生前贈与は一回ごとに契約書を(定期贈与にも注意)

 相続税の節税方法の一つが、生前贈与です。

 贈与税は1年間にもらった財産の合計額から、110万円の基礎控除を引いた残額に、税金がかかります(暦年課税)。

 相続税は、基礎控除が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」と大きく、また、「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」などの特例があるうえ、税率も、贈与に比べて低いので、同じ金額を相続人にわたすのであれば、贈与よりは相続で渡したほうが、通常は断然有利です。

 しかし、贈与も、年間110万円以下であれば、「無税で何回も贈与できる」というメリットがありますので、この点を生かした節税も可能です。

 1年間に贈与を受ける金額が110万円以下であれば、申告も不要ですし、税金もかかりません。生前から少しづつ、相続人に1年間で110万円を超えない様に財産を相続人に贈与すれば(暦年贈与)、将来の相続財産を少しづつ減らすことができるわけです。

 ただし、生前贈与は、「あげる」側と「もらう」側の契約ですので、そのような実態と、客観的証拠が必要ですので、注意が必要です。

 このような生前贈与ですが、以下のような注意点があります。

1.  生前贈与も契約です。あげる側ともらう側の双方の合意(契約)が必要です。

 一方的に、相続人名義の預金を作って、お金を振り込んでおくなどは、双方の合意がないので、贈与になりません。このため、生前贈与の際にはその都度、契約書などで双方合意の贈与である事実が証明できるようにしておきたいものです。

 また、妻が夫の給与からコツコツとへそくりをしていた場合を考えると、そこに「あげる」「もらう」という意思の合致があったかどうかが問題になります。もし、そのような実態がないのであれば、やはり、それは夫の財産であるということになってしまします。

 なお、後々問題にならないように、あえて贈与の基礎控除である110万円を超える贈与をして、超過分をきちんと贈与税申告をしておくと、贈与の事実が証明しやすいともいわれるようです。

2. 贈与した財産は、もらった側が自由に使えないと、贈与が成立しないと判断される恐れがあります。

 贈与財産は、「もらった」という実態が必要です。例えば、親が子供名義の口座を作って、通帳や印を管理し、親が銀行に定期的に行って、子供名義で貯金をしているような場合は、「名義預金」として、生前贈与は認められません。

 また、子供が遠隔地で生活しているのに、通帳は親の近所の銀行の支店で作成しており、ながらく支店変更もしていないとなれば、やはり、実態はどうなのかという疑問が出てきます。誰からもわかりやすく、贈与を受ける側が通帳を管理し、いつでも自由に使えるものにしておかないといけないということになります。

 

3. 相続開始前の3年以内に贈与は相続税の対象となります。

 相続開始前3年以内に、生前贈与された財産は、相続税の対象に加えられてしまいます。これは、相続税対策のための駆け込み生前贈与を防ぐ目的です。したがいまして、生前贈与を行うのは、被相続人がお元気なうちから時間をかけてコツコツと行うスタイルが良いようです。

 なお、相続開始前の3年以内の生前贈与であっても、「贈与税の配偶者控除の対象となる贈与」、「直系尊属からの住宅資金の贈与」、「直系尊属からの一括贈与(教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与)」などそれぞれ一定の要件を満たすものは、相続税に加算されません。

4.定期贈与と判断されないようにすること

 定期贈与とは、「一定期間、一定の給付を目的に贈与を行うこと」です。例えば、毎年100万円を10年間贈与し続けることを最初に取り決めて、定期的に実行するケースです。このような場合、最初から1000万円の贈与契約があったとみなされて、贈与の合計額に贈与税がかかってしまいます。贈与税は、相続税よりかなり高額になることがあるので要注意です。

 一方、取り決めはせずに、結果的に毎年100万円を10年間にわたり贈与し、合計で1,000万円になったという場合は、贈与税はかかりません。この場合は、「連年贈与」と言います。

 「連年贈与」を「定期贈与」と誤解されないためには、一回一回の贈与に契約書を残すこと、毎回同じタイミングで、同じ金額の贈与を避けることなど、あえて110万円以上の贈与をして超過分を納税するなどの工夫が有用かと思います。

まとめ

 相続税の節税対策の基本的な考え方は、①財産そのものを減らす ②財産の評価額を下げる ③さまざまな制度を利用する、です。

 このうち、「①財産そのものを減らす」の代表的手法が、暦年課税による生前贈与です。生前贈与は単に節税に役立つだけでなく、もらう側にとってもお金を使いたいときにもらえるというメリットもあります。

 相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×相続人の数)以上の資産があり、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を使っても、相続税の納税が必要になるようなケースでは、生前贈与も一つのオプションとして検討するのもよいかと思います。