です。

一般的な死因贈与契約
第1条 贈与者〇〇〇〇(甲)は、甲の死亡によって効力が生じ、死亡と同時に所有権が受贈者〇〇〇〇(乙)に移転する者と定め、令和〇年〇月〇日、甲所有の下記土地(本件土地)を、無償で乙に贈与することを約し、乙はこれを受託した。
      (土地の表示)
所   在  ***県**市**町
地   番  **番**号
地   目  宅地
地   積  ***.**㎡
第2条 甲及び乙は、前条記載の不動産について、乙のために、前条の死因贈与を原因とする始期付所有権移転登記の仮登記をするものとする。(⇒仮登記申請承諾条項
2 甲は、乙が前項の仮登記申請手続きをすることを承諾した。
3 仮登記に要する費用は、乙の負担とする。  
第3条 甲は、下記の者を本契約の履行執行者に指定する(受遺者の乙を指定可能)。
住   所 **県**市**町**番**号
職   業 ****
氏   名 ****
生年月日  昭和**年*月**日

死因贈与契約のメリット

民法554条は「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与(=死因贈与)については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。」とします。しかし、契約である死因贈与は、単独行為の遺言(遺贈)とは差があり、そのため次のようなメリットが生じます。

〇受贈者の権利の保護が図られます。

 遺言は、受遺者に断る必要なく撤回できます。

 一方、死因贈与契約も、本人による撤回は可能ですが、受遺者に内緒ではできませんから、心理的な意味である程度のハードルがあります。また、死因贈与の背景にそれなりの事情がある場合は、撤回を認めて受贈者の期待に背くことが不公正であるとして撤回自体ができないとされています(判例)。

 なお、書面化されていない贈与は、各当事者が解除をすることができるという民法の規定(550条)がありますので、契約書は交わしておく必要があります。これは常識的かと思います。

〇不動産については、受遺者が仮登記できます。

 遺言や遺贈、相続では、もともと受遺者や相続人には期待権はないので、遺言者の死亡前に仮登記はできません。一方、死因贈与契約では、受遺者が不動産の所有権を得る権利は契約で保証されているので、贈与贈与者の生前に始期付所有権の移転の仮登記を受けることができます。(不動産登記法60条)
 
 しかも、死因贈与契約を公正証書として作成し、その中で、受遺者が単独で仮登記できる旨(仮登記申請承諾条項)を記載しておけば、受遺者は公正証書の正本または謄本を添付するだけで、単独で仮登記申請ができます。

〇死因贈与契約には証人が不要です。

 公正証書遺言では、証人2人が必要です。適切な証人が見つからないとか、人に知られたくない、または手配の時間がないなどの場合には、贈与者と受贈者の2名でできる死因贈与契約の利用が考えられます。

死因贈与契約の注意点

〇不動産登記の費用が高い
 死因贈与により不動産を移転すると、登録免許税は2%です。遺贈による移転のときは、相続人の場合0.4%、相続人以外の場合2%の登録免許税です。このため、相続人に不動産を死因贈与により移転する場合は、登録免許税が高くなります。
 
〇遺留分は侵せない 
 死因贈与契約であっても、相続人の最低保証である遺留分は侵せませんので、他の相続人から遺留分侵害請求を受けることはあります。これは、遺贈と死因贈与で異なることはありません。

〇相続税が課される 
 死因贈与の場合、 受贈者に課される税は、贈与税ではなく相続税です。したがって、10か月以内に相続税申告書を提出して相続税を納税する必要があります。死因贈与の受贈者が一親等の血族および配偶者でない場合は、相続税の2割加算のルールが適用されます。

〇履行執行者を決めたほうがよい
 死因贈与契約は、契約ですので、贈与者が死亡後の履行義務者について何も決めておかないと、相続人が履行義務者となりますので、手続きが円滑に進みにくくなる恐れがあります。
このため、死因贈与契約の中で、履行執行者を決めておくとスムーズです。履行執行者は、受贈者でも、第三者でもよいとされます。 

まとめ

死因贈与契約は、契約ですので、双方の合意で、ある程度自由に設計できます。例えば、贈与者の生活の面倒を一生涯見ることを、贈与を受ける側の負担にすることもできます。ケースによっては、使い勝手のいい仕組みです。法的には、気をつけたいポイントもあります。当事務所では、死因贈与契約の文案作成のお手伝いをいたします。

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