Q、お父さんが亡くなった後に、仏壇の奥から封印された遺言書が出てきた!こんなシーンを想像してください。そのとき、ご家族が遺言書の封筒を開けてしまったら、遺言書は無効になってしまうのでしょうか。
A、結論から言いますと、遺言書は開封されたからと言って、それ自体で無効にはなりません。ただし、そもそも、その遺言が法定要件を満たしていなければ、遺言書は無効です。また、民法により開封した方には5万円の科料が課されます。
自筆証書遺言の保管者又は発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認(※)」を請求しなければなりませんので、注意が必要です。
(※)検認とは、遺言書の偽造や改ざん防止のため、加筆や修正の状態、日付や署名などを確認してもらう手続きです。
封印された遺言証書を開封してまったら
民法には、次のような規定があります。つまり、有効な遺言書であれば、開封されても無効になるとは書いてありません。
・1004条1項(公正証書以外の)遺言の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
・同条 3項 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
・1005条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。
検認が必要な遺言書とは
遺言書には以下の3種類があり、自筆証書遺言と秘密証書遺言の2種類は家庭裁判所の検認が必要です。
〇公正証書遺言(検認不要)
〇自筆証書遺言(検認が必要)(※)
〇秘密証書遺言(検認が必要)
(※)ただし、法務局において保管されている自筆証書遺言については検認が不要です。
家庭裁判所での検認手続きの流れ
「検認」は、家庭裁判所で行われます。その目的は、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。
遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
家庭裁判所での検認の手続は、通常は以下のように行われます。
① 検認の申立てがあると、相続人に対し,裁判所から検認期日(検認を行う日)の通知をします。申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは、各人の判断に任されており、全員がそろわなくても検認手続は行われます(申立人には、遺言書、申立人の印鑑、そのほか家庭裁判所の担当者から指示されたものを持参していただくことになります。)。
② 検認期日には、申立人から遺言書を提出していただき,出席した相続人等の立会のもと、裁判官は、封がされた遺言書については開封の上、遺言書を検認します(封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。)。
③ 検認が終わった後は、遺言の執行をするためには、遺言書に検認済証明書が付いていることが必要となるので、検認済証明書の申請(遺言書1通につき150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要となります。)をすることになります。
検認にかかる期間は意外と長い
家庭裁判所で行われる検認ですが、遺言書の検認を申し立ててから検認期日までの期間は、だいたい1~2カ月程度です。しかし、検認の申し立てのためにはたくさんの戸籍謄本類が必要となるので、準備にも1カ月程度はかかってしまう可能性があります。 遺言書発見から検認の手続きを終えるまでは、2~3カ月程度はかかると見たほうがよいと言われます。
こうなると、困ることがあります。例えば、相続放棄や限定承認の期限は、相続開始から3か月です。また、相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています。
したがって、相続手続きをスムーズに進めるためには、自筆証書遺言を発見した場合は、速やかに家庭裁判所の検認手続きの準備を始める必要があります。
まとめ
作成が比較的に手軽にできるのが、自筆証書遺言ですが、このように、法のルールにそって有効に作ったとしても、検認手続きなど、相続開始のスタートを切るにはやや面倒な手続きが必要となります。
遺言書を作成するなら、検認が不要で法的に無効になるリスクがほとんどない公正証書遺言か、自筆証書遺言であれば、法務局への保管制度を使うのがベターと思います。
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